新型コロナウィルスに関する非難・炎上
FBに投稿した文章をペーストします。読みにくく、編集しにくかったのと、その後、岩田先生や高山先生とのやりとりもあったので、編集・追加をしました。なお、誰かを傷つける内容があれば教えてください。それが目的ではないので、その場合には修正・訂正・削除します。
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友人である岩田先生も、高山先生も、橋本副大臣も、この緊急事態を乗り切り、収束させるという共通の目的をもって最大限の努力をされていると思いますが、それぞれに思わぬバッシングや批判を受けているようで、見ていてつらいです。本来、外部者は口出しすべきでなく、かえって火に油を注ぐことになるかもしれませんが、ここから教訓を学んで、将来につなげる必要があると思ったので、コメントします。
まず、緊急事態、健康危機では思いもよらないことがたくさん、同時に起こるので、状況を把握するまでに時間がかかります。迅速評価(Rapid assessment)によって数時間から半日で状況を把握することもできますが、問題は一元的なものではなく、多元的に複雑に入り組んでいるので、それを正しく理解し、その解決のためにどこが障害となっているのか、律速段階になっているのか、それを解決するにはどこのボタンを押すべきなのか、どこを突っつくのがよいのか、など答えを出すにはそれなりの時間がかかります。
外部から緊急支援に行く場合の大原則として、現場に行ったらまずは現場の声に耳を傾け、じっくり観察すること、すぐにアドバイスや指導をしてはいけない、ということです。特に専門家には、現場で様々な「粗(あら)」や「足りない」ところが見えるものです。特に、緊急フェーズの初動の少し後に現場に入ると、これもできてない、あれもできてない、こんなんじゃだめだ、といろいろ見えてしまうものです。
緊急事態が発生した後、様々なフェーズがあり、どこで支援に入るかによって見え方が違います。しかし、初動からしばらく経ってから現場に入って、すぐにこれはできていない、あれもできていない、と言ってしまった時に何が起こるかというと、現場からの強い反発です。現場の状況もわからずに、批判だけして帰っていった、となることが多いです。
私も以前、同じことをして失敗しました。正しいことを言っているのに、なぜわかってくれないのだろう、と、悔しい思いをしました。そのため、緊急支援では短期間だけ現場にいくのでなく、できるだけ早期に、しかも長期間、その場で働こうと思いました。
ですから、ミャンマーのサイクロン(15万人死亡)やサフラン改革(軍部と僧侶・一般市民との衝突)では3年間、ソマリアの紛争・コレラなどの感染症流行でも3年間、東日本大震災では2,3カ月、現場で指揮をとりました。ペルーの日本大使公邸人質事件では単なる医療班の一員でしたが強行突入を前後1か月を現場で過ごしました。
そんな中でわかったことは、正論やエビデンスを掲げることは絶対的に必要だが、それだけでは現場は動かない、動かせない、緊急事態は乗り越えられない、ということです。わかってはいるが、それを徹底するには多くの障害や困難があるからです。
私の経験では、物事の成功は戦略10%、オペレーション90%です。理屈がわかっていても、その実現にはロジから調整、各方面の説得などオペレーションでの問題が多々あるからです。
たとえば、身近な例として、東日本大震災。ある避難所で、被災者に菓子パンやカップラーメンばかりが配られ、栄養調査でも摂取カロリーがスタンダードよりもかなり下回っていました。炊き出しをしたり、弁当を配ればいいだろう。だれもがわかっていましたが、避難所(体育館)の管理者は「ここでは屋内はもとより、外の庭でも火を使ってはいけない決まりがある」と頑なに断り続け、県内だけでなく県外の弁当業者を探したが、なかなか毎日作ってその被災地まで届けてくれるところはありませんでした。
自衛隊やボランティアでどうにかなるだろう、と思うかもしれませんが、ひとつの町でも数千人。それを毎日確保するのはそう簡単ではなく、最低限の栄養を提供するには1か月以上時間がかかりました。
例を挙げるときりがないのですが、「なすべきことはわかってはいるが、すぐにはできない」、そしてしばらく「カオス」の状態が続く、ことがあるのです。
