ショートショート |葉っぱの一生
葉っぱが、また一枚地面に落ちました。
夕方の光がきれいなときです。
コツンという小さな音を立てて、
その葉っぱは生涯を終えました。
葉っぱが好きだったのは、人間の足音です。
コツコツコツという足音を、葉っぱは
この世に誕生したときから聞いていました。
足早に過ぎ去る音もあれば、
ゆっくりと過ぎていく足音もありました。
じっくり耳を済ませていると、
その人となりというものが見えてきます。
怒りっぽい人、寂しそうな人。
楽しそうな人、悲しい人。
葉っぱにはすぐにわかったのです。
その人がどんなことを思っていて、
どんなことを感じているのか。
夕方の4時25分ころ。
決まって時刻はその頃でした。
葉っぱが一番好きな足音が近づいてきます。
コツコツコツ、コツコツコツ。
その音は誰よりも洗練されていて、
誰よりも優しいものでした。
コツコツコツ、コツコツコツ。
音が近づいてくるたびに、
葉っぱの胸は高鳴ります。
そして、その音が聞こえなくなるまで、
葉っぱはずっと耳を済ませていたのです。
葉っぱには、聞こえることしかできませんでした。
その人がどんな姿なのかを
目で確認することはできなかったのです。
しかし、確信はありました。
その人は、とても美しい人であると。
どんな足音よりも、その人の足音は優しく
エレガントで、可憐なものだったからです。
コツコツコツ、コツコツコツ。
夜寝る前は、必ずその音を思い出しました。
そうして、なんていい音だろうと思いながら
深い眠りについたのです。
空気が冷たくなり、仲間たちが次々へと去っていく中、
葉っぱは自分の最期が近いことを感じはじめます。
そうして、いつものように目覚めたある朝、
今日がその日であると葉っぱは感じ取ったのでした。
夕方までは踏みとどまろう。
葉っぱはそう思いました。
その時間は決まって夕方の4時25分頃だったからです。
コツコツコツ、コツコツコツ。
ほら、あの人の足音が聞こえてきます。
葉っぱは今にも落ちそうになりながら、
じっくりと耳を済ませました。
コツコツコツ、コツコツコツ。
音はだんだんと近づいて、そして
だんだんと遠ざかっていきます。
音が小さくなっていく中で、
葉っぱは最後の力が尽きました。
それは、夕方の美しい光が差していたときのこと。
葉っぱはゆっくりと地面に落ちました。
コツンという音を立てながら、
葉っぱはその生涯を終えたのです。
人の足音が好きで、
いつも耳を済ませていました。
その葉っぱが好きだったのは、
4時25分ごろに通り過ぎる
コツコツコツという足音です。
葉っぱにはその人の姿は見えませんでした。
しかし、葉っぱの感覚は確かなものでした。
その人は、誰もが羨むほど
本当に美しい人だったのです。
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