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【短編小説】イベント関係者

「今年もそろそろですねぇ」
「あっという間にこの時期になったよねー」
「今年のイベントも盛りあげないと!」

 先輩たちの会話がまわりから聞こえてくる。
 僕は、今年からこの組織に新しく加わることになった新入りだ。
 待望の仕事に就けて、気持ちがたかぶる。

「分からないことだらけですが、ご指導ご鞭撻のほど、どうぞよろしくお願いいたします」

 僕は緊張しながら、近くで会話をしていた先輩たちに挨拶をした。

「あー大丈夫よ、そんなに堅苦しく考えなくて」
「そうそう、分からなければわたしたちに合わせて動けば大丈夫だから」

 先輩たちはこの業界に入って長いらしく、余裕な雰囲気を漂わせている。さすがだ。僕はそんな先輩たちを頼もしく感じた。

「はい! ありがとうございます!」

 早く自分で判断して動けるようになりたい。
 そうだ。イベント本番に向けて自分にもできることを精一杯しておこう。
そう考えた。

 この組織は、「年に一回おこなわれるイベントを大々的に盛りあげる」という重要な役目を任されている。
 そのイベントは、毎年同じ時期に一週間ほど開催され、大勢のお客さんがかなり前から楽しみにしている。開催前からテレビやインターネットのニュースで取り上げられ、まだかまだかと国民から注目されているようだ。

 この仕事においていちばん大事なことは、イベントが始まるというタイミングで、ここぞというときに最大限の力を発揮することができるかどうかだ。そのためには健康が第一だ。僕は、体作りのため毎日適量の水を飲むようにした。だが、体はまだまだかたい。

 そんなある日のこと、イベントを待ちきれない気の早いお客さんたちが僕らの様子をのぞきにきた。その手にはスマートフォンが握られ、僕らにカメラが向けられている。肖像権も個人情報もこの仕事では皆無だ。仕事に励む僕らは、いつでもお客さんの被写体となる。

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