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女性は夫が死んだ方が長生き?;統計でウソをつく方法

 独身研究家の荒川和久氏がやらかした記事をネタに市井のフェミニストが、未婚・有配偶・離別・死別で分けた男女の寿命からみて「女が如何に結婚で搾取されているか」をいまだにグダグダ言っているのを見かけた。

 元ネタになった荒川和久氏の記事はyahoo!ニュースに転載された際、その統計解釈の未熟さについてコメント欄でかなりボロカスに叩かれ、荒川氏自身もその未熟さを理解したのか、批判された部分についてかなり修正した記事をあげている。ただ、その荒川氏がやらかした痕跡がひょんなところに残っていて、「ああ、こういうのを見て未だに騒いでいるのか」と納得した次第である。ちょっと引用してみよう。

平均寿命をはじめとしたライフプランに関する統計値については、常日頃、アンテナ高くチェックしているつもりです。でも最近、私でも驚いた、そんな統計値を目にしたのでご紹介しましょう。以下、独身研究家(いろいろな研究家がいるものだってことも驚きです…苦笑)の荒川和久氏による男性の寿命に関する統計値です。結婚しているのか否か、そして結婚しているのなら、その別れ方(離婚か死別か)によって、寿命のピークがどのように違ってくるのか、というデータ※2です。

未婚男性  65~69歳
離別男性  70~74歳
有配偶男性 80~84歳
死別男性  85~89歳

結婚しないと男性は早死するみたいです(驚!)。男性が長生きするには結婚したほうがいいとも言えますね(笑顔!)。でも、男性は「長生きしたいから結婚してください!」なんて、自分勝手なプロポーズはしないほうが良さそうです。というのも、驚きを通り越し、背筋が寒くなってしまった統計値を目にしたからです。同じく荒川氏によるもので、女性の寿命に関する統計値。以下、男性と同じ定義のデータ※2となります。

(中略)

有配偶女性 80~84歳
離別女性  85~89歳
未婚女性  85~89歳
死別女性  90~94歳

男性は結婚したほうが長生きするようですが、女性は逆で、結婚すると早死にし、別れたり結婚しないほうが長生きするみたいです。ですから、先ほどのようなプロポーズは返り討ちにあうこと間違いなし…(苦笑)。男性は女性の長生きにとってお荷物ってことなんでしょうか? あくまでも統計上の話しではあるのですが、なんだか、そら恐ろしいデータを見てしまったので、自分だけでは抱えきれず、男性諸氏には少し不都合な真実をお披露目した次第です。

※2 出所:諸富祥彦 『50代からは3年単位で生きなさい』、p.70-72、河出書房新社

結婚と寿命に関する男性にとって不都合な真実!?
大和証券 2022/11/11 (2022/8/26作成)
ライフプランコラム「いま、できる、こと」vol.227 (強調引用者)

 引用した大和証券のコラムは荒川氏の元々の記事の論調を引き継いだコラムである。とりわけ、コラムの題名および以下の箇所に当初の荒川氏の記事の論調が表れている。

  • 結婚と寿命に関する男性にとって不都合な真実

  • 女性は結婚すると早死にし、別れたり結婚しないほうが長生きする

  • 男性は女性の長生きにとってお荷物

 実はコレは、全く統計を理解できていない人間の感想である。まぁ、元々の荒川氏の記事に引っ張られたのかもしれないが、「平均寿命をはじめとしたライフプランに関する統計値については、常日頃、アンテナ高くチェックしているつもりです」などと宣う証券会社の人間もサッパリ統計を理解していないという事が判明した大爆笑コラムである。

 今回の記事では「統計のウソ」をメインに取り上げていきたい。また荒川氏のやらかしについて推測を交えて最後に触れておこう。


■統計でウソをつく方法

 統計を使った「女性は、結婚すると早死にし、別れたり結婚しないほうが長生きする」というウソのつき方をこれから見ていくことにしよう。

 さて、男性集団と女性集団について、寿命という視点で考えると男性集団は短命集団であり、女性は長命集団である。ここで男女のまま考察するとジェンダーによる負担の違いがどうのこうのとフェミニストが壊れたラジオのノイズのような戯言を言い始めるので、一旦べつの短命集団と長命集団で構造を考えてみよう。

