見出し画像

ご褒美登山(花の百名山、高松山〜松田山)

「友達からもらった花束を生け直してたら、ポロポロ涙が出てきちゃって、
お母さん、本当に死んじゃったんだ、って、、、」

1月の末
痴呆を患って施設に入っていた友人のお母様が突然亡くなった。
病気があるわけではなく、痴呆が進んで父と一緒だとケンカが絶えないらしく、施設にお世話になっている、と聞いていた。
突然のお母様の死で、気落ちしているだろうと思い、連絡をとることを遠慮していた。
そんな彼女から、

「山登りしたい!」

と連絡があったのは、2週間前。登る山は任せてくれた。

さあて、どこを歩こうか?

そうだ!小田急線の新松田駅から見上げる松田山の斜面の河津桜が、薄ピンクに色づき始めている。
お花が好きな彼女は喜ぶだろうなぁ。
そして、隣の高松山は山頂が草原で開けている、富士山の展望がいい。
富士山を見ながらランチして、河津桜を愛でるコースを歩く事にした。

8時15分新松田駅で彼女と合流、
高松山登山口までバスに乗る。

バスを降りたのは、やはり女性2人組と単独の女性。バス停のベンチで皆身支度を整えて、何気なく話は今日歩くコースになる。
と、皆、高松山〜松田山の河津桜のコースだった。人気のコースらしい。

「みんな一緒ですね。よろしくお願いします!」

と挨拶を交わし、出発する。

女2人登山は、おしゃべり登山。

緩やかな登り始めで、お母様の話になる。

「突然死んだの」
「高熱があって、コロナかもしれないって連絡があった次の日。」

日頃、お母様の面倒をみている妹さんから電話があった。コロナだったら新薬を使って見ようと思うけど、いい?
と確認があって、それを受け入れた次の日に、

「心肺停止!」

と妹さんから連絡があったと言う。

「到着がもう少し遅かったら、ビニールに包まれて、会えなかったよ、寝てるみたいで、お母さん、起きてよーって、言っちゃったよ。」

そのくらい、穏やかな死だった様だ。

山道は、
新東名高速道路の工事の影響で、鉄の階段を通り、ぐるっと迂回する。鉄の階段を登りきったら、視界が開けてきた。

今日は本当にいい天気だ。雲一つない。
山頂の富士山が楽しみだ。

登山道は、また樹林帯に入り、
ゆるゆると登っていく、歩きやすい登山道。

「こういう道、好きだなぁ」

彼女が言う。

「○○ちゃん(私の事)のお父さんとお母さんはどんな生き方がしたかったの?」

「うーん、聞いた事ないなぁ〜、
ただ母は、寝たきりになっても、ほんとに父の事が好きなんだなぁと思う。自分で面倒を見たいみたい。」

友人のご両親もずっと2人で生きていくと決めていたようだ。

そして、子供がいない彼女は自分自身の生き方も模索している様だ。
それは私も一緒だ。年老いた両親がいる。自分自身、どこに拠点を置いたらいいのか、正直何も答えが出ない。
広い実家には、使わずにいる部屋が2つある。そこへ私が入るという選択肢もあるが、、、

彼女も1人残ったお父様の様子を見に、
実家を行ったり来たりしている。

「ビリ堂」に到着した。

かわいいお地蔵様じゃなくて、観音様なのですね。が2つ。一番最後にある観音堂だから、「ビリ堂」というらしい。
ここから、所々にヒル避けに塩が置いてある。それほどヒルが多いと言う事か。

看板のしたに塩

標高800mの高松山、ビリ堂は標高600m。
後200m標高を上げるのに30分って事は、この後険しい登りになる。

覚悟して、歩き出すと案の定こんな登り。

しかも、登山道が崩れて荒れている。どこが道なのかわからない。先を歩く女性2人組も、

「そこ歩ける〜?」「道ある〜?」

と、確認しながら登っている。

先を行く2人組の様子を見ながら、

「行けそうだね。」

と、先へ進む。大きな木が根元から倒れ、その下からは火山灰の様な黒くザラザラした土が露出している。
ここは火山の噴火で出来た山なんだなぁと、改めて時間の流れを感じると共に、植物の生命力の凄さを感じる。