もちろん、この「カオス」の状態からどれだけ早く脱出させるかが、緊急支援の「腕の見せ所」であり、その効率と効果を上げていく必要があります。
ただ、数時間の滞在で見えるSnap shot では、事実やファクトは見えても、なぜそうなっているのか、またカオスから抜け出せないのか、という背景やその理由、因果関係がなかなか見えないものです。これは疫学調査でいう横断調査(Cross-sectional study)と縦断調査( Prospective study) の違いに似ています。
その問題の所在を「マネジメントの不在」と言うのは簡単なのですが、マネジメントにはリーダーシップ、資金、人材、技術、情報、調整など様々な要素があり、どの部分が不足していたのか、本来はしっかりとした分析が必要です。
日本は往々にして、政府が悪い、行政が悪いと言いますが、私はそのような人々がどれほど夜を徹して働き、真剣に現場の問題解決に向き合ってきたかを知っています。
話がそれますが、東日本大震災では、ある町の保健師は自分の子どもが津波で流されて死亡しても、涙も見せずに、昼夜を問わず避難所で緊急支援をしていました。そんな避難所に東京の有名大学病院から准教授以下専門の医療チームがやってきて、「この避難所の医療状況はどうしようもない。我々がきちんと整備してやる」といって、診療所を開設し、1週間で帰っていきました。
正論、エビデンス、知識、そういったものももちろん必要ですが、さらに現場に必要なのは、現場で対策にあたっている人たちが困った時に相談にのってくれて、一緒に手を動かしてくれる「頼れる人たち」です。
さらに、支援者同士のチームワーク、「信頼関係」です。
緊急援助においても、日本は特に「和」「調和」が必要ですが、実はこれは海外でも同じです。
私はミャンマーやソマリアの災害時に、世界中から駆け付けた国連やNGOなどの多国籍の専門家や支援者を取りまとめるクラスターアプローチの調整役をやったことがありますが、ここでもお互いを尊重し、信頼を築き、連携する「調和」がとても重要です。時に、というか往々にして、他人や他団体を尊重せず、自分の主張だけをし、連携・協力ができない個人・組織もありました。専門性や経験値が高くCredibilityがあっても、Trustを得ない、ということもありました。
緊急事態では、正しいことでも、感情的に発言したり、誰か、または組織の批難や批判につながる発言はご法度です。緊急時には多くの人々の精神が高揚しているので、ついつい感情的かつ攻撃的になりやすくなります。が、それでは相手を傷つけるだけで、相手も意固地になって、伝わらない、変わらないことが多いのです。
大切なのは、これまで、また現在従事している人々の活動を尊重し、敬意をもって接する、そこで信頼関係を作りながら提言していくことです。
ただし、正しいことをいうことも大切です。初動が間違っていると、またその後の判断が間違っていると、とんでもない結果につながるからです。
今回のような緊急事態の目的を一言で説明すると、「犠牲者を最小限に抑える」ということです。この犠牲者も、「死者を最小限に抑える」ことが最も重要ですが、そのほかに感染者、風評などで社会的・経済的被害を受ける人、なども犠牲者に入ります。
したがって、「正しいこと、正論をきちんと聞く耳を持つ」「課題があれば、それを早めに矯正する」のも危機管理の重要な原則です。
その意味で、岩田先生のような専門家の意見を聞く耳があったか、批判ではなく、提言を聞く度量があったか、メカニズムがあったか、というのはきちんと検討し、次につなげる必要があります。
岩田先生も、この問題点をYouTubeではなく、友人・知人で対策本部内、またはそれに進言できる人に伝える、などのやり方があったかもしれません。これは直接、私は岩田先生に伝えました。現場に数時間しかいれず、信頼関係を作る時間もない、それでも専門家として伝えるべきことは伝えるべき。ただし、その方法によって受け入れられることと、受け入れられないことがある、ということです。
YouTubeで、それも英語も含めての発信というのはすごいインパクトでした。それが海外のメディアにどのように受け止められ、どのような形で拡散しているか・・・。このインパクトはいい意味でも悪い意味でも、「破壊的」と表現してもいいかもしれません。
