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『通勤、通学中に知り合いに会うのはなんか気まずい』の回

通勤、通学中は極力知り合いに会いたくない。特に朝には。大学生のころは、極力避けたいそんなに仲良くない同じ学部の知り合いとのエンカウントピンチが、通学途中の要所要所であった。

通っていた大学では、電車で通学する学生のほとんどは、大学に行くためにある駅から出る始発の電車に乗り、そこから大学の最寄駅で降りるというルートを取ることになっていた。まず、この始発の電車に乗り込むときがひとつ目の関門となる。ホームに停車している電車は、発車時刻のそのときまで扉を開けて乗客を待っている。この開いた扉の隙間、そして窓から車内を覗き見て、そんなに仲良くない知り合いの乗っていない車両を見極めなければならない。あんまりガッツリ車内を見過ぎて、偶然にも知り合いと目が合ってしまうとスルーしたときに気まずくなるため、横目でチラッと確認する。このときだけ草食動物になりたいと憧れる。『た〜ぶんおらんやろな』と思いながら、いざ乗車。あまり周りをジロジロ見ることは出来ないが、「全然不自然じゃないですよ。自然な佇まいですよ」という感じを出しながら、視界に入る景色に全神経を集中させる。よしっ、誰もいない。この車両はセーフ。

ただ、これは第一関門を突破したに過ぎない。次に控えているのは、自分の乗った車両に知り合いが乗ってくるかもしれないというリスクである。ここはもうね、リスクと書かせて頂く。この場合も、仮に知り合いが乗って来たとしても、互いに認識していない"てい"を装うことが大事となる。だから、まずはスマホに夢中になっているフリをする。スマホに夢中になっているフリをしながらも、レーダーをビンビンに起動させる。そして、よくあるのが発車間際に急いで知り合いが乗ってくるというパターンだ。『おいおい、そんなにギリギリに乗車するから、ちゃんと車両の中を確認出来んまま、おれのおるとこに乗ってくることになんねん。リスクマネジメントちゃんとしようや。おれみたいに誰にも会わんでいいように余裕もって行動しようや』と若干イライラする。暗黙の了解で互いのテリトリーは侵害しない不可侵条約を締結してやってきたはずなのに、突然現れるイレギュラー。そして、相手もこっちがいることに気づいたようで、互いに不自然にスマホの画面を食い入るように見つめる。知らん知らん。

そして、大学の最寄駅に到着。『はいっ、自分のほうがドアに近いから先に降りてくれ。おれは気持ち遅めに降りて距離作るから』と、先に知り合いが降りるのを見送りゆっくりと降車する。ただ、ここでも気を付けなければならないことがある。それは電車を降りた瞬間に、別の車両に乗っていた知り合いとホームで遭遇するリスクがあるということだ。こちらもある程度大学生活に慣れてくると、だいたい誰がどの車両に乗っているかを互いに把握できるようになるため、遭遇するリスクを極力減らすことはできる。しかし、世の中、常になにが起こるかは分からない。神様が作ったはずのこの世界はイレギュラーに満ち溢れている。だから、ここでも細心の注意を払う。先程から何度も書いていることだが、どこに知り合いがいるかはめちゃくちゃ気になるが、目が合ったりして認識し合うとそれはもうルール上アウトなのだ。だから、対人レーダーの感度をMAXにしながらも目線はあくまで真っ直ぐ正面に向け続ける。愚直。その言葉が似合うほどに、ただただ正面を見続ける。

どうやら近くに知り合いはいないようだ。だが、授業を受ける教室に着くまでは決して油断出来ない。周囲への警戒を怠ることなく歩き続けていると、前方に異常を発見。さっき先に降りたはずの知り合いの歩くスピードがまあ遅いこと。このままでは追いついてしまう。ただ、ここでこちらもスピードを落としてしまうと、後方に控えている未知の知り合いが迫ってくる危険性がある。クソッ、さっさと歩かんかいっ。このままでは挟み撃ちに遭ってしまう。仕方ない。ここは最終手段、大外から前の知り合いを追い抜くという手を使うしかない。さながらディープインパクトのように大外から大股で追い抜いていく。気づいてない気づいてない。

ああ、やっと教室にたどり着いた。朝から神経使ったでホンマに。通学途中で知り合いに会うのは気まずいから嫌やねん。ふぅ・・・。そう言えば、この授業は一般教養やから知り合いがひとりもおらんねんな。・・・。過去問とかどうやって手に入れよ・・・。ああ、ひとり寂しい・・・。


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