おれは殺し屋じゃない
「じゃああなたは本当に殺し屋じゃないんですね」
「何度も言わせるな。俺は殺し屋じゃない」
村民の憩いの場、いきいきふれあいセンターまがつの一角で場違いな会話を交わす。
のどかな村だと思っていたのに殺しの依頼ときた。
事実、俺を殺し屋と間違えて接触してくる馬鹿は結構多い。
真臥津村で仲介役として出迎えたのがこの男。彼が口にしたのは現職の村長より、次の村長選の対立候補を暗殺して欲しいとのことだった。
もう用はないとその場を立ち去ろうとした時、男の様子が変わった。
「仲間が殺されたんですよ」
「は?」
「カウフマンって人ご存知ないですか?」
「知らんな」
「凰間市の路地裏で死んだんです」
「だから知らんよ」
「ならカウフマンを殺したのは誰なんですかね!」
男が瞬間的に腰に手を当てる。経験則からわかる。銃だ。
だが、させない。
右袖に仕込んでおいたナイフで相手の胸を刺して即座に引き抜く。そのまま左手で髪を掴んでグッと引きその勢いでナイフを首筋に突き立てる。ザクリと刃が肉に沈んだ。横一文字に切り裂く。
男が倒れ伏す。
カウフマン……。確か前に俺が仕事で相手をした奴だな。まさか仲間の敵討ちに俺を誘い込んだのか。
うっかり殺めてしまったが、別にいい。
「まあ、すぐに元に”戻る”」
目の前の死体がぶるぶると震え出す。不思議なことに、胸と首筋から流れ出ていたはずの血液が傷口に巻き戻っていく。
流血がきれいさっぱり失せると、傷口も何事もなかったかのように塞がっていた。
「はっ!俺は今まで何をして……」
男が目を覚ました。
死人が蘇る異様な光景もすっかり見慣れたものだ。
人間まがい。
奴らに憑依されたものは意識を奪われ凶悪な殺人兵器と化す。唯一の対処方法は、殺して戻すこと。
俺は殺し屋じゃない。戻し屋だ。人間まがいを駆除するのが俺の仕事。
この男に聞かなければいけないことが山程ある。この村も騒がしくなるだろうな。
つづく
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