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おわらいがかり

三月末から住み慣れたノルウェーの森を離れて、家族で東京の国立市で暮らしている。
夫がこちらの大学に一年間招聘されることになったのだ。
夫と子供たちにとっては一年限定の日本留学ライフ。
私にとっては14年ぶりの日本長期滞在。
 
4月は桜を愛でながらの生活の立ち上げ、ゴールデンウィークは三年ぶりに家族で兵庫の実家に帰省、6月に入って梅雨入り宣言したと思ったら瞬く間に猛暑の初夏の到来。
 
春から夏にかけては、気温や湿度の変化も当然のことながら、梅、桜、たんぽぽ、新芽、アジサイ、アサガオ、と草花の変化も見事なほどダイナミックで。
アレルギー体質で且つここ10年ノルウェーのからっと涼しい夏しか経験していない私は、そんな気候や風景のパワフルなダイナミズムにすっかり圧倒されていた。
 
子供たちは、それぞれ地元の小学校と幼稚園に通いはじめ、大なり小なりのカルチャーショックを受けながらも、クラスメートや先生、家族と毎日を過ごし、また地域の人たちに見守られ、喜怒哀楽を精一杯表現しながらこの地の日常を生きている。

8歳の息子マツに関しては、日本語指導員の先生による授業中のサポートも受けれるようになり、外国をルーツとした子供たち対象の地域の学習支援に通いながら、なんとか他の児童と肩を並べつつ、ぶつくさいいながらも日々の勉学にも取り組んでいる。
 
さて、そんな日々を送る中、つい先日マツの小学校で保護者会があり、子供たちが下校した後の教室の様子を垣間見ることができた。
思っていたより整理されていた机やお道具箱に安堵し、忘れ物をカバンに詰め込みながらふと目に入った壁面に貼られた各係活動の紹介文。

イラストがかり、オルガンがかり、おもいでがかりと、ユニークな係が並ぶ中、おわらいがかりと書かれた紙に数名の男子名と共にマツの名前が記されていた。紹介文は「わらうときいがいはしずかにきいてね。」うん、ごもっとも。

どうりで最近変顔にも力が入っているわけだ。
ここのところ気もそぞろなのは、好きな子ができたのではなく、おわらいがかりのネタを仕込んでいたのね。
そういえば、五月の個人面談で担任の先生からも、マツがよくクラスメートを笑わせてるって聞いたっけ。
 
帰宅して早速、この「おわらいがかり」の活動についてマツに質問してみた。
活動日や時間は決まっているのか、とか。それぞれのメンバー(四人)の役割とか。

どうやら、いきなり不意打ちで面白いことをして、クラスメートを笑わせるらしい。その方が絶対面白いからと。
そう、まさにインプロゲリラ系のおわらいがかりのようだ。
最近は、どんなコントに誰が反応するのかもわかってきたのだとか。
 
 
私は、彼なりにたどり着いたこの 「おわらいがかり」の活動に、しみじみと感動してしまった。
まあ、たかが係活動なのだけど…。
新しい環境で、自分らしさを存分に表現できる役割を得ること。
思いや興味が共有できる身体性の似通った(多少騒々しいふざけ合いも許容し合える)仲間ができたこと。時に喧嘩しつつも、お互いを認め合えていること。そんな仲間と共に各々の持ち味を生かした「係」というグループを結成できること。
それに、小2時代の「おわらいがかり」の活動が未来につながることだってあるかもしれないではないか。「いきものがかり」のように。
だから、たかが、なんかじゃない。されど係活動なのだ。

そして何よりも、ヤキモキ先回りして心配することもなかったのかなあと今になって思う。
これからは子どもたちのポテンシャルを信じて、私も肩の力を抜いて伸びやかに国立ライフをエンジョイできたら。

(写真は、コントで披露するマジックを特訓するマツの手)
 
 


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