性格が悪い見栄っ張りな私が受けた惨い仕打ちとは……。
大通りに開店した本格イタリアンに行ってみない?
同僚に誘われたのはいいけれど、今月の財布の中身が厳しいのを思い出した。
それを顔には出さず、私も行きたいと思っていたの!!
なんて答えちゃってる私。
またしばらくカップラーメン生活が始まる。
トイレの鏡の前。
あれっ、シミができてる!!
シワもこころなしか増えたような……。
エステの回数を増やさなくちゃ!!
あーもう!今のお給料じゃ、全然足りない!! このストレスがシワの原因のひとつであることは間違いないと思う。
トイレを出たところで、カバ子とすれ違った。
カバみたいに間の抜けた顔をしているので密かにそう呼んでいる。
最近、あの目障りだったカバ子が何故かわからないがオドオドしなくなり仕事のミスも減り明るくなった。
前はいじめたら面白かったのにつまらない。
ブスなカバ子のことなんかどうでもいいわ。
イライラするのもあほらしい。
問題はあの新入社員の女、ピヨ子よ!!
ちょっとかわいいからっていい気になって、ピヨピヨが可愛いのか男たちが鼻の下伸ばして、ちやほやしちゃってホントムカつく。
デスクに戻ると同僚の男がそのピヨ子を連れてきた。
「なに?」
アホ面の同僚男が、
「わからないことがあるみたいでさ~ちょっと助けてあげてよ。」
はぁ?!おまえが自分で助けろよ!!
と、怒鳴りたいところを必死に抑えて、抑えて、
「まかせて!後でコーヒーおごりなさいよ」
と いい女を装う。
こいつ、顔だけで採用されたんじゃないの!?
と思うくらい仕事ができない。
結局手伝うどころか全部私がしてるじゃないか!!
これで、給料貰うんか!!
退社時間にあのピヨ子がお礼を言いにきた。
出来る女の粋な流れは、食事に誘いごちそうして後輩を励ます。
いい女はそこまでしないといけないのだ。
しっかし、財布の中は北風が吹き荒れてる。
「今日は、本当ににごちそうさまでした。
とっても、美味しかったです。
私、先輩の下で働けて本当に幸せです!
これからもよろしくお願いします。」
なーんて、ぬかしながら、ぺこりと頭を下げて山の手方面の
電車に乗ってお帰りあそばしたわ。
ふん、聞けば実家は超金持ちのお嬢様。
なんで、そんなあんたにお金のない私がおごらにゃならんわけ?
今月もカード代金の請求書が恐ろし。
翌日。
頭がガンガンする。
寝る前に酒を飲みすぎた。
やっぱ、安い酒は悪酔いするわ。
重い身体をひきずって会社に着いた。
「昨日は、ありがとうございました。」
ピヨ子お嬢さまがあいさつにきた。
あんたのせいで頭痛いんだからあっちに行って!
と言いたいところだけど、社長のコネで入社したお嬢さまには、
カバ子のようには扱えない。
ストレスたまるわ。
そんなカバ子は今日で退社するらしい。
なんちゃらという資格をとって転職するんだと……。
いじめても、いじめても懲りないやつだったな。
カバ子が帰りがけに満面の笑顔で、
「先輩のお陰で、この会社を辞める決心がついて転職しようという気になれました。難関の試験も先輩の顔を思い出し歯を食いしばって挑めました。本当にありがとうございました」
ん?なんか思いっきり嫌味?
でも、顔はめっちゃ晴れ晴れしてるし。
なんかモヤモヤ。
このモヤモヤはなんだろう?
別に好きでもない後輩がいなくなったってどうってことないのに。
カバ子は何の資格を取ったんだろう?
私には関係ないと思って聞かなかった。でもあの自信に満ち溢れたカバ子が何故か心に引っかかる。
もう!!どうでもいい!!
無理やり感情を押し込めて、帰り支度を始めた。
ピヨ子が笑顔で寄ってきて、
「あの~先輩、うちの母がぜひ我が家にご招待したいって言うんです。今度の日曜日は空いていますか?」
「えっ? ピヨ…いや…あなたのお宅に?どうして?」
「わたしがすごくお世話になってるって言ったら是非にって……。ご迷惑ですか?」
確かにすごーくお世話をしてる。それは間違いない。
が、しかし折角の日曜日はぐーたら生活が私を待っている。パジャマで一日過ごしたい。
手土産買うのも出費だし、考え出したらもう面倒くさいという言葉しか思い浮かばない。
「あー、日曜日? 予定どうだったかな?」
「ガーデンパーティーでお友達のリューヤも来るんですよ。
知っていますか?ミュージシャンのリューヤ?」
なんと!!! 知ってますかじゃないわよ!!!
リューヤは私の大の大の推しメンなのよ!!
