見出し画像

「不思議な薬箱を開く時」

こんにちは、
「不思議な薬箱を開く時」です。
薬学、薬理学、お薬を学ぶには、
いい大学に入学して、お高い授業料を払い、
課題とレポートに追いまくられながら、
上手くいけば、ストレートにめでたく卒業となります。
昔は、薬師と医者、産婆は、ほぼ同業でした。
シンプルで怖い時代でしたね。
では、今日も、お薬箱を開けてみましょう。

画像1

お薬番号・43

「影を取ることができる薬」

影の正体。
はて、そんなものはあるのでしょうか?
昔の人は、影を恐れることがあったようです。
まるで、もう一つの人格のように。
影を盗られてしまうと、
たちまち死んでしまうとも。
これは、あまり感心しない手段に、
使用されていたようですね。
開発者は、イタリアの学者、
クレオ・ポメーロイです。
ラティニ州で医学を教えていたのですが、
フェルディナンド・エルジーノ公の陰謀に巻き込まれてしまいます。
ロンバルディア、カンパニアに次いで、
第三位の州力を維持していたラツィオ州ですが、
北のウンブリア、北東のマルケの頭領を亡き者にして、
その機に乗じての侵略を企てていたのです。
暗殺者を幾度か送り込んだのですが、
失敗続きであったエルジーノ公は、
毒殺、闇の襲撃ではなく、
もっと、確実で、自然に見える殺し方を画策しました。
その果てに指名されたのが、ポメーロイだったのです。
始めは、同じ部屋にいるだけでも、
毒殺できるような、凄まじい強さの毒薬を望んだのですが、
ポメーロイは、そんな強力な毒では、
当の本人に行き着くまでに死者が出てしまうと、
乗り気ではありませんでした。
過去の文献を紐解き、調べに調べて発案したのが、この薬です。
ポメーロイは、イタリア生まれではありましたが、
父親は、アラビア人で、
純粋なイタリア人ではありませんでした。
ポメーロイの進んだ医学知識は、
アラビアのものだったのです。
実際、ウンブリア州の領主は、
奇病にて死亡と記されていますが、
果たして、ポメーロイが発明した薬によって、
影を盗られたせいかどうかは不明です。
しかし、ポメーロイが、その後、
宮殿に召し抱えられたことを考えますと、
あながち、成功したものかとも。
クレオ・ポメーロイは、後の生涯を
薬学書の製作に捧げます。
すべてが手書きであり、
ポメーロイの死後、行く先知れずになっていましたが、
なぜか、いずれは敵国となるはずであった、
トスカーナの宮殿で発見されています。
では、調剤料をご紹介しましょう。

画像2

「影を取ることができる薬」処方

メース・・・・・・・・3個
カレンデュラ・・・・・2本
イエルバマテ・・・・・3本
ヒキガエルの汗・・・・小匙2杯
鮫の脂肪・・・・・・・大匙1杯
クジラの肝油・・・・・大匙1杯
抹香・・・・・・・・・拳大の塊1個
ウサギギク・・・・・・2本
黒い双子の羊膜・・・・・・1枚
黒真珠・・・・・・・・小1個
酢・・・・・・・・・・小匙1杯

画像3

諸注意
ヒキガエルの汗、ウサギギクは、猛毒です。
扱いには要注意が必要です。
絶対に素手では触らないこと。
黒い双子とは、黒人種の双子と言うことです。
鮫は、青鮫がお勧めですが、
金属を使用した漁は避けてください。
効果に影響が出ます。
鰓に手を突っ込んで、窒息死をさせる、
撲殺などの手段が望ましいでしょう。
あたりまえですが、
抹香は、マッコウクジラから採集してください。

画像4

備考欄
果たして、ほんとうに影を盗られてしまうと死亡するのか?
そうですね、西洋だけではなく、
東洋の文献にも、影を盗られるといいますのは、
良い事にはならないようです。
死なないまでも、病に伏せったりするとか。
影を悪魔に獲られる話なども、よく見られます。
たしかに、不気味でしょうね。
どんなに太陽から照らされても、
まったく影がない。
身体に支障がなくても、あまり人に知られたくないですね。
いや、影なくしちゃって、とは、ちょっと。
それだけで、人間扱いされなくなってしまいます。
クレオ・ポメーロイが、父親から教え込まれた、
当時としては、とても進んでいたアラビア医療を
とんでもないことに利用されてしまったのは、
医者としても、学者としても、
あまり、いい気はしなかったでしょう。
しかし、ポメーロイは、開発したのです。
手書きの薬学書には、他にもいろいろな薬の調剤法が、
事細かに記されているとか。
ちょっと、興味ありますね。

画像5


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?