「みんな、生きてるんだね。栄養と水を求めて、根をながーく伸ばして、凄いよね。」

私達も生きてる。私達は動ける。
歩けば必ず、見たい風景に出会える。

辛い最後の登りを登り切ったところには、でーんと大きな富士山が待っていた。

「やった〜、富士山🗻」

ひろ〜い山頂
宝永山もはっきりわかる

南に目を向けると、海の向こうに大島が見える。

写真だと、うっすらしか見えない

360度雲一つない。
真鶴半島、初島、大島、はっきりと見える。青ーい空に、ゆっくり動く米粒のような飛行機。

風もない。太陽が暖かい。

「ご褒美だね。」

彼女が言う。私はまだ肉親の死を経験してない。
辛いだろう、寂しいだろう、悲しいだろう。
私は彼女の気持ちを、
本当の意味で共感する事は、まだ出来ない。そんな彼女の心を暖かい太陽が、雄大な富士山が、青い空が海が、

「悲ししね、寂しいね、大変だったね。でも大丈夫だよ」

と包んでくれている。

山頂で彼女が
ワカメ、お豆腐、ネギ、揚げ玉具沢山のスープを作ってくれた。お湯で戻したアルファ米と、持ち寄ったおかずで富士山を見ながらランチした。
お昼寝したいくらい気持ちいいが、
今度は河津桜を見に行く。

なだらかな下りを、
おしゃべりの続きをしながら歩くと、ご褒美はまだまだ続く。

右手に富士山、気持ちいい尾根道。
どんどん降ると左手にミツマタの群生。

まだ蕾のミツマタ
斜面にいっぱいのミツマタ
咲き始めてる!

「ミツマタの花、大好き、可愛いよね」

夢中で咲き始めたミツマタの写真を撮っている。
私も好き、黄色くて丸くて可愛い花。

「真弓」

花は咲いてないが、6月に白い花が咲き、秋には赤い実をつける。

ダラダラと長〜い下りの後、
松田山西平畑公園が見えて来た。その向こうには広がる海。

絶景

時間は午後3時過ぎ、後ろには薄く幻想的に変わりゆく富士山が。

鹿除けの鉄柵を開けて進むと、西平畑公園の入り口だ。入園料300円払い中へ入る。
園内は河津桜が満開だ。その下をミニSLが走る。

菜の花も満開

売店で桜餅味のアイスクリームを買い、食べながら、撮った写真を見返す彼女。

「富士山凄かったね、写真に撮ると小ちゃくなっちゃう。」

と笑う。

「富士山と、ミツマタと河津桜と菜の花と、天気が良くて最高だったね。ご褒美だね。」

こんなに天気に恵まれる登山は中々ない。

「お父さんと一緒に撮った写真!」

と言って携帯の画面を見せてくれる。
お父さんの首に彼女が抱きついている写真だ。最近撮ったそうだ。

「温泉とかさー、元気なうちに連れてってあげれば良かったよ。」

大切な事は、往々にして何かあってから気付くものだ。
これからは、気落ちして、元気がなくなってしまったお父さんとの時間を大切にしたいと言う。

そして、自分自身の生き方も、

「健康で元気が一番だね。元気でいよう、丹沢の山を制覇しようよ!」

「ハードな山もあるよー」と私。

「神奈川県に住んでるんだから、この山は知り尽くしたって、言いたいじゃない。ここなら任せて!って、言いたいじゃない。」

山から、自然から、たくさんご褒美を頂いた。ご褒美だけじゃなくて、元気と目標も頂いた山行き、
いつも人を笑顔に元気にする事に一生懸命で、多分ここ1か月無理もしていただろう彼女。

いろいろあっても生きていく私達。
そこには晴れの日も、雨の日も嵐の日もある。でも生きる。

その日々の中に、今日の様な「ご褒美」がある。

生きよう!
丹沢を制覇しよう!

「80歳まで山登りするよー!」

「えっ、90歳じゃなくて」
私が笑う。

良かった、今日の山行きは大成功だった様だ、私も健康でいつまでも好きな自然に囲まれて生きていきたい。
強くしなやかに。

山頂付近の日陰には雪が

なんと、
昨日は一昨日降った雪で、山頂は一面雪だったそうだ。

今日という日は、本当に、ご褒美だ。


この記事が参加している募集

#今こんな気分

75,540件

#桜前線レポート

3,644件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?