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ティモンとプンバがいないとライオンキングは寂しいじゃないか

こんばんは。今日もカンボジアの真ん中コンポントムからSambor Villageです。
今日は最近のよもやま話を。Sambor Villageにきたことがある方はぜひ、リアルな現場を想像しながら、これからの方は、いつか来る日を脳内妄想しながら、ぜひ。

数日おきにプノンペンとコンポントムを移動する生活が続いているこのごろ。
2日ぶりにプノンペンから戻ってきた日の出来事です。

長く代用品でなんとかしていたコーヒーメーカーのグラスを新調したので
意気揚々とみんなに見せながら、クメール語で喋っていたら
お客さんが多い=ピニューチュラーン
の“チュラーン“がコンポントム発音じゃなくて、プノンペン発音になっている!といつも喧しい朝番チームからツッコミが。本題そこじゃないぜ、ベイベー。

最近、プノンペンばっかり行っているから、染まっちゃってあー全く嘆かわしい、といじってくる。まあ、そんなのではこちらもへこたれないので、数少ないプノンペン言葉コレクションを駆使してシティーピーポー演出で打ち返す。

続いてお昼。久しぶりに食べるザ・クメールな賄いが美味しくて、
「今日の冬瓜のスープ、美味しいわ」と言ったら、
「え、ボス、今なんのスープって言いました??」
「ん?もう一回言ってください、これはなんのスープ?!」
と、再び出てくるいつもの2人。

え・・だから、冬瓜のスープ・・。じゃないの?・・あれ・・?

「ああ、このひとは・・・もうパパイヤの味を忘れちゃったのよ!」
「ボス、プノンペンでバーガーばっかり食べてるんでしょ!わかってるのよ!」
とか言い、どっかの歌劇団ばりの抑揚と臨場感で、賄いをつくったキッチンチームにまで大声で伝えている。
「わかった、ごめん。謝るよ、パパイヤに。忘れたわけじゃない、決して。
でもさ、今日のパパイヤ、すんごく冬瓜よりだと思わない?」
「いえ、全然。完全に100%パパイヤです。」撃沈。

とまあ、このように、いちいち小芝居と小ネタが挟まるのが朝番メンバーの常。賑々しくていいのだけれど、学生のようにキャッキャしている姿を見ると、おいおい〜、おーい!と思わないときがないこともない。責任感強め、しっかり者揃いの夜番メンバーに比べると、そのパフォーマンスはやや脇が甘い。

でも、でもですよ。
時にその笑いを生み出す力が、とっても大事な時もある。

同じ日の午後。お客様と町のtuktukのおじさんとの間に、ほんのちょっとしたトラブルが。ことの全体像は単純で、英語しか話せないお客さんとクメール語しか話せない新人tuktukドライバーのおじさん(tukのキャリアはあるが、観光客を乗せるようになったのは最近)の間で言葉が通じず、Sambor Prei Kukでの遺跡体験がちょっと損なわれたということだった。事前にお客様には英語が通じないこと、それを補うためにコミュニティガイドさんと同行することを勧めたものの、どれもうまく機能しなかったようだ。

ホテルに戻ってきたとき、両者の間に入って交通整理をした私たちに「今後は英語が通じるドライバーを紹介した方がいいと思うわ」とお客様が何気なく言った。その一言が、地方で生きる私たちの心にカリッと爪を立て、思わずフロントスタッフと2人で顔を見合わせた。

ただでさえ暑い中、言葉が通じないことがストレスになる気持ちはわかる。
観光最前線アンコール遺跡群を経験してからここにきたお客さんにとって「英語が話せるドライバー」が口をついて出るのはとても自然なことだと思う。
お客さん自身も穏やかな方で、ホテルでの滞在も楽しんでくれた。

でもその不意の一言を受け取って、歩いていくお客様の背中を見送りながら、隣にいたフロントスタッフがちょっと泣きそうな声で言った。

「この町で英語ができる人は、tuktukのドライバーなんてやらない。みんな出稼ぎに行っちゃいますよね・・」

そう。カリッとした傷の正体はこれだ。
観光の町Siem Reapではtuktukドライバーは、稼げる仕事のひとつであり、言語と才覚を武器に、のし上がっていく登竜門的な意味合いすらある。一方、この町では違う。学がないから俺はこれしかできないんだ、と本人たちがいうタイプの仕事だ。
英語ができるレベルの学力層の人たちは、プノンペンやその他のチャンスのある別の町へ出る。普段、この町の美しさを伝えているけれど、その裏側には“地方が抱える歴然とした現実“もある。

