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子どもデータベース構築 貧困と虐待対策

2020年11月23日、河野太郎 行政改革相が「子どもの貧困や児童虐待の問題を念頭に自治体など関係行政機関が共有して見られる子どもデータベース」を全国規模で構築する検討をしていることを発表した。現在はまだ案や構想の段階かとみられるが、12月に閣議決定を予定する第3次補正予算案に調査費の計上を目指して調整中だそうだ。

報道各社の情報

この”子どもデータベース”は、以前から政府が進めている子ども関連政策として創設が検討されている「こども庁」に関連する施策かと思われる。

参考(上記):2021年11月13日 共同通信社
(抜粋)専任閣僚に他官庁への「勧告権」を与える方針を固めた。(中略)勧告権の具体的内容は、こども庁の専任閣僚が他官庁の閣僚へ改善を要請する形。強制力はない。各官庁の取り組みが不十分と判断すれば、首相に意見具申できる。

11月23日には、”子どもデータベース”についての報道がなされている。

▽ 23日 共同通信社(ヤフーニュース)

▽ 24日 朝日新聞

まだ「調査費を補正予算案への計上を調整」している段階とあって、”子どもデータベース”そのものについての詳細は明らかになっていないが、24日の朝日新聞では、(以下抜粋)「データベースを独自に作成する東京都足立区や大阪府箕面市の事例が紹介された。ただ、区市外に転居した場合には情報を転出先の行政機関に渡して支援に役立ててもらうことが個人情報保護などの問題で現時点ではできないとの課題が報告された」「子どもたちがどこへ引っ越してもきちんとフォローできるようにすべき」と指摘があったことが書かれている。

現時点では、まだ大きく報道されるには至っていない様子の”子どもデータベース”構築案だが、それが実用化されるまでのハードルや懸念される点もいくつかある。

以下、私が実際に仕事で携わってきたデータベース構築・運用の経験を基に、考察してみたい。

データベース化とは

そもそも「データベース化」とは、簡単に説明すると、氏名・電話番号・固有ID(マイナンバー等)(どれか1つでも)で検索するとその人物の情報(住所・経歴・その他履歴)などが表示されるシステムのことだ。WEB上のもので例えると、NTTの電話帳(タウンページ)、弁護士検索のひまわりサーチ、などがデータベース化された検索システムとしてはわかりやすいだろう。(そもそもGoogle検索も膨大なデータを集めたデータベースであり、昨今の大き目のWEBサイトではSQL等のデータベースが使用されていることが多い。)
※SQLとは、リレーショナルデータベースに照会・管理・操作をするための言語。

今回の”子どもデータベース”については、上記例のタウンページやひまわりサーチで照会した情報に「家族構成」や「過去の履歴」「現在の情報」などが付加されたものをイメージすると、そう遠くはないものになるはずだ。(実際はもっと複雑で多くの情報が書き込まれ、様々な情報と紐付けされる可能性はある。)

皆様の経験に近い(と思われる)例では、公共料金やお使いの携帯電話の会社などのサポートセンターへ電話で問い合わせた場合、「使用量」「料金の支払い履歴」「問い合わせ履歴」などがサポートセンターで照会できる。このサービスが行えるのもデータベースのおかげである。

”子どもデータベース”に限らず、情報をデータベース化するメリットは大きい。企業であれば「業績」「取引先」「顧客」をデータベースで管理しているのも珍しくはない。大企業ならまず間違いなくそうなっている。それは、上記で記載したような「照会」が手軽にできるというだけでなく、登録されたデータに「日付」が付いていれば、前月・前年との比較、またはその期間の移り変わりまでデータとして見ることができる。
この操作性を”子どもデータベース”で例えると、「いつ、どんな問い合わせがあった」「いつ、どのような対応をした」「いつ、経過を確認した」などの情報も付け加えることが可能で、それを1年間や数ヶ月間まとめて一覧で確認することも容易になる。

また、そのデータに「未対応」や「対応中」「経過観察中」などが付加できるならば、今どのような問題にどのように対応しており、それらが何件あるかという確認が随時できるようになる。同時に、毎月や毎年の統計データも出しやすくなるというわけだ。

肝心なデータはどうするのか、という問題だが。
すでにデータ化されている戸籍・住民情報、マイナンバー、すでに相談が寄せられている情報などからの転用が手っ取り早いと思われるが、まずそこで「転用させていいのか」という問題があるように思う。”子どもデータベース”というからには、生まれた赤子から20歳未満(くらい)までは登録せねばならず、子どもを登録するからには親御さんや他保護者、家族・親族の情報も必要で、となると、初期段階で膨大なデータが登録されていなければならないということになる。

