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い抜き言葉はダメなの? (連載:外から見る日本語第9回目)

バンクーバーの習い事教室STEP AHEAD LEARNINGです。

当教室にて、日本語教師歴25年になる矢野修三先生による日本語講師養成講座(初級編)がまもなく開講される予定で、日本語の面白さをもっと多くの人に知ってほしいという思いから 「連載:外から見る日本語」を執筆していただくことになりました。

長い長い日本語教師歴を通して感じた日本語のフシギを短いエッセイ形式でお届けします。

日本語を教えることに興味がある人も、単なる雑学としても、だれでも楽しめる内容となっております。

それでは はじまり はじまり。


昨今のソーシャル・ネットワーキング・サービス (SNS) の進化は誠にすさまじい。人とのコミュニケーションはどんどん便利になるが、メカについていくのも大変である。確かに、どこにいても、いつでも気楽にメッセージが送れ、まるで会っているように話ができる。電話など無い、はるか昔には全く考えられず、会って話すから「会話」なので、そろそろこの漢字「会話」はお払い箱になるのではと、いささか心配である。


 このSNSの登場に伴い、言葉のやり取りにいろいろ変化がみられる。省略文字や絵文字などはどこの国の言語でも同じであろうが、特に日本語はその影響が大きいと言われている。それは「話し言葉」と「書き言葉」がはっきり分かれている言語だから。でもチャットなどは当然「書き言葉」ではなく、「話し言葉」で書くようになり、両者の差がどんどん無くなってきている。


 その一つの例が「い抜き」。本来は「食べている」や「飲んでいる」であるが、「い」を抜いて「食べてる」や「飲んでる」になる、いわゆる「い抜き言葉」である。

しかし、この表現は基本的に会話にしか使われないので、「ら抜き言葉」などに比べると、一般的にはあまり知られていない。この「い抜き言葉」、もちろん文法的には間違いであるが、会話の中ではかなり前から広まってきていた。でも文章として目に入ることはなく、あえて問題にする必要もなかったのであろう。


 しかし日本語教師としては、この「い抜き言葉」をかなり意識しなければならない。もちろん生徒には「動詞+ている」と説明して、「食べている」や「飲んでいる」としっかり教えてる、ではなく、教えている。


 でも、スマートフォンのお出ましで、この「い抜き言葉」がいろいろな場面に文字として登場してきた。すると日本語学習者はその違いが気になる。さてその違いは? 個人差にもよるが、我々日本人は、正式な「何を食べているの?」よりも、「い抜き」の「何を食べてるの?」のほうにカジュアルで親しさを感じる人が多いのでは。いかにも。


 乗り物の中でスマホを片手に、「いま向かってるから、待ってて」など、堂々と「い抜き」でメッセージを打っている年配の日本語教師がいる。うーん、最初は教師として「まずいかな・・・」、でも、慣れると便利で楽しんでる、ではなく、楽しんでいる。事実、この「い抜き」は話し言葉のくだけた言い方として、すでに載ってる、ではなく、載っている辞書もある。なるほど。 明治期の言文一致ではないが、書き言葉の大きな変化期。「スマホのメッセージなどにはノープロブレム、先生も使ってるからね」と、生徒にも教えたほうがよさそうである。




本エッセイを執筆された矢野修三先生が、4月16日からバンクーバーの弊社STEP AHEAD LEARNING のオフィスにて、0から日本語教師を目指したい人向けに日本語教師養成講座(初級編)を開講します。


最初の1日は無料とオリエンテーションになっているので、興味がある人は奮ってご参加下さい!

詳細はこちらから。

https://stepaheadlearningcanada.com/japaneseteacher/




本エッセイは執筆者である矢野修三先生から許可を頂いて転載しております。

執筆者プロフィール:
矢野アカデミー元校長
矢野修三先生

矢野アカデミーのサイト:

https://yanoacademy.ca/


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