見出し画像

FUKUI TRAD ”圓” レポ|大衆的であること、個人的であること

 UNKNOWN原宿で行われた、"圓"Pop-up Restaurant に足を運んできた。
福井県主催のFUKUI TRADというプロジェクトのイベントで、FUKUI TRADというのは、福井に根付く7つの伝統工芸品を、もっと身近な存在にしていくことをテーマにかがげるプロジェクト。毎年異なるクリエイターがこのプロジェクトに参加しており、今年のディレクターをつとめたのが、今の時代のクリエイションを牽引する、クリエイターレーベルPERIMETRON。”圓”とはこのプロジェクトの中でPop-upとして期間限定で開かれたレストランである。

FUKUI TRADとは・PERIMETRONとは
https://fukuitrad.pref.fukui.lg.jp/

圓メンバー
https://watarigarasu.work/lp/?id=24

※下記、個人の感想として、筆者の私見と解釈を多分に含んだ文であることを予めご了承いただきたい

圓でご縁な宴のスタート

一回あたり10人とかなり少人数なこともあり、こじんまりとした空気の中で宴はスタートした。今回のコンセプトは、人が囲み円となり、それが縁となっていく場になれば、という意味で"圓"になったという。座席は大きな食卓を囲む形式で、早速コンセプトである"圓"を感じた。
お料理は全5品で、二子玉川の寿司店「すし喜邑」と広尾のフレンチ「Ode」が監修。両店とも日本を誇る和洋の名店である。料理名は「玉」「重」「圓」「渦」「御縁波紋」、それぞれの料理とあわせて、恵比寿にあるGEM by motoの千葉麻里絵さんがペアリングされた福井のお酒を楽しめる。

画像5

画像6

"玉" × 黒龍 黒龍吟醸豚のリエット

お一人で参加されている方が多く最初は少し緊張感が漂っていたが、あまりの美味しさに、初対面ながら「本当美味しいですね」「このお酒とこのお料理すごくマッチしてる…」と、思わず笑みがこぼれながらの和気藹々とした食事になった。これらの食事を全て、福井の伝統工芸品である越前焼・越前漆器でいただいた。

画像7

画像8

"重" × 常山WaTom農園のカリフラワースープ/美山の米パフ/
常山の酒粕,発酵トマト/美山の豆腐

伝統工芸と最先端技術の交わりと、その先に続く模索

今回のポップアップに際して特に力を入れられたというのが、「朧月」という越前漆器。禅宗の僧侶が使用する応量器をベースに考えられ、水面に映る月がゆれる様子がモチーフになっているという。PERIMETRONのコータさんが席まで来て丁寧に説明してくださった。

画像4

ただ、越前漆器といえば木地から作られるため、このような波打った形は表現することができない。そこで試行錯誤の結果、3Dプリンターであればやりたいことに近づけるのではないか?という会話から、3Dプリンターから樹脂で形をつくり漆を塗るという、斬新なアイデアで完成に至ったという。

しかし通常3Dプリンターは、抽出したものを型として使用し、何十、何百とモノを複製していくのが基本。それに対して都度3D抽出を行い漆を塗るとなると、なかなか採算がとれず製品化が難しいのが現状だという。

画像9

"圓" × 早瀬浦 塩ぶり/蟹のブランデー漬/
へしこ, ブルーチーズ, インドの蜂蜜

「伝統工芸品を身近にする」というミッションの中で、最も大きな壁の一つはここだろうと感じた。工芸品の歴史・作り手を尊重し、プロダクトの軸・根幹をぶらさないこと、そこを守りつつ現代の生活で「身近にする・手に取りやすいものにする」ためにある程度の生産性を実現すること、その両輪を回すことは、きっと想像の何倍も難しい。
でも、すぐにできてしまうことはすぐに消費されてしまう。「難しいからやれるデザインにする」のではなく、やれるやり方を模索して、現代的なデザインに昇華させている点に、泥臭さや、妥協の概念を知らないPERIMETRONらしさを感じた。

画像11

"渦" × ESHIKOTO AWA2019 「すし喜邑」の熟成寿司のどんぶり
(ズワイガニ, 小鯛バッテラ, イカ, さわら, ぶり)

画像10

"御縁波紋" × 早瀬浦 甘酒
美山の蕎麦粉のパンドジェンヌ

洗練とカオスの共存空間

あっという間に5品を平らげ、今回の会場であるUNKNOWN原宿の内観展示を観させていただいた。中を拝見しながら、PERIMETRONの集さん・コータさん・にっしーさんの御三方とお話しすることができた。空間デザインに携わる身として、お食事はもちろん、この会場の空間づくりも、そのつくり手である皆さんとのお話も、楽しみにしていた要素である。

