下北沢の深淵

ベリーダンスが佳境に入った。センターの女性は激しくリズミカルに腰を揺らしている。アラブ調の音楽がますます高まる。一番前のテーブル席の男子2人組(20代前半)がドギマギしだした。女性はおかまいなしに前に後ろに動く、前に動くと男子2人組にビーズで彩られた衣装がひらひらと。。男子諸君は下を向いた。

ここは下北沢、カジュアル飲み屋でちょっとしたショーが観れるとは入って知ったことだったが、入ってすぐベリーダンス3人組が現れたのには驚いた。なんとなくギター担いだお兄さんとか出てくるのかと思っていた。(どうしても発想が昭和だなあ。。)
男の子たちのドギマギぶりをよそに、ベリーダンサーは笑顔満載で楽しんで踊っている。

数十年前、このサブカルの聖地に私は西の方から到着した。どのくらい西かというと、カープ王国という赤い帽子の人たちが闊歩している地である(広島でも可)。
このくらいの地方出身者にとって「東京」は地名を超えたマジカルワードで、さまざまな玉手箱的な要素を持っている。その中の「下北沢」は「東京といえば「東京ディズニーランド」しか思いつかない人とは違う私」と意味深に言えちゃうような場所。だった。当時は。

下北沢に到着した直後に「劇場」に向かった。「シモキタで演劇を観る」が先端である。そして「ザ・スズナリ」とか「本多劇場」あたりに行けばいいことは知っていた。インターネットもない時代で(ところどころに年齢推定用語が挟まっているが気になさらずに)どこかで見た雑誌情報のみの知識では他は思いつかなかった。

幸い、「本多劇場」で当日券が買えた。
当日券が買えただけあって人の入りは6割程度だっただろうか。
今となっては劇団名も思い出せない、とにかく最初に2人の男性が出てきた。長い紐が出てきた。上座と下座で紐を引っ張り合って何か言った。3人目の男が出てきて何か言った。かなり抽象的な(かみ合っていないと思える)会話だったと思う。
例えば「海は青いな大きいな」に対して「隣の客はよく柿くう、、」みたいな返事があって、3人目が「ファイトいっぱーっつ !!」と声だけはとっても張ってる。みたいな。
よくわからなくてどうしようかと思ったが、3千円払ったし、他の人たちは真剣なまなざしで見入っている。「意味が分からない」と思っているのは私だけのような気がしてきた。
1時間30分経って終わった。
帰り際に他の人たちに混じって劇場を出ていくところで「さすが○○さんだわ(劇団の脚本家らしい)。奥が深いわ、すごかったわー」という会話が聞こえてきた。

私の下北沢修行はこれからである。と心した。


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