2022年11月の記事一覧
さらぬわかれ 103
「…つまり、【櫻葉】が妖刀になったのは、恒之新様の村人や自らの家に対する怨嗟の念が原因なんだね。そして、桜の木の祟りを引き起こしていたのも、ここが恒之新が最期を迎えた場所だから……」
真実を知った栄子は、ようやく祟りの原因にたどり着いた。
「おそらく、手紙の内容が事実と違うのは、母親が子どもに伝えるには残酷過ぎたからだろうね…」
恒孝は顎に手を当てて呟いた。
さらぬわかれ 104
「じゃあ、今さくらと恒之新様が会えたのだから、恒之新様の無念は晴れたはずだよね?さくらの魂は桜の木から自由になって、桂お姉ちゃんの体に戻れるはずだよね?」
栄子は周りに同意を求めた。しかし、誰もが険しい顔をしていた。
さらぬわかれ 105
「消えちゃダメ!」
さくらに向かって、栄子は叫んだ。
「栄子…私…短い間だったけど、会えて良かった…。本当は…さくらとしてじゃなくて…あなたの…姉の桂に…戻りたかった。桂の肉体が死んで…私が消えても…魂は、この桜の木で…眠っているから。忘れないで。」
さくらの姿は、今にも消えて無くなりそうだった。
さらぬわかれ 106
恒太の言葉にその場にいた皆が凍りついた。
「恒太、何言っているの!そんなことをしたら、また恒之新様に体を乗っ取られるわ!」
波留日は息子の身を案じた。
「大丈夫、俺は自我を保ってみせる。恒之新が俺の中に入れば、恒之新の魂の時間は動くはずだ。さくらが桂さんの中に戻ることで共に生きられる希望を持てれば、さくらを縛り付けている祟りは解消されるはずだ。」
恒太の意志は固かった。
さらぬわかれ 107
恒之新を受け入れた恒太は、その場に倒れ込んでしまった。
「恒太!」
皆が恒太に駆け寄った。恒太自ら刀で刺した大腿から血が大量に出ていた。
「…栄子、俺は大丈夫。血が足りないだけだ。それより、さくらはどうなった?」
「…いない。」
栄子はさくらがいたはずの場所を確認したが、影も形もなかった。さくらは桜の木に取り込まれてしまったのだろうか?それとも桂の肉体に戻ったのだろうか?