見出し画像

私の抽象思考

 差別問題を扱うときの私個人の抽象思考がどういったものからスタートしているかということに関して、以下に示す記事を書いた。正直なところ、私個人の思考様式の表明にそこまでの需要があるのかどうか分からないのだが、私の抽象思考はバークリー、ヒューム、カントなどの認識論にも通底する考え方に基づいているので、明かす意義がなくはないかもしれない。

 ただし、上記の記事でも述べたことだが、この手のnote記事を書く動機が「譬え話や逸話による説明を多用していることから生じた疑義を晴らす」というものだ。つまり、「そもそもの(私の)議論の元になった考えには譬え話や逸話による思考に由来する非論理性が存在するのではないか」という疑いに対して、「私は他人に自分の考えを示そうとする"説明段階"で譬え話や逸話を用いているのであって、問題について一人でアレコレと考えている段階では譬え話や逸話を使用していない」ということの実際の証拠として出そう、という意図がある。このため、前回記事同様、記事内容に関する理解を得ようとする意思はあまり無い。したがって、かなり不親切な文章となるとは思うのだが、それに関してあらかじめ了承願いたい。

 上記の記事で示した認識枠組みについてだが、差別問題を取り扱うときだけに用いている枠組みではない。ごく日常的な物事に対しても、「さて、いったん抽象的枠組みで考えてみるか」との態度を取るときにおいても同様に採用している。まずは、私が頻繁に用いている抽象的な枠組みを示そう。

●様々な感覚からの与件の纏まりとして以下で表されるベクトルvが人間には与えられる。
           v=(x,y,z,・・・)
 このときの、x,y,z,・・・はそれぞれ個々の感覚からの与件を示す。
●感覚からの与件の纏まりvは、表象として認識される。
●表象vは、写像fによって観念aに写される

 上記の構造はカント哲学の認識論の解説においてしばしば登場する「リンゴを認識するときの様子の説明」でよくみられる構造である。登場する用語やそこから発展する認識論および認識論を前提にした存在論の議論では相違点があるのだが、囲みで示した上記の構造あたりだと、バークリーもヒュームもカントと大して変わらない。まぁ、専門の哲学研究者からは「一知半解の愚か者め!」と叱られるかもしれないが、私の理解としてはそういう理解でいる。

 さて、上の囲みで示した内容を説明するにあたっては私もリンゴを例に用いることにする。では早速「目の前にリンゴがある情景」を思い浮かべてもらおう。

 このとき、視覚から「赤い(という見え)」「丸くて上下が凹んでいる形(という見え)」といった与件が得られ、嗅覚から「甘酸っぱい匂い」という与件が得られ、手を伸ばして握ると「ちょっとペタペタした触り心地」などが得られる。これらの「赤い(という見え)」「丸くて凹んでいる形(という見え)」「甘酸っぱい匂い」「ちょっとペタペタした触り心地」などが個々の感覚からの与件x,y,z,・・・である。

 これらの「赤い(という見え)」「丸くて凹んでいる形(という見え)」「甘酸っぱい匂い」「ちょっとペタペタした触り心地」といった個々の感覚からの与件の纏まりをベクトルvとしたとき、この感覚からの与件の纏まりvは、バラバラのものとしてではなく一つの表象として一挙に与えられている。

 さて、現在の目の前にリンゴがあるという状況以前における経験によって、我々は「リンゴとはかくかくしかじかの果物である」というリンゴについての観念を形成している(ただし、モデル内部の話としては"我々"ではなく、主観として存在している主体だけの話となる)。もちろん、リンゴについての観念だけでなく、梨の観念やパイナップルの観念、あるいはテニスボールの観念、ハンドボールの観念なども同様に形成している。それら無数に保持している観念と、いま現在の感覚によって与えらえた表象とを、照らし合わせることによって、「これはリンゴだ」と認識する。つまり、感覚から与えられた表象vリンゴの観念aに対応させる写像fが存在する。

 以上の説明においては「リンゴ」という名詞で示される対象の認識で説明したが、動詞で示される対象や形容詞で示される対象等もまた同様に考えることが可能だ。つまり、かなり汎用性の高い抽象モデルと言えよう。

 大枠において「我々の認識とはこのようなものなのだ」ということを、バークリー、ヒューム、カントは彼らの哲学の中で述べている。つまり、私は彼らの認識論を踏襲して、抽象モデルを作って思考しているという訳である。

 ただし、この抽象モデルによっては捉えられないものもある。カントが悟性によって捉えるものとした対象がそうである。その辺りの話は以下の私のnote記事を参照されたい。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?