 では、短命集団としてロシア男性集団、長命集団として日本男性集団を考えよう。平均寿命はそれぞれロシア男性集団66.49歳(2020年時点)で日本男性集団81.64歳(2020年時点、2023年時点だと81.05歳)である。まぁ、構造の話をするだけであり、細かい数値は必要ないので以下のように切り捨てで数値を丸めよう。

短命集団:ロシア男性集団:平均寿命66歳
長命集団:日本男性集団:平均寿命81歳

 ここで同い年のロシア人男性と日本人男性でペアをつくってみる。このペアに関してみると、別に生活を共にするとか、交流を持つとかいったことは一切考えなくてよい。単に、ある一人のロシア人男性とある一人の日本人男性を名目的にペアにする、という操作をするのだ。また同時に、ロシア男性とのペアを考えない日本男性も考える。

 さて、ロシア男性とのペアをつくった日本男性について、ペアになったロシア人男性より先に死んだ日本男性と、ペアになったロシア人男性よりも後に死んだ日本男性で、別にグループをつくる。

 つまり、日本男性集団は以下の3つのグループに分かれる。

  1. ペアのロシア男性より先に死んだ日本男性グループ

  2. ペアを考えない日本男性グループ

  3. ペアのロシア男性より後に死んだ日本男性グループ

 この3つのグループについてそれぞれ平均寿命を考えたとき、だいたいどんな数値になるかを考察しよう。

 まずは第1グループであるが、平均寿命が66歳のロシア男性よりも先に死んでしまう人のグループである。もちろん、ロシア男性でも100歳まで生きる人はいるだろうから、そんなロシア人とペアになれば90歳まで生きても、ペアになったロシア男性より先に死んだ日本男性になる。だが、ペアとなるロシア男性が死ぬのはたいてい平均的な年齢の近辺であって、66歳よりも上過ぎるのも下過ぎるのもそうは多くない。そして、第1グループは平均寿命が66歳のロシア男性よりも若い年齢で死んでしまう日本男性のグループとなるので、第1グループの平均寿命は66歳よりも低くなるのである。

 次に第2グループであるが、このグループの平均寿命はなにも操作していないのだから、誤差程度のズレが生じるとはいえ第2グループの日本男性の平均寿命は、日本男性全体の平均寿命の81歳とほぼ等しくなるだろう。

 最後に第3グループを考えよう。さて、この第3グループであるが、ロシア男性とペアをつくったグループ全体から第1グループを除いた残りの日本男性からなるグループである。すなわち、若死にした日本男性のグループを除いたグループが第3グループである。したがって、第3グループの平均寿命に関しては、基本的に若死にした人間を除いて平均寿命を考えることになるので、若死にした人間も含む第2グループよりも平均寿命は高くなる。すなわち、第3グループの平均寿命は81歳よりも高くなるのである。

 まとめると以下のようになる。

1.ペアのロシア男性より先に死んだ日本男性グループ:平均寿命66歳未満
2.ペアを考えない日本男性グループ:平均寿命81歳程度
3.ペアのロシア男性よりも後に死んだ日本男性グループ:平均寿命81歳超

 以上の結果から統計でウソをついてみよう。

日本男性は、名目上でもロシア男性とペアにされると早死にし、ペアにされない場合やペア相手のロシア男性が死ぬと長生きする。つまり、ロシア男性は日本男性の長生きにとってお荷物ってことなんでしょうか? あくまでも統計上の話しではあるのですが、なんだか、そら恐ろしいデータを見てしまったので、自分だけでは抱えきれず、ロシアには少し不都合な真実をお披露目した次第です。

統計でつくウソ (筆者作成)

 うわ!なんて、おそロシア!

 同い年のペアを想定するだけで、日本男性の寿命を縮めるだなんて!しかも、そんな名目上のペアから相手の死によって解放されただけで、日本男性の寿命が延びるなんて!なんてロシア男性は日本男性を抑圧しているんだろうか!

有り得ない!ひどすぎる!ロシアによる日本差別だ!
怒りで震えて涙が止まらない!

