19世紀生まれのピアニストによる歴史的名盤④ フランシス・プランテ

19世紀生まれのピアニストによる歴史的名盤④

フランシス・プランテ (1839-1934, フランス)
ショパン「練習曲 ハ長調 Op.10-7」(1928録音)
https://youtu.be/UOVs526XWJw

●ショパン自身のピアノ演奏を聴いたことがあるとされる唯一のピアニストによるショパンのレコード。この最晩年の演奏は、スイスの自宅までコロムビアが機材を運び込んだ甲斐もあり、愛用のエラールの響きによるプランテの伝説的な「フローティング・トーン」の実演に接する事が出来る訳です。このフローティング・トーンについては、こんな逸話が残されています。
「ええ、私も一音だけならプランテのタッチを真似する事は出来ますよ。でも一曲通して彼のトーンで演奏することはとても出来ません。」

プランテを聴くたびに思い出すのは、アンドレ・ジッド著「ショパンについての覚え書き」です。
ノーベル賞作家として記憶されているジッドは、幼少期にショパンの弟子に学んだアマチュア・ピアニスト。
この著作中で、コルトーのレコードも、ラジオから聴こえてきた名ピアニスト(誰なのか?)のショパンも、ダリウス・ミヨーのサロンで聴いた技巧的に完璧なショパンにも、ジッドは嫌悪の念を示します。
こういう事はなかなか明け透けに口にしない様にしてるのですが、実は僕も同じ想いを抱いています。そして、その対極にあって、ショパンの本質に迫る演奏は、プランテのレコードによって明示されていると考えています。
プランテの演奏は、音楽の構造的な美しさ、和声の精妙さ、対位法的な内声の明確化、フレーズ一音一音の音価をたっぷりと聴かせてくれます。如何に多くのピアニストたちが、ショパン音楽の魅力的な部分を早いテンポですっ飛ばしているかが良く判ります。

▶︎プランテのSPレコードは、LPやCDで各社から復刻されており、現在でも容易に聴くことが出来ます。しかし、ハプフェルト社に残されたピアノロールは、あまり良い状態で採録されていない動画でしか聴くことが叶いません。レコード録音の少ないプランテの貴重な資料として、この分野の復刻が進むよう切に願っています。

皆様からいただいたサポートは、ピアノ歴史的録音復刻CD専門レーベル「Sakuraphon 」の制作費用に充てさせていただき、より多くの新譜をお届けしたいと思います。今後ともよろしくお願い申し上げます。