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『マクベス』第五幕第三場・第四場・第五場

マルカム率いる反乱軍が、マクベスの城に迫ってきます。ダンシネーンの丘での決戦を前にして、マクベスは夫人の病に心をくだきますが……。

『マクベス』中もっとも名高い「明日、明日」のモノローグ。
夫人の死を知った直後のつぶやきなのですね。
「いつかは死ぬと思っていた」の一行、私は大泣きです。本当に愛していたんだなあと思います。そうでなければ、こんな放心の台詞出てこない。
「いま死ななくてもいいものを」という訳もありますが、ぬるい。腹立つくらいぬるい。と思う。)
「いつかは死ぬと思っていた」から「意味などない」までぜんぶ強調したら真っ黒になってしまったので、困って、ちょっと減らしました。本当はそこまでの一連がまるごとオススメと思ってください。

で、一転して、バーナムの森が攻めてくるだとぉ!というね。
マルカム軍が枝を持って進軍しているだけなのにね。
落ちつけ、マクベス(笑)。いや、無理だな。不憫だ、マクベス。

最後の一行も、たいてい「鎧を着たまま死んでやる」って訳されているんですけど、ダサい。なにそれ「死んでやる」って、赤ちゃんか。と思うので、「死のうではないか」としてみました。ちゃんとまわりの部下に向かって言ったほうがいい。そのほうが動線がきれい。演じてみればわかります。

文中の[…]は原文を省略した箇所です。
マクベス独白の前の「間」は、原文の間合いを汲んで私が入れました。原作にはこのト書きはありません。
太字はとくに有名または/そしてサラのおすすめ台詞です。

【第五幕第三場】
マクベス もう言うな、逃げるやつは追わぬ。
 バーナムの森がダンシネーンまで来ぬかぎり、
 おれは恐怖には染まらぬ。マルカムの小僧がなんだ、
 女から生まれただろうが。[…]いまが正念場、
 王座を守り抜くか、落ちるかだ。
 おれもじゅうぶん生きた。おれの人生は
 もはや黄ばんだ枯れ葉というところか――[…]
 戦うぞおれは、この骨から肉が削ぎ落とされるまで。[…]
 恐怖を口にする者は縛り首だ。鎧を持て。
 (医師に)病人はどうだ?
医師          ご病気と申しますより、
 押し寄せる悪夢に悩まされ、
 お休みになれないのです。
マクベス        治してやってくれ。
 心のやまいに薬は出せないのか、
 悲しみの根を記憶から抜き去り、
 脳に書きこまれた苦しみを削り取り、
 何か甘い解毒剤で忘れさせて、
 心臓にのしかかる危ない思いを
 洗い流してやってほしいのだ。
医師            そこは、ご病人が、
 その気にならないことには。
マクベス もうよい、医術など犬に喰わせろ。
 […]鎧を持て。
 おれは死も破滅も恐れはしない、
 バーナムの森がダンシネーンまで来ぬかぎりだ。
医師 (傍白)こちらはダンシネーンから無事に出ていきたいばかりだ、
 千金を積まれても、もう戻りはしない。

【第五幕第四場】
マルカム 諸君、枕を高くして眠れる日々も
 もはや目の前にある。[…]
 兵はおのおの緑の枝を切ってかざせ、
 われらが軍勢の数をくらまし、敵の斥候の目を
 あざむくのだ。[…]

【第五幕第五場】
マクベス 城壁に旗をかかげろ、
 「敵が来た」だと? 聞き飽きた。笑わせるな、
 わが城は難攻不落だ。囲むなら囲め、
 飢饉と疫病でかってに自滅しろ。
 やつらの数が増えたのはこちらに裏切りが出たからだ、
 でなければ打って出て、ひげとひげとを突きあわせ、
 たたき返してやったのに。
 (舞台裏で女たちの悲鳴。)なんだ、あの騒ぎは?
シートン(家臣) 女どもの声です、見てまいります。(退場。)
マクベス もはや怖いものなどなくなった。
 かつては、夜をつんざく叫びを聞けば背筋が凍り、
 陰惨な話には身の毛がよだった、毛の先まで
 血がかよっているかのように。いまは恐怖をなめつくし、
 日夜にちや殺戮さつりくの思案に慣れきって、
 どんな災いにも驚きはしない。
 (シートンふたたび登場。) 何を騒いでいた?
シートン お妃さまが、陛下、お亡くなりに。

   間。

マクベス いつかは死ぬと思っていた。
 こういう知らせを聞くときが来るだろうとわかっていた。
 明日あした、明日、また明日が、
 一日一日、じりじりと這っていく、
 
時のページの最後のひと文字にたどり着くまで。
 すべての昨日が照らすのは、阿呆どもが土に帰る
 死への道だ。消えろ、消えろ、短いろうそく!
 人生は歩く影、あわれな役者だ、
 
出場でばのあいだは偉そうにしゃべり散らして、
 それで終わりだ。ただのつくり話、
 語り手は白痴、響きと怒りに満ちていても、
 意味などない。

 (使者登場。)
 口をききに来たのだろう、さっさと言え。
使者 陛下、
 見たままをお伝えするべきなのですが、
 何と言えばいいか。
マクベス     いいから話せ。
使者 丘の上に立って見張りをしておりましたら、
 バーナムの森が、きゅうに、気のせいかもしれませんが、
 動き出したのです。
マクベス     うそをつけ、馬鹿が!
使者 うそでしたらどのようなお怒りでも受けます、
 ここから三マイルのところに、もう来ているのです、
 動く森が。
マクベス  […]「恐れるな、バーナムの森が
 ダンシネーンまで来ぬかぎり」――その森が
 ダンシネーンに向かってくる。武器を、武器を取れ、出陣だ!
 こやつの言葉が真実なら、
 逃げるも留まるもかなわぬ。
 もはや日の光もうとましい、
 この世のかたちなど崩れ去るがいい。
 早鐘よ鳴れ、風よ吹け、来たれ、破滅よ!
 せめて鎧を着たまま死のうではないか。
(一同退場。)




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