隣では、EQの高いカンボジアの人がもつ特有の空気読み力でお客さんの感情を察したtukのおじさんもしゅんとしている。
クメール語ならば、彼はものすごく気遣いの人で、とても穏やかで、優しい。

日頃のラーさん。特にちびっ子に大人気。じいじポジション。

その人柄が伝わったならば、今日のお客さんの体験はきっともっと違った。
仕事を終えたときの彼の表情も、同じくもっと違ったはずだ。
それが悔しい。
訪れる人と受け入れる土地の人、相互がこの土地で良い時間を体験する。Sambor Villageで目指していることが、今日はうまくいかなかった。

観光という産業に携わるならば、道具としての英語は当たり前。それもわかる。
でも同時に、ここはカンボジアの地で、クメール語の世界なんだ、と叫びたい。
言語が通じないことがその人への理解を変えてしまう。
その悔しさ、やるせなさ。
意図ぜず放たれた言葉が思い出させた、地方の町の現実。

次は、こうしよう。
私たちが仕組みで助けられるところもあるよ。
だから大丈夫、心配しないで。これからも一緒に仕事しよう!

そう伝えて、少し背中を丸めたおじさんを見送ったあと、言葉とは裏腹に私にもフロントスタッフにも気持ちにまだ弾みがない。ぴとっと張り付いた悲しさが拭えないまま、表から戻ってくると。

例の朝番メンツの1人が「・・・暑い」と扇風機の直下にへばりついている。
あまりの暑いアピールに「溶けすぎだろ」とツッコむと、その隣の何もない空間から「イヤ、今年は正直限界です」と声が聞こえる。
「え、そこにいるの?!」と一瞬怯むと、本当に映画のシーンみたいにバーカウンターの下から、ぬっともう1人が汗まみれの顔を出す。
そのタイミングと気配の消しっぷりに思わず笑ってしまう。
「なんだよ〜!誰もいないと思ったよ!」
「もう、溶けてなくなる寸前ですよ。ていうか、ボスは敷地から出ないからまだいい。私たちがバイクで家に帰る時間、もっとすごいからね!」
「そうそう、私なんかもうすぐお供え用の焼き豚になっちゃう!」と、シルエットがころんとしている1人がいう。
その表現があまりにも本人にフィットしていて、堪えきれずみんなで爆笑。
近くにいたお客様にも劇的意訳をして、一緒に笑う。

ひとしきり笑ったら、さっきまでの悲しさがどこかへ飛んでいった。

よし、ラーさん専用の指差し会話帳でもつくるか!
と、事件を共有したスタッフと作戦会議。気持ちが前を向いた。

こういう芸当は、彼ら特有のもの。
のび太が出来るやつだったらドラえもんはいらないし、ライオンキングの物語にハクナマタタは欠かせないし、甲六がちょっとへっぽこで憎めないからおトキさんが輝く。ろうそくと時計のおじさんコンビがしっかりしちゃってたら、ポット夫人の出番がなくなっちゃう。

よく言われる働くアリと何もしていないように見えるアリの8:2の法則。
あれって、絶対、人間にわからないだけで、2割にも大事な役割があるんだよ。
わからないから、ないという言葉で片付けられているだけで。

ちょっと人数ダブついたって、大事な余白は失わない。
余白は平時、白くて、見えない。
でも。
世界が黒で埋められそうなときに、その白さが輝くんだよ。

何より、みんな、やるときはめっちゃやるんだよね。
のび太だって、ティモとプンバだって、そうじゃないですか。

いつかここにきていただいたとき、大活躍しているSambor Villageのチーム・余白のお届けする小芝居と小ネタの数々を楽しんでもらえたら幸せです。

なんだかんだ、朝の空気をつくっている看板の2人

2024.4.7 酷暑のコンポントムはもうすぐお正月

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