経営者のための漢方 集団を率いる「気力」漢方診療日記㊷

67歳 男性 上場企業 代表取締役 妻の知り合いが私に以前かかったことがあることから来院。主訴は「元気が欲しい」
1年前から疲れ易かった為、大学病院を受診し全身の精密検査をしたが多少糖尿病を示唆する結果がでたものの食事療法で対応できる程度の軽いものだった。それ以外は異常が無かった。精神科にも回されたが、睡眠薬を処方されただけで、翌日頭がぼーっとするからという理由で今は処方された薬を飲んないらしい。
初診時は話してくれなかったが、数回診察後、少しづつ本音を語ってくれた。最近「人と会うことが苦痛だ」「電話を取ることも苦痛だ」「メールの返信も、つい後回しにしてしまう」という。しかし、仕事は外から見て普通にこなしているし仕事の評価も高いという。ただ本人は苦痛の中で仕事をしていたとのこと。
漢方薬を処方して二か月でよく眠れるようになり、四ヶ月後には、自然に人と話ができるようになった。現在も通院中である。
企業のトップはほとんどが「心のケアー」の為にやってくるのだ。勿論、悪性腫瘍や難治性の皮膚疾患など現代医学で来る人もいるが少数派だ。
「心のケアー」とは、何となく気力が出ない。人と会うのにエネルギーがいる。昔より気疲れが多い、身体が疲れる、睡眠を若い時のように取りたいなどだ。精神科を受診し薬をもらうのは抵抗がある。漢方ならと思って紹介で来院する人が多い。経営者仲間から聞いて自分も「最近、気力が無い」と思って紹介してもらうケースがほとんどだ。
社員の時代は、ペパーワークなど作業の部分が多かったが、現在役員になってみると、人と会って物事を決めたり、相手を説得して動きを止めたりするなどの仕事がほとんどだ。存在感で相手を勇気づけて動かしたり、時には威圧し動きを止めるようなことをしているらしい。いわゆる「念」を使うような仕事が多くなると皆口をそろえて言う。「国や業界団体と会って話をつけるのが辛かった」などと日常的に漢方外来で語られている。
人は集団になれば順位ができ、好き嫌いができ、それをトップは統率していかなければならない。そんな中で持続的にトップとして大きな集団を率いていく「気力」は仕事に大きな力をもたらすのだろう。漢方の世界には気血水という概念がある。このような状態では「気」を中心に補うことを心がけている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?