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さっぱり分からない世界を仕事にしてみる

高校1年のときに6点を取って以降、永遠の別れを告げたはずの化学君と、不惑を前に、もう一度付き合うことになろうとは思いもしなかった。

新聞社を退社後、やっぱり書きたいと思い、書くのであれば、新聞社で経験しなかった「サイエンス」を取り上げたいと思い、今の会社に入った。難しいことを平易に書くことが、「物書き初級」の登竜門であり、これができたらある程度の応用がきくライターになれると思ったからだ。

会社は技術系の出版社で、主に企業向けにジャーナルを発行している。私の仕事は、企業や大学の研究者が手掛ける新しい技術開発を取材して、読者に伝えることだ。

ただ、実際に始めてみると、あまりに聞き慣れない言葉のオンパレードで、当初は、ICレコーダーの音声を一言一言聴き直し、調べて、悩んで、最後は取材先へ聞き直すという恥ずかしいプロセスを繰り返していた。

高校化学の図解を買い、「大学の授業についていけない理系の本」とやらも買ったが、ただ読んだだけではさっぱり分からないので、図解をノートに丸写しして覚えるといった古典的な手法を取り始めた後、少しずつだが理解できるようになった。

インタビュー時も、ペンを握りしめながら「なるほど、水素の次はヘリウムですね!」という具合に前のめりで聴いていたので、心優しい研究者の方は「コイツ、ダメだけど、仕方ないから教えてやるか」といった具合(想像)に丁寧にお付き合いくださり、おかげで化学6点の私でも、何とか仕事になっている。

これ、文系に置き換えると、世界史6点の歴史ライターみたいな存在で、決して安心できたものではないが、その不安定さが逆に功を奏しているのではないかと思う面もある。

まず、プライドがゼロである点だ。

多少知ったことなら、「ちょっと違うんじゃないですか」と口にせずとも顔に出たりする私だが、もうこの世界はさっぱりなので、まずは相手の話を一生懸命、真摯に聴く。

出来上がった原稿に対して指摘(赤字)が入っても、なるほどと素直に受け入れ、「また一つ賢くなったよ」と超前向きに捉える。

結果、それを続けることで自ずと、笑顔が増える

物臭のくせに知りたがりな私にとって、どんどん新たな情報をくれる取材先は、「神」のような存在だ。話すほどに楽しく、笑顔が増えていき、笑顔が増えると場が和み、会話が弾んで、人間関係も深まっていく。

極端な話、2時間の取材であれば、1時間は雑談であることも多い。話が乗ってくると、「さっきの〇〇ですけど、△△という理解で良いですか?」と、尋ねにくかったことも聞けるようになる。

これ以外にも、違う分野の方は、特徴的な言葉遣いをされることがあり、それがまた勉強になる。ものづくりにおけるネガティブな化学反応を「〇〇(要因など)が悪さをする」と表現するが、致命的な欠陥であっても、子供のイタズラのように言うそのギャップが可愛らしく、「今度どこかでこの表現を使ってやろう」とこっそりメモを取ったりする。

仕事を邪魔するものは、上司の小言や手の焼ける部下だけでなく、自分の中にもある。プライドだったり、先入観だったり、馴れ合いだったり。それを排除できる1つの手法として、嫌いにトライしてみた私の経験談をお話しした。お役に立てれば幸いだ。

#化学 #世界史 #さんだるさんばる #文章の書き方 #仕事の仕方