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恋は殺す

むかし好きな人がいた。

必死で気持ちを殺した。

泣きながら唸った。

死ぬほど辛かった。


私は女の子だった。

髪を腰まで伸ばし、

フリルのあるミニスカート、
ニーハイソックスが大好きだった。

可愛いと言われるのが嬉しかった。

女の子のままのはずだった。

それがだんだん壊れていった。

家庭の中で。

私は幼い頃から家庭内でセクハラを受けていた。

頻繁に尻を触られ、太ももを撫でられる。

嫌がっても嫌がっても。

幼い頃にお風呂で乳首を触られたこともある。

鏡越しにじっと見られる。

当人は悪気はないのだろう。

身内だから、子供だから、

世間の目に晒されることなく許された。

女、子供。

私は弱い立場なのだと理解した。

いつしか家で〝可愛い〟と思われないように

努力するようになった。

可愛いと思われるのが怖かった。

知人から可愛いと言われることすらも怖かった。

男に性的にみられる。

男に見下され、舐められる。

私は親とまともに目を合わせられない。

楽しく笑って会話ができない。

弱みも見せられない。

人生相談はしない。

明るい笑顔も寝顔すらも見せたくない。


わざと態度を悪くし、

わざと汚い言葉を使い、

わざと強がり、

わざと変な顔をしたりしていた。

男が家に帰ってくる音が聞こえると、

ビクンと心臓がはね、
体は反射的に逃げようとする。

オシャレした日は見つからないように
隙を見て外へ出る。

帰ってくると自室へ直行し、
ティッシュで化粧を崩してから居間へ行く。

今でもそう。

キメている姿は見せられない。


そんな思春期、反抗期を引きずったまま、

大人になってしまった。


昼にバイトが終わり帰宅した日のこと。

玄関を開けたタイミングで男と鉢合わせた。

私は反射的に玄関の戸を閉め外に出た。

OLのようなスカートの制服だったから、

いつも見られないようにしていた。


外の朝顔の世話をしてから中に入ることにした。

男はなぜか、追うように外まででてきた。

私の姿を見る以外に理由のない行動。

私は睨みつけ罵倒する。

そして中へ戻ったと思ったら、

すぐに犬を連れて散歩しに外に出てきて
私の後ろを通っていった。

犬を使ってまで見にくるな。

私はすかさず家に入り自室へ逃げ込んだ。

犬の散歩は1分で終わったらしく、
すぐに帰ってきた。

気持ちが悪くて、消費されたような気がして、

悔しくて悔しくて声を出さずに泣き狂った。

怒りと嫌悪と不条理さでたまらなかった。

心臓が痛く、息苦しい。

借り物の制服を床に思いっきり叩きつける。

引きちぎってやろうかと思った。

女性の制服をスカートにするなよ。

心があまりにもぐちゃぐちゃでやばいと思い、

出掛けるために化粧を直そうとするのに、

直しても直しても涙と鼻水で流れ落ちる。

なんとか直した後、40分車を走らせ、

大好きな苺クレープを食べた。

性別 : 桜哉

と割り切れるまで結構時間がかかった。

今でも「男だったら…」「女だから…」
と思うことは多い。

私は自称中性、自称無性愛者。

後天性なので、自称でしかない。

男装を好む人生なんて想像もつかなかった。

性別を突きつけられたのは酷く病んでいる時期。

幼少からのセクハラへの最悪な感情が、
その病みと重なってしまった。

自分が女ということが、性の対象になることが、

気持ち悪くてたまらない。

なぜ私は女に生まれたのか。

なぜ男と女には差があるのか。

なぜ神様は性別を分けたのか。

性別について考え続けた。

女をやめたかった。

男になりたかった。

それは裏返すと、

自分に得られなかった権威が欲しい
という気持ちだったのだと思う。

だんだん自分の中に、

〝自分の女性性に対抗する性別〟

のようなものが生まれてきた。

自分の中の〝男〟っぽい部分。

日によって男の気分と女の気分が
入れ替わるようになった。

躁鬱とも重なって、多重人格かと思った。

自分でも訳が分からなかった。

男———|———————女
    ↑今はこの辺かな?

みたいな脳内パラメータで測っていた。


女は弱くて消費される存在なのだと、

私の脳はインプットしてしまっている。

それこそ差別的で問題あると思うが、

えぐられ続けた傷は埋まらない。

フラッシュバックも酷かった。

別に犯されたりしたわけではない。

それでも、私は狂ってしまった。

男女の肉体関係を嫌悪したまま育った。

恋愛はかなり厳しい。

心だけで好きになっても、

相手はそういうわけにはいかないのが現実。

恋は最初から失恋に等しい。

だから恋愛は捨てた。

好きな気持ちは殺すしかない。

そして自分を愛すしかない。

家族にはたくさんの恩があるが、
この闇だけは表現のために利用させていただく。

家庭や大学で辛い経験をし、
それを引きずり苦しんだ日々、

脳から消えることのないその闇は、

自分の作品として世に放ち、

人とのご縁となり、

人生経験となり、

お金に変わり、

そのお金で生きる。

それが私の循環。

私はそうやってこれからも生き続ける。

そして、性に苦しむ世界中の女性達が、

少しでも笑顔で生きられることを、

心の底から祈ると同時に、

自分にできることを探す。

桜哉。

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