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【短編小説】水滴の転生

 気がついたとき、わたしは仲間達と一緒に天上から地上へと飛び降りている最中だった。

 わたしは水滴。

 最初は雨として地球という場所に降りそそいだ。降り立った場所は広大な海の上で、すでに降り立っていた仲間達との再会を果たして大いに盛りあがった。しかしそんな盛りあがりも束の間、わたしは蒸発して天上に戻ってきた。

 次に気がつくと、今度も地上へ向かって飛び降りている最中という状況は同じだった。だが前回とは異なり、落ちるスピードがゆるやかで、なにより自分自身が素敵な形に着飾られていることに気がついた。

 ふわふわと、風に吹かれてくるくるまわる。仲間達とダンスをするようにして降り立った場所は、赤い毛糸の上だった。

「ママ! 見て見て! お星さまが落ちてきた!」

 赤い毛糸で編まれた手袋の上に降り立ったわたしを見て、小さな女の子が満面の笑みを浮かべている。

「あら、雪じゃない! どうりで寒いと思ったら。こんなに寒くて空気が透き通っている日には、雪は結晶の形が見えるのよ。きれいね」

 わたしは、粉雪となって地上に舞い降りていた。六角形を軸にして、六本の手足を均等に広げたその姿は、地上では雪の結晶として美しいものと捉えられているらしい。

 だが自分の美しさに満足していたのも束の間、女の子が熱心に見つめるその呼吸のあたたかさで、わたしはまもなく溶けた。そして、そのまま赤い手袋の上から水分となって蒸発し、再び天上に戻ってきた。

 次はどんなふうに生まれ変わるのだろう。

 楽しみにしていたわたしの期待に反して、今度も雨として普通に地上に降り立った。

 次に降り立ったのは、日本という国の畑という場所だった。わたしは、キャベツと呼ばれる野菜の葉っぱの隙間にしばらくとどまっていた。
 しかしある日、足をすべらせてキャベツの下の土の中へ落ちた。いつものようにこのまま蒸発して天上に戻るのか……と思っていたところ、キャベツがわたしを飲みこんだ。わたしはキャベツの中の水分となったのだ。

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