『マクベス』第一幕第三場・第五場
【一幕三場】
マクベス こんなに晴れたり翳ったりする日ははじめてだ。
バンクォー フォレスまでどれくらいだったか――何だ、こいつらは、
しなびて、異様な姿、
この世の者とも思えぬが、
たしかに目の前に。(魔女たちに)生きているのか、
話がわかるか? わかるようだな、
皆、ひびわれた指を薄い唇に
さっと当てた。[…]
マクベス 話せるなら答えろ、何者だ?
魔女1 万歳、マクベス、グラームズの主。
魔女2 万歳、マクベス、コーダーの主。
魔女3 万歳、マクベス、王になる男。
バンクォー なぜそう驚き、恐れる、
めでたい話ではないか。(魔女たちに)いったい
きさまらは幻か、それとも見えるとおりの
生きものか?[…]おれには何も言わないのか。
きさまらが時の種子を見て、
どの粒が育つか育たぬかわかるなら、
おれにも教えろ。おれはおまえらを拝みもしないし、
祟りも怖くない。
魔女1 万歳。
魔女2 万歳。
魔女3 万歳。
魔女1 マクベスより小物で、大物。
魔女2 マクベスより不幸で、幸福。
魔女3 王にはならぬが、王を生む男。
さあ、万歳、マクベスとバンクォー。
三人 バンクォーとマクベス、万歳。
マクベス 待て、話が途中だ、その先を言え、
たしかに父の死後、おれはグラームズの領主だ、
だが、コーダーだと? コーダーの領主は生きている、
覚えもめでたい立派な男だ。いわんや、
王になるなど、[…]もってのほかではないか。
このような奇怪な話、どこから仕入れてきた、
なぜこの枯れ野でわれらを待ち伏せ、
予言で迎えた? おい、言わぬか!(魔女たち消える。)[…]
【一幕五場】
マクベス夫人 グラームズ、コーダー、そして
約束の地位。でも気がかりだわ、
あなたというかたは近道を選ぶには
優しすぎる、甘すぎる。出世はしたい、
野心もある、ただ、そのための
邪心がない。大それた望みなのに
清く正しく。手はよごさずに
かすめとりたい。[…]ね、早く帰ってきて、
わたしの勇気をあなたの耳にそそいであげる、
黄金の冠の前に立ちふさがる邪魔ものを
わたしのことばの力で追いはらってあげる、
運命も魔界もあなたに味方して
さずけてくれそうな王冠だもの。
(従者登場。) 何の知らせ?
従者 今宵、国王陛下のお成り。
マクベス夫人 まさか。
従者 おそれながら、まことでございます。殿もじきに、お帰りに。(退場)[…]
マクベス夫人 |鴉《からす》の声もしわがれて、
告げるはダンカンの運命、わが城へ
足を踏み入れるとは。さあ、
死のたくらみに仕える霊たちよ、
わたしの女々しさを削ぎ落とし、頭から爪先まで
残酷さで満たして。この血を濃くして
良心の呵責への道をふさいで、
せっかく恐ろしいことをしようというのだから、
優しい気持ちがわき起こってだいなしになど
しないようにして。[…]
(マクベス登場。) グラームズ様、コーダー様、
そしていずれは……というお方、
お手紙のせいでわたし、まだ何も起こっていないのに、
今をとっくに飛び越えてしまって、
もう未来にいるよう。
マクベス かわいいことを言う。
ダンカンが今夜ここに。
マクベス夫人 ご出発は?
マクベス 明日だそうだ。
マクベス夫人 その明日は
来ないわ、けっして。
ねえ、そのお顔、まるで本のようよ、怪しいと
読みとられてしまう。世の中をあざむくには、
世の中に合わせなくては、目でも、手でも、口でも、
歓迎をあらわすの。うわべはきれいな花、
その下に蛇。お客さまは
おもてなししなければね。だから、
今夜の大仕事、わたしが支度します。
これからのわたしたちの夜と昼すべて、
ひとえに今夜次第ですもの。
マクベス もっと話を詰めよう。
マクベス夫人 晴ればれとなさっていてね、
お顔が暗いと怪しまれてしまうわ。
あとはどうか、わたしにまかせて。
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