2022.3.12 ユウさん①

同じ講義でよく顔を合わす人がいた。
その人はいつも後ろの席で、独りで座っていた。
休憩時間は独りでスマホを触っていた。

噂で聞いた。
同じ講座に何留かしている人がいると。
皆がその人を嘲笑っていた。
ユウさんが、その人だった。

厳密には、大学は留年制度はなく、卒業できない仕組みとなっている。
この時点でユウさんは6回、足踏みしていた。

本来であれば、1年生で取るべき講義をユウさんは、毎年、数えきれないほど受けていた。

ひょんなことから、ユウさんと話すきっかけが生まれた。
3年前、ある講義で質問をしに、研究室へ訪問した時だ。
同じようにユウさんも質問をしに、そこで僕らは会った。

僕らは講義の話をした。
ユウさんはしどろもどろではあったが、普通の人だった。
不器用で、うまくものごとを伝えられない。
はっきりと答えることができない。
人の目を見ることができない。
そんな、普通の人。

どうしても、どうしても僕はほっとけなかった。
あと一歩というところで、うまくいかない、そんな姿を見ると、
僕はどうしても手を差し伸べたくなる思いに駆られる。
そこから、僕の一方的な友人関係が始まった。

同じ講義では、積極的にグループ活動の誘いをした。
レポートの期限をリマインドした。
会うたびに声をかけた。
共に食事に行った。

そして、1年後、僕らは一緒に教育実習へ行った。

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