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さらぬわかれ

111
村の1本の咲かない桜の木。 その木には、曰くがあり…。 8歳のまま成長を止め意識のない姉とその妹の話。 GREEのコミュニティで発表していた小説(2009/1/17~)の完全… もっと読む
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2022年12月の記事一覧

さらぬわかれ 108

栄子が病室に入ると、横たわる桂のそばで両親が泣いていた。

「お父さん、お母さん…」
姉は助からなかったのではないかという不安が、栄子を襲った。

「栄子、何処に行ってたの!桂…桂が!」
栄子の母が、桂を見るよう促した。

「桂…お姉ちゃん?」
恐る恐る、栄子は姉の名前を呼んだ。

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さらぬわかれ 109

春の陽光が暖かい日。
地元の高校に進学した栄子は、丘の上の桜の下にいた。

「栄子!」
栄子と同じ高校の制服に身を包んだ恒太が、丘を登ってきた。

「恒太、もうすっかり脚治ったね。」
栄子は力強く丘を登りきってきた恒太に微笑みかけた。

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さらぬわかれ 110

「恒孝さんは、まめに帰ってくるようになったよね」
恒孝は、以前栄子に言った通り、毎週末東京から妻子に会いに帰るようになっていた。

「ちょっとうざったいけどな。まあ、母さんも嬉しそうにしてるから、我慢するよ。」
こんなぶっきら棒な言い方だが、恒太は父親が帰ってくるのが本当は嬉しいのである。

「栄子の両親も、家に帰るのが早くなったんだよな?」

「うん。桂お姉ちゃんの治療費を稼がなくても良くなった

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