マガジンのカバー画像

さらぬわかれ

111
村の1本の咲かない桜の木。 その木には、曰くがあり…。 8歳のまま成長を止め意識のない姉とその妹の話。 GREEのコミュニティで発表していた小説(2009/1/17~)の完全… もっと読む
¥240
運営しているクリエイター

#妖刀

さらぬわかれ 74

「どうしてお前が刀を持っているんだ!」
恒太が恒孝に敵意を向けた。

「恒太、父を『お前』呼ばわりするのは感心しないなぁ。」
不敵に笑う恒孝。

「もしかして、貴方話を聞いていたの?」
波留日の質問に、
「そうだよ。立ち聞きして悪かった。」
と悪びれもない顔で刀を持たない方の手で妻の髪に指を絡ませた。
波留日の顔がカアッと赤くなった。

もっとみる

さらぬわかれ 75

「ふっ、やはり抜けないか。」
恒孝は自嘲した。

「あなた、この刀をどうするつもりなの?」
妻の問いに恒孝は、
「鍛冶屋に行って、融かしてもらう。
鞘が抜けないなら、まるごとね。」
と答えた。

もっとみる

さらぬわかれ 76

栄子には妖刀【櫻葉】から靄のようなものが見えた。
それは恒太の身体にまとわりつき、恒太の中に侵入していった。

恒太は刀を握ったまま、虚ろな目で立ち尽くしていた。

栄子は胸騒ぎがした。「あれ」は恒太ではないのではないか。

もっとみる

さらぬわかれ 77

波留日は和室に救急箱を持ってきて、恒孝の左手の怪我を手当てした。

「波留日、ありがとう。」
恒孝は今までの心のこもっていない笑顔とはうって変わって、穏やかな笑みを浮かべている。
「出血量の割には、傷が浅くて良かったわ。」
波留日は救急箱の蓋を閉めた。

もっとみる

さらぬわかれ 78

「確かに、『あれ』は恒太の顔つきではなかったね。
他人を殺すのに躊躇がない感じだった。」
恒孝は気絶している恒太の手から妖刀を外した。

「じゃあ…恒太の中にいるのは、『誰』なの?」
波留日は顔面蒼白で意識のない息子の手を握った。

もっとみる