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リアル体験(1) トンネル


 これは自分が大学生だった頃に実際に体験した実話である。
ときは2000年頃、高校を卒業して大学へと進学し初めて迎えた夏休みでの出来事だ。
高校で仲の良かった友人たちはそれぞれ別の大学へと進学し、たまに連絡を取り合う程度になってしまっていたが、初めての超長期休暇でほとんどの友達が地元へと帰ってきていた。
まるで高校時代に戻ったかのように毎日集まって楽しい時間を過ごしていたが、ただただ遊んでいたというわけでもない。
自動車免許の取得に向けて、夏休みの短期講習に参加していたのである。
久しぶりに会う友人たちとワイワイやるだけでも楽しかったけど、運転という新しいスキルが毎日少しずつ身についていくのも楽しくて、大学時代の長期休暇の中でも屈指の充実感があったんじゃないかと思う。

 社会人となって長い年月が経った自分からすると、計り知れない眩しさを放つ約2ヶ月という長い夏休み。
8月も終盤にさしかかる頃にはひと通りみんな運転免許を取得することができたが、夏休みはまだ半月ほど残されている。
そうなれば当然「車を運転して遊びに行ってみよう」となるのが必然である。
運転すること自体が楽しいのだから行き先なんてどこだっていい。
小一時間で行けるくらいの有名なお寺だったり、森林公園だったり。
ただ…免許を取ったばかりで自分の車があるわけでもないし、車を借りるあてとなる親たちは夏休みなんてとっくの昔に終わって仕事に出かけている。
そうなると車を借りやすいのは夕飯時以降になってくるから、花火を買って海に行ってみたり、山へ行って星を眺めてみたりという夜ならではのドライブになるわけだ。

そんななかで「大学生」「夏休み」「夜」「ドライブ」から連想されるキーワードと言ったらなんだろう?
人によっては「ナンパ」なんて場合もあるかもしれないけど、自分たちの場合は「肝試し」だった。
「肝試し」と言っても勇気を競うようなイベント的なものじゃなくて、もっと原始的に「話題の心霊スポットに行ってみる」と言うだけのもの。
 そして自分たちの地元にはドライブに最適とも言える心霊スポットが存在していた。
それは険しく細い山道の中にあるトンネルだった。
近くに新しい有料道路ができたことで旧道の方は交通量も少なくなり、整備されることもなくなって路面やガードレールにはスプレーで書かれた落書きが放置され、よりいっそうアンダーグラウンドな雰囲気を強めていた。
トンネルまでは片道で1時間程度だったから、初心者のドライブにはもってこいの距離感でもある。

 もともと自分の親は自営業をしていて車を借りやすい環境にあり、借りられる車もミニバンだったため自分が車を出す頻度も多かったのだが、その日も運転は自分がしていくことになった。
何時頃に集まって何をして過ごしていたのかは覚えていないけど、トンネルへと向かって出発したのは夜中の1時頃だったのを覚えている。
まだ大学生活も始まったばかりでバイト代などの自由に使えるお金が限られていたから、トンネル近くの有料道路が深夜2時から無料開放されるタイミングに合わせて出発したのである。
 トンネルのある旧道は有料道路の入り口付近から有料道路を回避するルートのように分岐している。
交通量が少ないというだけのことが明確に新道との雰囲気の違いを醸し出している。
街灯のたぐいはいっさいなく路上にはやたらと落ち葉が散乱してる。
新道から離れればすぐに自車のヘッドライト以外の明かりが存在しない闇の空間が広がる。
道幅も狭く曲がりくねった坂道になっているから、万が一対向車が来たりしたら初心者にはかなりハードルの高いすれ違いをしなければいけなくなる。
非日常的な異空間に怯えながらもハイテンションで時おりヘッドライトを消してみて「わぁーーーー!」なんて騒いでいたものの、落書きだらけのガードレールに真っ黒に書かれた「死ね」の二文字が異様な存在感を放っていて思わず口ごもってしまう。

 やがて目的のトンネルへと到達する。
もうそこまで来てしまうと誰もがビビっていて余裕はなかった。
噂では「トンネルでライトを消すと~」とか「クラクションを鳴らすと~」みたいなネタが囁かれていたが、トンネルの近くまで行くと車を止めるのもはばかられる雰囲気で、ただ淡々とトンネルを通り抜けることしかできなかった。
トンネルそのものはそんなに長いわけでもなく、まっすぐ伸びた100mくらいの長さだったから、トンネルの中にいた時間なんてのは30秒にも満たなかったんだと思う。
短い時間ではあったものの、友人たちと恐怖感を共有するワクワクと、1秒でも早くトンネルを抜けてしまいたいという気持ちが混ざりあった不思議な気持ちを味わっていたのを覚えている。

 トンネルを抜けるとすぐに、狙ったかのように存在する神社があるらしい。
神社は旧道から少し山に分け入っていくような位置に建てられているから、道から見えるのは人ひとりがようやく通れるような石段が闇の中へと伸びているだけだ。
聞いた話では首の落ちたお地蔵様が放置されているらしく、石段の一番上まで行ってくるのが勇者へのクエストになっているのだとか。
自分より早く免許を取った友達なんかは、石段を途中まで登るところまでチャレンジしたらしい…が、自分たちは速度を落とした車の中から石段を眺めながら通過するのが精一杯だった。

 そんなこんなでビビるだけビビってなにを成すでもなく、旧道を更に進むと有料道路の向こう側へと合流できる。
時間はすでに2時を回っているから、帰りは無料開放された新道を通ってもどることができるのだ。
新道に合流すると所々に街灯の明かりがあるし、きれいに舗装された2車線の道路ではあるものの、車通りのまったくない深夜の山道の真っ只中であることには変わりがない。
誰もがまだ緊張のさなかにいて口数も少なく、ただひたすらに進む前方だけに集中して街の灯りを目指していた。

 そしてようやく山道を抜けて山ぎわの市街地の道路まで戻ってきた。
その道は高速道路のインターへの取付道路にもなっているから中央分離帯もある4車線の大きな道で、車通りはないものの明るく開けた視界が広がっていてようやく日常へと帰ってきた実感があった。
そこまで来ると緊張もとけて「あそこが怖かった」だの「ライト消したときはヤバかった」だのと盛り上がり始める。
 しばらく走っていると実に2時間ぶりくらいになる赤信号にひっかかって車を停車させた。
すると少しして…追い越し車線側に止まっていた自分の車の左側に別の車が並んで停車する。
自分たちの乗っていたミニバンに比べると車高の低い古い車で、運転席にいた自分からはあまり視界に入ることなく、大して気にもとめていなかったのだけど、ふと隣の車を見やった助手席の友達の顔が急にひきつったのがわかった。
慌てたように自分と後部座席にいた友達を振り返って…

「ヤバいヤバいヤバいヤバい!!隣の車の運転席に誰も乗ってねぇ!!」
とまくし立てた。
びっくりして隣の車を覗き込んだ俺は…




「左ハンドルやないかいっ!!」

…とつっこんだのであった。

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