統計によるウソに基づく糾弾 (筆者作成)

 「日本男性とロシア男性の名目上のペア」の想定によって「ペアのロシア男性より先に死んだ日本男性」「ペアの居ない日本男性」「ペアのロシア男性より後で死んだ日本男性」とグループ分けしたときの、それぞれのグループの平均寿命で上記のような主張を言い出したらバカ丸出しである。「もうちょっと頭つかえよ」と言われてオシマイである。

 しかし、長命集団を日本男性から「妻」に、短命集団をロシア男性から「夫」に変更した途端、フェミニズム思考からの戯言が飛び出し、「夫が妻を抑圧する構造」なんて話になる。

 フェミニスト達は「男と女」が議論に混じると、途端に「男を悪者にするストーリー」に飛びつく。そして、統計でつくウソを吹聴しまくるのだ。


■荒川和久氏のやらかし

 さて、荒川氏は未婚・有配偶・離別・死別の男女別の寿命の問題圏の記事を何本か書いているのだが、ボロカスに叩かれた部分は(おそらく)修正して残っていない。したがって、荒川氏が未熟な統計解釈を行ったというのは、私の記憶違いで上の大和証券のコラムの論調はコラム執筆者自身のチョンボである可能性もある。しかし、大和証券のコラムの「~みたい」「ってことなんでしょうか?」「自分だけでは抱えきれず、~お披露目した次第」といった表現は、内容が伝聞であることを強く窺わせる。また、以下の(おそらく修正し損ねた)荒川氏の記事の箇所から判断すると、彼がやらかしたのは私の記憶違いではないだろう。

もちろん、夫婦は夫が妻より年上の場合が多いので、実際夫が妻より先に亡くなるパターンが多くなるわけですが、配偶関係別に見た場合、女性は夫がいる有配偶状態が最も早死にしているという事実は驚きではないでしょうか。

独身か有配偶かで異なる男女の「人生」の長さ;寿命や死因データで「ソロ生活耐性」を分析
荒川和久 2020/03/05 東洋経済オンライン (強調引用者)

 上記の太字で強調した事実は別に驚きでもなんでもなく当たり前の話なので、これを「驚きの事実」と解釈したことについて、荒川氏は統計解釈が未熟とボロカスに叩かれる。もっとも、この東洋経済オンラインの記事で叩かれたのか、次にあげるプレジデント・オンラインの記事で叩かれたのか、私の記憶が定かではないのだが、おそらくはプレジデント・オンラインの記事で叩かれたのではないかと思う。

 コラムと記事の日付から判断して大和証券のコラムはプレジデント・オンラインの荒川氏の記事(あるいはこの記事が転載されたyahoo!ニュースの記事)をみて書かれたものだと思われる。また、大和証券のコラムの内容から判断して、プレジデント・オンラインの記事の内容も当初は「女性は夫がいる有配偶状態が最も早死にしていることを驚きの事実」としていたことが窺える。

 だが、その内容に関しては統計解釈が未熟と言えるためにボロカスに叩かれ、それがゆえに後になってプレジデント・オンラインの記事はガッツリ修正したと思われる。2023年10月15日時点で検索できるプレジデント・オンラインの記事では、荒川氏は以下のように書いている。つまり荒川氏は当初の記事の内容から一転して「驚きの事実ではない」ということを躍起になって示そうとしている。

一方、女性は男性と真逆の傾向です。有配偶女性がもっとも短命で、未婚や離別女性のほうの死亡中央値が上回ります。結婚生活中の女性は寿命が縮むのでしょうか? 長生きのためには、有配偶女性は離婚したほうがよいのでしょうか?