データ内容を親族まで手を伸ばすのならば、最終的には、どの家族とどの人物は血縁者で今どこにいる。という情報まで把握しなければならない。ここまでやるとなると本当に大変な初期作業になるのだが、これをやらなかった場合「親族に対応を求める」となったとき、その親族を探すところから始めなければならないのなら結局は自治体等で調べて探すことになり、データベース化した意味は半減してしまう。
しかし、現実的にここまで把握して全てデータ化することは(自治体にある情報を全てまとめて投入しない限り)おそらく不可能である。(投入できたとしても、その後の人手による作業も膨大)であるならば、どこまでを”子どもデータベース”の管轄情報として扱うのか、それによっては問題の本質である「貧困」「虐待」への対応の幅が変わってくるのではないだろうか。

仮に、運用開始の最初期段階を空っぽのデータベースから始めたとしよう。
空っぽから運用を始めるということは、登録される情報は「通報」「情報提供」などを受けてから把握した「子ども」「家族」のみとなる。上記で例に出した対応経過データがあれば、把握している問題に対しての確認・継続対応はスムーズになるだろう。だが、それでは今までと変わらず、表には出てこない「貧困」「虐待」には対応できない。加えて、やはり同居していない親族を探す場合の手間は軽減されない。

以上、簡単にだが”データベース化”するメリットとハードルを述べてみた。
まとめると以下のとおり。
・初期段階で使用する基のデータはどうするのか
・子どもを起点として親族や友人等どこまで把握するのか
・通報・情報提供ベースの対応では変わらないのでは

システムを構築したからと言って解決が見えるほど、子どもの「貧困」「虐待」問題が簡単なものではないのは誰もが知っている。データを充実させ、システムの操作性を高め、対応を迅速に行うことは最低条件である。だが、それを政府・行政側が実現できたとて、結局のところ、それを活かすのは私たち市民なのだ。

必須となる市民の意識改革

政府・行政側が市民の情報を集め、管理することに抵抗のある人々も多い。給付ポイントの影響で、昨今ようやく増えてきたマイナンバーの取得が良い例だろう。どんな情報を管理され、どのように使われるのか、それがよくわからない事情から、不信感というよりも不快感が強いのかもしれない。

世界の技術の進歩に伴う様々なデジタル化、お金にしてもキャッシュレスが進む。地方の自治体でも個人情報はデジタル化され、住民票や戸籍謄本もデータからの印刷で取得する。その延長線上で、自治体と同じ情報を国でも管理されるとなった場合、さて、どれだけの人々が納得してくれるだろうか。

そしてやはり、一番難しいのは「通報」「情報提供」でしか個別の問題を把握することができない点である。

子ども本人はもちろん、友人知人・近隣住民・学校関係者、問題を抱える人物の周囲の人間がどれだけ気にかけてくれるかにかかっている。
「虐待」問題は「見るに見かねて」「かわいそうだから」と通報してくれる人は多いだろう。では「貧困」についてはどうか。「ウチだって裕福じゃないのにあそこだけ」などの感情を持って「通報」しないということは無いだろうか。そもそも独身で子どもに対して特に感情が無い場合、他人の「貧困」に手を貸すだろうか。助けるということよりも、妬みにも似た感情、無関心などで「関わりたくない」という結論に達する人もいるだろう。

近所付き合いも希薄になったと言われてきたこの国、日本。
少子高齢化が進み、出生率も低いまま、約40年後でも高齢化率は約10%ほど上昇すると言われている。生まれてくる子どもたちがそもそも減っているのだから、解消の見込みなどあろうはずがない。そんな中で、せっかく生まれてきてくれた子どもたちを守らなくてどうするのだ。

子どもの問題は家庭の問題、他人が口を出すものじゃない。という考え方をする人々もいる。だが、親に問題があった場合はその家庭内では解決などできない。外の誰かが手を差し伸べるしかないのだ。(親に問題があるなら親を先にどうにかしなくては、と言われそうだが、大人の親の更生・再教育となると別問題だ。)

つまるところ、「貧困」でも「虐待」でも、周囲の人々の優しさ・人情なくして解決への道は有り得ないと私は考える。政府・行政側の創る制度やシステムは確かに必要だ。しかし、その前に絶対必要なのは人々の”思いやり”である。私たち市民の”他人を思いやる”心があってこそ、制度やシステムは機能する。

今回テーマとして取り上げた”子どもデータベース”は、現状ではまだ実現するかどうかはわからない。今後数十年、この国は「子どもを守る」ことが課題として上り続けるだろう。子どもたちを守れるかどうかは、今を生きる私たちの未来を守れるかどうかだ。子どもたちの未来は、私たちの未来だ。


最後に、虐待の通報について詳しいWEBサイトを紹介しておきたい。

皆様の中で、もし「通報」や「情報提供」が必要そうな子ども・家庭があるけれども何もできずにいるという方がいる場合、少しでも参考になれば幸いである。


子どもデータベース構築 貧困と虐待対策(終)