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ショートショート99:よいお年をお迎えください

 そのオフィスビルの一階には案内用の受付ロボットが配備されていた。

 動物をモチーフにした丸っこいフォルムのそのロボットは来客応対や入館証発行などの機械的な作業のほかに、挨拶などのコミュニケーション昨日も搭載されていた。

 出社してきた人たちに「おはようございます」と声をかけ、退社する人たちには「おつかれさまでした」と声をかける。

 内容は時期によっても代わり10月末ごろになると「ハッピーハロウィーン」「トリック・オア・トリート」と言ったり、12月24日と25日には「メリークリスマス」と言ったりもする。

 そしてほとんどの社員は出社していないため知らないが、12月31日になると「本年も大変お世話になりました。よいお年をお迎えください」と丁寧に言うのだった。 

 その年の年末ギリギリまで仕事が納まらずに出社していた男は、連日睡眠時間を削って仕事に勤しみ、大晦日の23時ごろにようやくすべての仕事を完了させた。

 誰もいないオフィスを出て、誰もいないエレベーターに乗り、誰もいない受付から会社のビルを出る。イライラしながら受付ロボットの前を通ると、ロボットは「本年も大変お世話になりました。よいお年をお迎えください」と男に向かって声をかけた。

 男は以前からこのロボットが嫌いだった。いちいち声をかけてくるのが腹立たしいし、何の感情もこもっていないのも気味が悪い。コミュニケーションとは名ばかりの、ただの騒音だ。

 だから男は残業で遅くなったときなど人がいないタイミングを見計らってはそのロボットを壊れない程度に蹴り飛ばしていた。そうするとストレス解消になるのだった。

 今日もまた「本年も大変お世話になりました」などとふざけたことを抜かすから、男はつかつかとロボットに歩み寄り、いつもより強めに蹴ってやった。

「本年も大変お世話になりました。よいお年をお迎えください」

 一発蹴るごとにロボットは機械的な音声で言う。男はそれが面白くてさらに蹴りを入れた。

「本年も大変お世話になりました。よいお年をお迎えください」「本年も大変お世話になりました。よいお年をお迎えください」「本年も大変お世話になりました。よいお年をお迎えください」「本年も大変お世話になりました。よいお年をお迎えください」

 年末進行での過密スケジュールで溜まっていた怒りとストレスをすべてロボットに蹴り込んだとき、男は突如として胸に痛みを覚えた。

 睡眠不足と急激な運動により、心臓が悲鳴を上げたのだ。

 男はそのままロボットにもたれかかるようにして倒れた。そして動かなくなった。

 ロボットは男にもたれかかられた衝撃で再び言う。

「本年も大変お世話になりました。よいお年をお迎えください」

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