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「不思議な薬箱を開く時」

こんにちは、
「不思議な薬箱を開く時」です。
健康を売り物にして、財を築く。
イタリアには、達者な口上も巧みに、
似非薬を売る芸人紛いの、薬売りがいました。
はてさて、現代も、似たようなものかもしれません。
では、今日もお薬箱を開けてみましょう。

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「美味しくなる薬」


さて、何がでしょうか?
まず、このお薬が作られた切実な理由から、
説明した方が良いと思われます。
飢饉、戦争による食糧不足は、
現代社会においても、
深刻な問題とされていますね。
このお薬は、ヴァロア朝フランス王国と、
プランタジネット朝および、ランカスター朝イングランド王国の、
長すぎた戦いの最中に開発されたものです。
もう、お気づきの方もいらっしゃいますね。
このお薬を服用しますと、
人間が、とても美味しくなってしまいます。
国民にパンを与えられなくなってしまうほど、
領地の国庫が空っぽになってしまう事態は、
如実に各地に迫っていました。
1302年の金拍車の戦いに敗北したフランスは、
飢えた国民を国中に抱えることとなったのです。
フィリップ4世は、側近であった医者で、
薬剤師であったエファレル・クレドルから、
身の毛もよだつような提案を受けました。
捕虜と囚人を食用にする。
そのために、その肉を美味にする薬を開発したいというのです。
人肉には、タンニンという苦い成分や、
血液の消化が、同族である人間には不向きであったり、
まず、精神的に食人に対する壁があるのです。
フィリップ4世は、表向きには激怒しましたが、
自室にエファレルを密かに呼びました。
そして、人肉を美味にする薬を調剤するように命じます。
パンを配給することはできませんが、
肉を配給することができれば、
兵士たちの意気も上がると考えたのです。
エファレルは、極秘裏に人間を美味にする薬の開発を始めました。
料理法を研究する方が、話が早いのでは?
しかし、そんな神をも恐れぬ所業を
たとえ王の命とはいえ、
正気で従える料理人はいなかったのです。
秘密を知らされた者たちは、次々と処刑されました。
今や、頼れるのは、エファレルの調剤のみ。
アラブ、古代ローマ、インドと、
様々な薬学の叡智を搔き集めて、
人肉を美味にするだけではなく、
滋養豊で、活力を促進させることが出来るようにしたのです。
捕虜と囚人を殺害し、
人とわからないほどに解体し、
肉塊にして、兵士たちや国民に配りました。
それとは知らないまま、
飢えていた者たちは、王に感謝しました。
この空恐ろしい薬の調剤法は、
パリ大学の書庫に残されています。
では、調剤料をご紹介しましょう。

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「美味しくする薬」処方


シセメラ(乾燥させたもの)・・・・・・・・・大匙3杯
クレッタの煎じ汁・・・・・・・・・・・・大カップ1杯
プランテーンの液汁・・・・・・・・・・・大カップ1杯
メンナの葉・・・・・・・・・・・・・・・10枚
アーモンドの木に成長したキノコ・・・・・5本
アーモンド油・・・・・・・・・・・・・・大匙1杯
羊のバター・・・・・・・・・・・・・・・小塊1個
ラクダのバター・・・・・・・・・・・・・小塊1個
プラシウスの微粉末・・・・・・・・・・・小匙2杯
ホップ・・・・・・・・・・・・・・・・・大匙2杯
ニンニク・・・・・・・・・・・・・・・・大1個
リーキ・・・・・・・・・・・・・・・・・3本
ブランブル・・・・・・・・・・・・・・・6個
ホワートルベリー・・・・・・・・・・・・10個
蜂蜜・・・・・・・・・・・・・・・・・・大カップ1杯
アルクレヤの肉・・・・・・・・・・・・・拳大1個
ロバの乳・・・・・・・・・・・・・・・・大カップ1杯

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諸注意
シセメラ、メンナの葉、リーキは、
アーモンドの木に成長したキノコは、
よく乾燥させたものを丁寧に粉末にしましょう。
すべてを混ぜ合わせる日時は、
新月の晩を選び、ダマにならないよう、
滑らかになるまで混ぜ合わせます。
蜂蜜は、8月の採集した、
皇帝の蜂蜜にしてください。
死体にする前に、ロバの乳で、
全身を揉み解すと、肉は柔らかくなり、
一層美味になります。

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備考欄
その昔、ソイレント・グリーンという映画がありました。
人肉を海藻と偽って、国民に配布していたという、
いわば、あれですね。
獣の肉と偽って、人肉を国民に配る。
手段は非道に見えますが、
ある意味、捕虜や囚人を飢えに任せて死なせてしまうよりも、
兵士や国民を活かすために活用したわけですから。
人を人として襲うよりは、
騙されていた方が幸せかもしれません。
悲しいかな、戦争や災害がもたらす飢えに、
国民が苦しむのは、長い歴史には付き物です。
我が国でも、その悲惨な記録が残されています。
食べ物をどこから持って来るのか?
敵が人であっても、大自然であっても、
環境が悪化すれば、食べることすらままならない。
しかし、食べなければ、人は動けないのです。
肉体を選び、心を殺すか、
心を救い、肉体を殺すのか?
一国の王としては、勝つしかない戦争を
兵士と国民なしでは、語れないわけです。
まあ、そんな事態が起こらないことを
全霊で祈りますが。

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