店内入ってすぐの食事をいただいた空間は、元々の建物を活かしたトラディショナルで洗練された雰囲気。食器が陳列された棚もシンプルながらに食器を引き立てていた。越前和紙でできた墨流しの掛け軸や、越前箪笥、めのお細工など、福井の工芸品が随所に散りばめられていた。

画像12

画像13

画像14

そして入店してからずっと隣の空間が気になっていたのだが、それがこちら。

画像15

写真だとわかりづらいが、これは天井である。空中にまた部屋が展開されているのである(上を見上げてこの写真を撮っている)。天井が右に左に、床が壁に、襖が天井に…と、天地左右が回転・逆転したカオスな茶室に心を奪われた。

これはにっしーさんが起点となったアイデアとのこと。以前PERIMETONが手掛けられた、LOEWEのPOP-UPやアーティストHIMIのライブも同様のアイデアを取り入れており、それに続く流れとしてデザインされたとのことだった。ただ最初は、洗練された空間の隣に、天地逆転的なこの空間をつくるかどうか迷ったという。それでも「PERIMETRONらしさをどこかに出していきたい」との想いから実行に至ったそうだ。
受け取り手の一人としては、洗練された空間とカオスな空間が共存しているからこそ、それぞれが両者を引き立てているように感じた。

画像16

プロジェクト関係者の名前が"圓"になって書かれている。
(なおこの畳も、床ではなく壁に貼り付けられている。)

大衆的であること、個人的であること

少し話は飛ぶが、「個人的で在れ」というのが最近の私自身のテーマだ。というのも、多くの人を惹きつけるものは、大衆的でありながら、同時に非常に個人的なものであるように思う。
これは当たり前のことなのかもしれないが、従業員が万を超える規模の会社で日々働いていると、「個人的で在れる」というのが稀有な状態になってしまう。
「プロダクトをつくる」「プロジェクトをディレクションする」という行為自体は同じであっても、それは私の「表現」ではないし、個人的な想い・個人のストーリーは自ら排除することが多い(それが適している場面が多いという方が相応しいかもしれない)。「私が好きかどうか」ではない、「クライアントが/カスタマーが動くかどうか」が最優先な世界だからだ。

これを書きながら、会社員と二足の草鞋で空間の創り手になりたいと思い立ったのは、元々そういう表現の場を、生活の中で持っておきたいと思ったからだったと思い出した。
※一応注釈をつけておくが、大きな会社で多くの人と一つのプロダクトを作っていくためには生産的・効率的な体制が必要で、そういう場で個人的であることが排除されるというのは、然るべきことであって否定しているわけではない。(筆者は普段会社で楽しく働いています)

話はさらに脱線するが、以前、かの有名なアニメーションスタジオであるPIXARの舞台裏を記録したドキュメンタリーを観た。その際も異なるクリエイターたちが、皆口を揃えて「あのキャラクターの表情は、自分のおばあちゃんを思い出してつくったんだ」「このストーリーは自分が生きてきて実際に直面した困難を反映したアニメーションでもある」と作品にこめた個人的なストーリーを語っていた。
"圓"Pop-up Restaurantに伺って、PERIMETRON、そして "圓"の3人も同じだと感じた。県のプロジェクトでも、有名なブランドのプロジェクトでも、どこか必ず、PERIMETRONとして、もっというとクリエイター1人ひとりとして、個人的な想いが垣間見えるからこそ、世代問わず多くの人を惹きつける作品を創り上げているように思う。

これは前述した漆器の話にも言えることだと思う。伝統工芸品が今の時代まで受け継がれてきたのは、その確かな技術が価値となっていることは勿論だが、ベルトコンベアのような流れ作業ではなく、作り手の個人的な想いが反映されて作品ができているからなのではないかと勝手に想像した。

"PERIMETRON / 圓 is still under construction." 

さいごに。
普段は、原宿の喧騒の中で古民家の外観が目立つUNKNOWN原宿。だが、このポップアップの期間はこのようなデザインになっていた。この大都会に珍しい古民家を借りるとなると、多くのデザイナーはこの外観を活かそうと囚われてしまうような気がする。

画像3

(元々のUNKNOWN原宿)

でも目の前に現れたのは改修中と言わんばかりの、足場とメッシュシート。固定観念を蹴飛ばしたようなこの増築スタイルに感服した。

画像1

画像2

"PERIMETRON / 圓 is still under construction." 
私は、この建物がそう訴えているように感じた。PERIMETRONは、圓は、まだまだここからだという静かな叫びが突き刺さった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?