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アイゼン付けて、雪山を歩く(いつかは行きたい山小屋「三条の湯」パート2)



山小屋の朝は早い。
5時半に
「朝食の準備が出来ましたー。」

と、部屋の外から、扉を叩く音と共に声がかかった。

食堂に行くと、叔父様が一人、友人を待たず、朝食を食べ始めていた。

「おはようございます。」

叔父様と山小屋オーナーに挨拶してお味噌汁をもらう。

「今日は曇だね。午後から雨になるかもしれないね。」

オーナーが言う。

「雨か、無理しないで戻ってきます。」

「そうだね、上行って様子見て決めればいいよ。」

オーナーは穏やかに話す。
初めてアイゼンを付けて歩く事を、やんわり穏やかに応援してくれる。
絶対こう、とか決めつける事はしないで、挑戦したい気持ちに寄り添ってくれる。
この穏やかな話し方が、心地いい。
頑張ろう!って気合いが入るわけでも、緊張するわけでもなく、普段通りに楽しもうと思える。

朝食を終えて、外でコーヒーを入れて飲む。山の朝の空気をのんびり味わった後、荷造りして出発だ。

先に支度が整った私を見て、

「自分達はゆっくりだから、先に歩き始めて、」

と言うので遠慮なく、先に出発させてもらった。



沢を渡ると、どんどん高度をあげて行く。
あっという間に沢音は聞こえなくなり、深山の様相になる。木の葉が落ちた木々の間を、ジグザグに登って行く。


まだこの辺には春が来ていない。ふかふかに積もった落ち葉が登山道を隠していて、どこが道だかわからない。


人が歩いた跡をたどって、急な斜面を登って行くと、後から歩いてきた叔父様達に、

「道、こっちにあるよー」

道を間違えて歩いていた。慌てて、戻って正しい道を、叔父様達を追いかけて歩き出した。

1時半くらい歩いた頃から、所々雪が残っている。
凍っていないので、歩きやすい。

叔父様達は、ゆっくりどころか、私と歩くペースは同じ、淡々と登って行く。

正面に大きな岩が現れた。

あらあら、何処へ行くの?

登山道を示す赤いリボンは正面にあるのに、叔父様達は、右下に岩を回り込む様に降りて行く。

「あのー、こっちにリボンありますよ〜。」

今度は叔父様達が道間違い。
岩と岩の割れ目を覗くと下へと登山道が続いているが、吹き溜まりで雪が深そうだ。



「ここから、アイゼン付けて行こうか。」

という叔父様の合図で、いよいよ初アイゼン!

「付け方あってますか?」
「アイゼン付けて歩く時、気をつける事ありますか?」

叔父様、丁寧に私のアイゼンをチェックしてくれて、歩く時は、アイゼンどうしで引っ掛けないように、ガニ股で歩くこと!とアドバイスをもらい、いざスタート。

雪の上をアイゼンで歩く、
ザクザクザック、面白い、楽しい、アイゼンの歯が雪をしっかり掴むから、
横すべりの心配がなく、歩きやすい。

雪道を歩いているのに、意外とさむくはないんだなぁ、むしろ暑い。
しばらくすると、アイゼンの重さとアイゼンの歯に着く雪の重さで、一歩踏み出す足が重くなる。
ストックなしだと、手を使って踏ん張れない。足がプルプルする〜。
岩場で雪が溶けてないところでは、足を高くあげないと、アイゼンの歯が岩に引っかかって、転びそうになる。

叔父様達は年齢とは思えない足取りで、進んでいく。
ついて行けない。しんどい、足重い。雪道はアイゼン無しは、危ない。

叔父様達は、もう一泊していくそうだが、私は今日下山の予定、10時半タイムリミットだ。

「私はここまでで、下山します。ありがとうございました。」

一面雪の山頂を見る事は出来なかったけど、
アイゼンで歩く経験と、ストックの必要性がわかって、今日の登山は目標達成だ。

お互い名前を伝えあって、叔父様達を見送り、
きた道を戻ることにする。

写真も撮らず、必死について行ったので、下山は写真を撮りながら、雪だるまを作りながら、
動物の足跡も見つけた。



ふわふわの雪、今年最後の雪、丸めて投げて、一人しばし遊んで下山した。

アイゼンを外して、
普通の登山道に戻ったところで、
ちょっといい気になっていた。

斜面をジグザグに降りて行くのは面倒くさい。
そのまま斜面を横切って降りて行けば、近道じゃない。下に登山道も見えてるし。
と登山道を外れて斜面を降り始めた。
見た目より、土が乾燥してサラサラだった。その上に落ち葉がたくさん。

一歩出した足が滑り出した。足を踏ん張ることが出来ない。
わぁ〜、やだ〜、ダメだ、両足揃って滑り始め、手をつく前に、お尻がドン。
尻もちをついてしまった。

痛〜い、土ってこんなに固い?
お尻は割れる様に痛い!いや、割れたかも⁈

登山ではいい気になってはいけません!慎重に慎重に。

その後も一歩一歩歩くごとにお尻が痛い。ジンジンしている。

12時半「三条の湯」に戻ってきた。
穏やかオーナーの

「どうだった?、どこまで行ってきた?」

の声に癒されて、
お尻が割れた事は、少し忘れられた。

山小屋でお昼ご飯を食べて、座っていると余計にお尻が痛い。

そろりそろりと、歩いて
15時58分のバスで無事に奥多摩駅まで帰り着いた。

楽しい、充実した山行きだった。
いっぱい歩った。
来年は雪の降った丹沢を歩こう。

お尻はまだ痛いです。






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