健康に生きるコツ 四季を感じる力 『環境に合わせ生きる』漢方診療日記㊺

私が専門の漢方医学の古典の一つに黄帝内経(こうていだいけい)がある。大きく言えば環境に合わせて生きるのが健康に良いというような内容だ。春は芽生えの季節。陽気に満ちあふれ、いろいろなものが、外に出ていくような季節だ。だから四月から新学期が始まるようにしているのだろう。
秋からは新しい分野に手を伸ばそうという感じではなく、少しづつ動きを少なくして冬眠、家の中で過ごす時間が長くなるイメージだ。このように、みんなが自然に持っている四季の感覚に合わせて生きると無理がない、つまり病気になり難いというわけだ。ただ、最近、多くの人の四季を感じる力が失われているように感じる。
山の中の禅寺で僧侶は早朝四時に起床し靴下も履かず草履で過ごす。二月にそこに行った時は全員の足が真っ赤でしもやけになっていた。みな、外でも靴を履かないので指の色が見えてしまう。
そんな彼らは、私より早く季節を感じている様だった。厳しい環境の中、肌で気温や陽気を感じている。
私も自転車で山を登り降りする。そんな時、自転車の温度計をいつも見るが、高度が上がるほど気温は下がる。ひどい時には下界と10℃も違う時がある。最近、同じ3℃でも明らかに身体が暖かいと感じる。一月、二月は刺すような三℃が三月は暖かく感じるのだ。自然と向き合い、厳しい環境で人は感覚が鋭くなるのかもしれない。総合的に温度以外の要素が身体に優しく感じるのだろう。私も都会では少し遅れてでしか季節の変化を感じられない。
先日、禅寺の雲水さん達と編集者さんと禅寺で話をしてたら編集者さんだけが春が来ているのを感じていないと言うのだ。この編集者さんの職場は都会だ。空調の効いた職場、アスファルトの上を厚いソールの革靴で歩く。
移動の電車も空調がついている。季節の変化を感じられないのも納得できた。
 食による体調の変化を感じる力も同じだと思う。たまに飢餓感を感じる程度の修行をする僧侶から水が甘い話を何度も聞いた。また、食品が身体に入ると身体が変化するのが分かるという。勿論、その編集者さんは、仕事に影響しないように食事を定期的に食べ、空腹感や飢餓感とは無縁の世界で生きている。食べ物が身体に及ぼす影響も感じないと言っていた。
 人間の色々な欲求を満たす方向で文明は発達してきた。しかし、足りない状態が存在する方が自然や自分の身体と話が出来、その結果、地球と自分はひも付きだと実感する。それが健康に生きるコツなような気がした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?