「あ~、なんか聞いたことあるかも……」
素直じゃない私。
「紹介しますから、ぜひ来てください」
「うん、まあ、行けたらね~予定見てみるわ」
スマホを取り出し、予定の入っていない画面を見て、
「あ~友達と映画に行くことになってるけど、日にち変更してもらうから」
「お友達に悪いですね?」
「事情話したら大丈夫な友達だから」
「良いお友達を持っているんですね」
何故だか、胸がチクッと痛んだ。
ガーデンパーティー当日。
ピヨ子の家は想像を超える立派な邸宅で、インターフォンを押す手が震えた。
中に案内され、庭に出ると大勢の人たちが談笑していた。
リューヤがピヨ子と話している。私に気付き手を振る。
「せんぱ~い!!」
私の顔は引きつり、声も上ずった。
「リューヤ、こちらは会社の先輩のカナ子さん。いつもお世話になっているの」
「初めまして。こいつ仕事出来ないでしょう?」
「いや、そんなこと……なぃ……」
「ご苦労お察しします」
といって、おどけてぺこりと頭を下げて笑った。
なんて、気さくで爽やかで素敵なんだろう。
私は舞い上がってしまった。
「そうそう、僕たちがよく行くクラブがあるのでカナ子さんも今度来てくださいよ」
向こうでリョーヤを呼ぶ声がした。
そちらを振り向き、じゃとかっこよく私の前から消えた。
その後、私は何をしてどうやって帰ったのか覚えていないくらい、心がフワフワと興奮していた。
リョーヤがよく行くというクラブは、年中北風が吹いている私が行けるようなクラブではない。
でも、来てくださいと誘われているんだから行かないという選択肢はない。
待ちに待った給料日。
私はリョーヤに会いにクラブの門をくぐった。
慇懃無礼な接客に気が付きながらも、そんなこと気にしないと自分に言い聞かせる。
とりあえず、無難なビールを注文してチビリチビリ飲んでリョーヤを待つ。
約束したわけではないから、今日来ないかもしれない。
でも、このクラブに来るということが私にとっては重要なことなのだ。
ビール1杯で何時間も粘れない。テキトーな時間で切り上げなければならない。一週間分のランチ代が吹っ飛び、店を出た。
こんな日を何日か続けたが、流石に金銭的に限界はくる。
今日リョーヤが来なければ、次の給料日までは来れない。
残りのビールを飲み干そうとしたときに、リョーヤが現れた。
「あれ、どこかで会いましたよね?」
「あのガーデンパーティーで……」
「あ~!!こっちで一緒に飲もうよ!!」
私は、ドキドキしながらリョーヤのそばに座った。
リョーヤはシャンパンやカクテルをグイグイ飲み干し、私にもドンドン勧めた。
良い気持ちになり幸せの絶頂にいるときに、電話がかかりリョーヤが席を外した。戻ってきた彼は急用が入ったらしくあっという間にいなくなった。
私も帰ろうと思いボーイを呼んだ。
会計の額を見て驚愕した!!
リョーヤや女性たちの飲み代まで全部の金額が含まれている。
ひと月の給料以上を一晩で使うってありえない!!
ちょっと待って!! それどころじゃない!!
お金が、現金がない!!
どーしよう!!払えない!!
カードも使えない!!
もうカードの限度額を超えている。
どうしたらいい?
恐ろしくなって震えがくる。
その時、入口からピヨ子が入ってきた。
「どーしたんですか?先輩!! 顔が真っ青ですよ」
私は半泣き状態で恥をさらけ出し、事情を説明した。
ピヨ子はお財布からカードを出して支払いを済ませてくれた。
なんて情けない。。。
私は半べそ状態でピヨ子にお礼を言ってそそくさと店を出た。
茫然自失で店の外に出たところで、
「先輩!!」
目の前にカバ子がいた。
「どーしたんですか?幽霊みたいな顔して。
ここって社長の紹介で入ったあの子の実家が経営してるお店ですよね。先輩こんな高いお店で飲んでいるんですか?」
「えっ?そうなの?」
「先輩って、何も知らないんですね?」
「あの子、一度はオフィスで働いてみたいって、コネで入ったんですよ。もうじき結婚するから辞めると思いますよ」
「結婚?」
「ミュージシャンのリョーヤって知っていますか? その人とするみたいですよ」
「え~っ!!ホントなの?」
「こんなことウソ言ったって仕方ないですから」
「先輩、リョーヤ好きですよね?」
「なんで?なんで知ってるの?」
「もう、先輩有名でしたよ。みんな知っていました。陰でみんなで馬鹿にしてたんですよ」
「どーゆーこと?」
「先輩は隠していたつもりでしょうけどね」
なんで? どーして?
「先輩は単純バカって陰でみんなが言っていましたよ。見栄っ張りでミーハーで、いい女ぶってるだけだって」
「えっ?」
「あの子なんか面白がっていましたよ。
自分の婚約者を使ってなんか企てている感じでしたよ。
先輩なにかされませんでしたか?」
「それじゃあ、これはすべて計画的だったってことなの?」
「やはり、なにかされたんですね?」
私はカバ子にすべて話した。
「それ、完全にやられてますね。先輩に恥かかせて今頃笑ってますよ」
「どーして? 私はあの子に嫌がらせされるようなことしてない。むしろ、助けてあげているのよ!!」
「先輩の上から目線と偽善的なかんじが嫌だって言ってましたよ。私からしたら同類って思いますけれどね」
私は金づちで殴られたような気分だった。
「もっとも、私には偽善もなかったですよね?
もろに嫌がらせされてたから」
返す言葉がなかった。
「でも、ホントにそのお陰で一念発起して頑張れたんだから今は感謝してますよ」
カバ子の言葉に嘘はないと思えた。
私がバカだったんだ。大バカだ!!
そして、カバ子は私みたいになりたくないという気持ちで頑張って今があるのだ。
だから、カバ子が会社を辞めたとき胸がちくりと痛んだんだ。
私は空っぽのピエロだ。みんなに笑われていたんだから。
私は叩きのめされた。
ピヨ子にハメられた後にカバ子に出会えたことは、神様から与えられた最後のチャンスだったんだと思う。
もう背伸びするのはやめて、身の丈に合った生活をしよう。
お金がすっからかんになってしまった。
明日は早起きしてお弁当を作ろう。
おわり
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