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【短編小説】一流女優のわがまま

「ちょっと待ってよ、それ本気?」

彼女の声に気づいたわたしは、顔をあげて振り向いた。

振り向いた先には、両腕を組み、左足に体重をかけた姿勢で気だるそうにこちらを見下ろしている彼女がいた。

ワンピースの上に袖をまくったジャケットを羽織り、かかとの高いハイヒールを履いてわたしをにらみつけている。

「あたし、こんなところで演技できない。なんなの、この手を抜いたようなセットは! もうちょっと都会のオフィスっぽくできないの?」

彼女は女優だ。

今回、わたしが指揮をとっている作品の主役に抜擢をした一流女優で、まさに今、世間から注目を浴びている旬な人だ。

今回彼女に演じてもらっているのは都会に住むOLで、きらびやかでクールなIT系企業のオフィスを舞台に恋や仕事に奮闘する女性といった役どころだ。

けれど、わたしが用意したオフィスのセットが全くキラキラしておらず彼女は怒っているのだ。

「申し訳ありません。時間がなくてこんな感じになっちゃいまして……」
「バカにしてるの? こんなゴミ箱みたいな場所で、どうやってドキドキの恋愛をしろっていうのよ? もう、ふざけるのもいい加減にして!」

怒り心頭の彼女に、本当に申し訳ないと思いながらわたしはひたすら頭を下げた。

「まぁまぁ、そのへんにしといたら?」

わたし達の様子を見かねたヒーロー役の俳優がやってきた。

ど直球でわたしの好みのタイプである。黒髪で、長身の細身だけどヒョロヒョロではなく、かといって変にマッチョでもなく知性が感じられる男性だ。喉仏が男らしくて非常にかっこいい。

「時間がないんだからしょうがないじゃん」

彼がわたしをかばってくれる。

「時間がない? それなら誰かに助けを求めればいいじゃない。あたしはそれを言いたいの!」
「助け……?」

 わたしはつぶやいた。

「あなたの仕事を手伝ってくれる人はいないの?」

彼女がわたしに言う。

「探せば、いますけど……」
「じゃあなんで一人で抱え込んでるのよ」

 返す言葉がすぐに出てこず、一瞬のためらいのあと、わたしは答えた。

「それは……初めてこんな大きな仕事をもらえたので、全部自分で完璧にやりたかったから……」

彼女があきれた様子でため息をついた。

「その気持ちはさぁ、分からないでもないけど。そのせいで仕事の質が下がったら元も子もないでしょ。あたしたちはプロなのよ。いい加減なものを提供してお金をもらうことは許されないのよ」

プロ……

そうだ。わたしはプロだった。

彼女の発した言葉に、わたしは頭をガツンと殴られたような気持ちになった。

頭をガツン……

ガツン……

「大丈夫ですか?!」

目を開けると、わたしは自分の部屋のベッドに寝かされていた。

「よかったーー! もう! びっくりさせないでくださいよー、このまま目を覚まさなかったどうしようってハラハラしてたんですよ!」

ベッドの脇で安心して叫んでいる人物を見て、自分がさっきまで夢を見ていたのだと気がついた。

「……わたし……どうしたんですか……?」

状況が理解できず、わたしはその人にたずねてみた。

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