YouTuberの視点から見ると成功でしょうが、日本の社会的信用、経済的損失への影響という視点ではネガティブな点もあったと思います。これはリスクまたクライシス・コミュニケーションという視点で大きな学びがあったと思います。
私は岩田先生や高山先生のような日本の逸材が、本件でつぶされないことを望んでいます。お二人は共に優秀で、レジリエンスが強い、打たれ強いので大丈夫だとは思いますが、私の友人・知人の中には(日本人、外国人を含め)、このような局面で潰されて立ち直れなくなった人が結構います。あれだけの優秀でできる人、活用次第で、日本の将来を背負っていける、日本や世界の危機を救ってくれるかもしれない人々が、つまらない批難・中傷で使えなくなった、使われなくなった例があります。
今回の件は確かにいくつもの反省材料はあるので、それらは感情抜きで、分析・整理して、教訓を導き、次の備えをすべきです。ただし、状況もわからない第三者が、感情的に彼らを批難・中傷することはすべきことではありません。(私も状況もわからない第三者で、同じことをやっているかもしれませんが、逆に、第三者だから言えることもあると思って、敢えて発言しています。したがって、誤認、誤解があれば、ご指摘ください)
岩田先生が、日本は多様性を認めないのかと言ってました。欧米に比べて多様性を認めないのは客観的な事実だと思います。これは多様な人々をクリティカルマス(できれば3割程度)参加させることで変化していきます。
欧米では、岩田先生のように頭が切れて、歯に衣を着せずにバリバリ発言する専門家は多いので、その専門性や個性をうまく活用できるかできないか、というのもマネージャーの能力のひとつです。私の組織には100か国以上の国籍がいて、私自身100人以上の個性的な専門家を管理していますが、マネージャーはそれらを最大限に活かせるかが重要な能力であり、そのチームのパフォーマンスを握る鍵でもあります。個性が強くとも、それぞれの強み、弱みを見ながら、適所に適材を送れるか。
ただし、日本では岩田先生が切れすぎて、両刃の剣のようにこちらもけがをしてしまい、マネージャーがうまく使いきれないのかもしれません。彼のような人材を村八分にしてしまい、その能力が活かされない、埋もれてしまうことは、日本の損失のような気がします。
その一方で、岩田先生には伝えましたが、正論や自分の信念を剛速球で相手に投げるだけでなく、その球をキャッチできない人に、どのように軽く投げるか、受け止めてもらえるか、信念をどのようにわかってもらえるか、を考えることは必要だと思います。
誰もが岩田先生のように優秀でわかっている人ばかりでなく、むしろ分らない人の方が多い。その中で、相手の考えを尊重しながら、自分の信念を伝えていくか。これは日本でも世界でも、共通に必要なことだと思います。
最後に今回の危機管理について。ダイヤモンド・プリンセス号への対処で、何がよかったか、悪かったか、様々な議論がありますが、これについては外部で状況のよく知らない人間が話しても、後だしじゃんけんにしかならないので、私は語るつもりはありません。
ただし、外部からみて私が感じること、内部にいた人が実際に感じたこと、を総合すると、ここから学ぶべき教訓はたくさんあります。これについては、様々な観点からきちんと分析・整理をして、次に同様の危機が訪れた時に、決して失敗を繰り返さないように、より良いオペレーションができることを望んでいます。
「失敗は成功のもと」「ピンチはチャンス」といいますが、今回の事例を冷静に分析し、具体的なアクションを考え、実施することで、次のより大きな危機に対応する準備をすることができ、世界に発信することができます。
最後に、世界的に見て、日本が改善すべきことをまとめると、戦略性と迅速性と透明性だと思っています。その詳細は今回は書きませんが、危機管理はその目的を明確にして、その実現のために機能する戦略計画と実施計画を作ることが必要で、それらは初めから完璧でなくとも、迅速にそれを作り、実施し、課題がみつかれば、迅速に矯正・修正し、ブラックボックスではなく、なぜ、何のために、何をやっているのかをできるだけ被災者や一般市民に分かるように説明していくことが大切です。
喉元過ぎて熱さを忘れる前に、早めにその分析と次への準備をする必要があると思います。