いいえ、そうではありません。

有配偶女性の死亡中央値が低くなるのは、有配偶である期間が男性より短いため、総数の母数が小さくなるために起きた計算上の問題です。大抵の妻は夫より長生きです。つまり、多くの有配偶女性はそのまま死別女性へと移行します。実際、実数では有配偶のまま死亡する女性の数は少ない。50~64歳での人口千対死亡率で見れば、有配偶の男性は3.1人、女性は1.9人です。つまり、結婚しているから女性が短命になるというわけではありません。

「一人だと短命になる男、一人だと長生きする女」年金すら受け取れない独身男性の虚しい人生 
荒川和久 2022/02/22 プレジデント・オンライン(強調引用者)

 上記が修正された内容であるということは状況証拠からの推測に過ぎない。もちろん、修正など行われてはおらず当初の内容そのままであるという事態の可能性はゼロではない。

 だが、上記のプレジデント・オンラインの記事の内容に修正が入っていないとすると、大和証券のコラム執筆者は荒川氏の記事に上記の太字で強調した箇所があるにも拘らず、「結婚すると早死にし、別れたり結婚しないほうが長生きするみたいです。(中略)男性は女性の長生きにとってお荷物ってことなんでしょうか?(中略)自分だけでは抱えきれず、男性諸氏には少し不都合な真実をお披露目した次第です」と書いたことになる。

 しかし、いくらなんでも、「総数の母数が小さくなるために起きた計算上の問題です」「結婚しているから女性が短命になるというわけではありません」と断り書きがあるのに、「結婚すると早死にし」「男性は女性の長生きにとってお荷物」と曲解することはないだろう。つまり、当初のプレジデントオンラインの記事においては、「結婚すると早死にし」「男性は女性の長生きにとってお荷物」と読解できる内容があったと推測できるのだ。

 そして、そのプレジデント・オンラインの記事の「結婚すると早死にし」「男性は女性の長生きにとってお荷物」と読解できる当初の内容は、yahooニュースに転載された際にコメント欄でボロカスに叩かれたため、yahoo!オリジナルのニュース記事として弁明記事が書かれたものと思われる。因みにその一部が以下だ。プレジデントオンラインの記事の修正された内容とほぼ同じなのが笑ってしまう。

ところで、女性では、有配偶女性がもっとも短命なのだが、これは結婚生活中の女性は寿命が縮むのだろうか。長生きのためには、有配偶女性は離婚した方がよいのだろうか。

そんなことを考えたくもなるが、決してそうではない。

有配偶女性の死亡中央値が低くなるのは、有配偶のまま死亡する女性の総数が少ないためである。大抵の妻は夫より長生きだ。つまり、多くの女性は有配偶のうちには死なず、死別女性として死亡するのである。つまり、結婚しているから女性が短命になるというわけではない。

「いのち短かし、恋せぬおとこ」未婚男性の死亡年齢中央値だけが異常に低い件
荒川和久 2022/9/8 yahoo!ニュース 

 また、この記事を書くにあたって検索して初めて気づいたのだが、ごく最近にも荒川氏は「未婚・有配偶・離別・死別で分けた男女の寿命」の問題圏の記事を書いている。ただし、「未婚男性の寿命の短さ」に重点が移っている。まぁ、これは叩かれまくっていたyahoo!ニュースに転載された記事のコメント欄で指摘されていたことであったりする(実際、あのデータを解釈した場合にオカシイのは未婚男性の寿命の短さであって、女性の寿命に関しては奇妙でもなんでもない)。そして、かつて叩かれまくった女性の寿命に関する点については、以下のように解釈にあたっての注意を促している。

念のため、死別男女がもっとも長生きだからといって、「配偶者と死別すれば長生きできる」ということではない。あくまで配偶者と死別するまで有配偶状態が継続した結果にすぎない。

また、女性の場合、有配偶がもっとも短命に見えるが、これも「結婚した状態だと女性は早死にする」のではなく、そもそも有配偶のまま死亡する女性の総数が少ないためである。大抵の妻は夫より長生きだ。一般的に、多くの女性は有配偶のうちには死なず、死別女性として死亡するのだが、有配偶女性だけを抽出して死亡中央値を計算するとこういう結果になるだけのことである。

配偶関係別の死亡中央値年齢「未婚のまま高齢者となった男達はどう生きるか?」
荒川和久 2023/10/13 yahoo!ニュース

 まぁ、荒川氏はかつてのやらかしの責任をとって注意喚起しているといえるのだが、未だに荒川氏のかつての「女性は夫がいる有配偶状態が最も早死にしているという事実は驚き」という見解に則って男性を悪玉に仕立て上げるフェミニストがいるので、なかなかに荒川氏は罪深いと言えよう。


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