見出し画像

「不思議な薬箱を開く時」

こんにちは、
「不思議な薬箱を開く時」です。
一般的な病気に効くお薬はないの?
そうですね、ないわけではありませんが、
不思議な、と、題してお送りしておりますので、
メジャーな病気のためのお薬よりも、
みなさんが、あまりご存知ないお薬の方が、
よいのではないでしょうか。
では、今日も、お薬箱を開けてみましょう。

画像1

お薬番号・37

「魂を交換できる薬」

魂を交換すると、どうなってしまうのか?
元の肉体を離れ、別の肉体へ。
あなたの意識は、まったく別の肉体の中で、
考え、話し、行動することになります。
肉体だけではなく、人生の交換のようなものですね。
このお薬の製剤法は、
アラビア語で残されていました。
年老いたスルタン(皇帝)が、
誰にもスルタンの座を譲る気がなく、
年老いた肉体を捨てて、
若々しい肉体と交換し、
さらに、支配を続けたということです。
そんな企てをするくらいですから、
あまり、いいスルタンではなかったでしょうね。
治められる国民も、いい迷惑です。
医学の貴公子と讃えられたアビケンナは、
密かに命じられたこの命を
20年の時間をかけて研究し、完成させました。
しかし、アビケンナは、スルタンの悪政を続けさせる気はありませんでした。
完成したお薬を弟子の一人であったフッタールに隠し持たせて、
スペインへと逃がしたのです。
アビケンナは、聡明でしたから、
けして、王族や貴族に渡すのではないと、
フッタールに厳命していましたので、
異教ではありましたが、サン・ミジャンのユソ修道院に、
身分を隠して逃げ込みました。
製剤法を記した巻物は、
フッタールの死後、彼の部屋の壁から発見されたそうです。
では、調剤料をご紹介しましょう。

画像2

「魂を交換できる薬」処方

コブラの毒液のシロップ・・・・・・・・大匙1杯
トケイソウの根汁・・・・・・・・・・・大匙2杯
赤ワイン・・・・・・・・・・・・・・・ゴブレット(小)一杯
苦い蜜(女王蜂に与えられる蜜)・・・・・大匙1杯
アヘンのシロップ・・・・・・・・・・・大匙1杯
メッカのセネヌ・・・・・・・・・・・・一欠片(小)
イネセア・チンキ・・・・・・・・・・・小匙1杯
ネベセの果汁・・・・・・・・・・・・・大匙1杯
ワニの脳髄・・・・・・・・・・・・・・1匹分

画像3

諸注意
この薬は、魂を交換したい相手と、
自分自身が、服用して効果が表れます。
くれぐれも、相手にも服用させることを忘れないように。
コブラは、皆さんご存じ、必殺の猛毒です。
採集には、十分に注意しましょう。
ワニも、相当に危ない生物ですが、
余分な成分が混じってはいけませんから、
銃や弓など、金属が使用されている武器は、
使用不可です。
棍棒などで、撲殺するのが望ましいですね。
力にちょっとした自信があるなら、
絞殺という、さらに望ましい手段があります。

画像4

備考欄
他人の肉体で、全く違う人生。
しかし、肉体が変わっても、
魂が持つ性分は、変わるものではありません。
何年もかけて、けっきょく、
元いた肉体と同じような環境を
造り上げてしまう可能性が大です。
まあ、スルタンのように、
権力や玉座に執着するあまり、
別の肉体であったとしても、
とにかく、寿命を繋ごうとした場合は、
生き方を変える必要もなく、
ただ、我が世の春を満喫するだけです。
そんな目論見も、賢明なアビケンナの策で、
夢と消えたわけですが。
みなさんならば、誰と交換したいですか?
自分よりも、お金持ちで、
身分も高くて、美しくて、若々しい。
そういう相手は、騙されない限り、
服用してはくれないでしょうから、
もっともらしい口実を考えておきましょう。

画像5


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?