ショパンを全曲聴く⑴〜エチュード編
今回はショパンの練習曲(エチュード)を全曲聴いていきましょう。
作品10と作品25でそれそれ12曲ずつ、全部で24曲あります。
ショパンのエチュード集は、近代ピアノ奏法の創造の書であり、最先端でもあり続けている曲集です。
それ以前のピアノのために作曲された曲をすべて消し去ってまうほど独創的でありつつ、
指の訓練、レガート奏法やフレージングなどの表現力の訓練など、教育面もしっかりしており、
そして演奏会用の曲としての芸術性も備えています。
ショパンエチュードを聴くときは、ぜひ手元に楽譜を携えて、ピアニストが演奏している様子を思い浮かべながら聴いてみましょう。
ピアノという楽器の神髄に触れることができるかもしれません。
☆2021年ショパン国際ピアノコンクールの課題曲のうち、練習曲がとりあげられたのは下記の通りでした。
この記事のプレイリストを作成しました😊
参考文献はこちらです。
Op.10-1🏅
堂々と壮大な曲想です。
強い波動のような右手の4オクターブ以上のアルペジオの連続を演奏するには、強靭な指を迅速かつ均一に動かし、さらに知性によって跳躍を無くすことが必要なのだそうです。
(手を開いて弾くというよりは、手首や腕を柔軟にしてそれぞれの指を鍵盤に向かい合わせるという予備を行ったのちに、打鍵をおこなっています。)
「前へ、前へ、もっと遠くに」というイメージの曲です。
Op.10-2🏅
優雅で気品のある曲調ですが、右手の4の指(薬指)と5の指(小指)という力の弱い指で半音階を弾くというむずかしい練習曲です。
3の指は推進の役目をしており、さらに残りの1・2の指で和音を弾くのですが、
この和音を弾く動きが演奏の難しさに拍車をかけています。
(手の構造上、半音階を弾く動きと手首の運動が上下逆になってしまうため、掌を水平に保ちながらなめらかな音で弾くのは至難の業です。)
Op.10-3 (別れの曲)🏅
ゆったりしたテンポで、先の2曲よりはやさしい練習曲ですが、
中間部で感情が高まる部分の6度音程の跳躍はみんな「弾きにくい」と言います。
また冒頭の美しいメロディは、おもに右手の3-4-5指でのみ演奏しているため、
美しい演奏のためにはポリフォニーのテクニックも必要になってきます。
Op.10-4🏅
超高速の16分音符を、激しい強弱の変化をつけつつ、エネルギッシュに、左右両方の手で弾くための練習曲です。
(名ピアニストのクラウディオ・アラウは、この曲を速度を上げるための練習として、練習の始めに弾いていたのだそうです。)
「激動」という愛称もあり、かっこよさに魅せられる人も多い曲です。
Op.10-5 (黒鍵)🏅
右手の指を黒鍵からすべり落とさないように弾くための練習曲です。
(ピアノの鍵盤の標準寸法は、白鍵:23mm×150mm、黒鍵:11mm×95mmであり、黒鍵は白鍵より1.2cmも狭いのです。)
ブリリアントで聴き映えのする曲ですが、ショパンエチュードの中ではやさしめの曲で、
実際に10歳の子が演奏するのを聴いたことがあります…
Op.10-6🏅
暗くて遅いテンポの、病的でメランコリックな表情の曲です。絶望的な様子をはらんでいますが、中間部に一筋の光といった美しい部分があります。
ポリフォニックなエチュードで、
左手は4-5指でバスを弾きつつ、1-2-3指では別のメロディをレガートで弾いています。
Op.10-7🏅
「雪上の狩り」とも呼ばれる曲で、右手は3度音程と6度音程を交互に弾く音型をしています。
レガートの訓練によい曲で、左手のメロディも味わい深いです。
Op.10-8🏅
まるで小川のような、右手の長いフレーズのアルペジオがきれいな曲です。
流麗に演奏するには、親指をすばやく平行移動することが必要で、
また左手のリズムを、正確なテンポかつよく歌って弾くことによって、楽しく遊びっ気のある雰囲気を出すことができます。
Op.10-9
短調の情熱的な曲で、左手の跳躍している分散和音の部分は難しくないのですが、
独特な和声進行が弾きにくさにつながっています。
ショパンが理想の演奏として語ったという「メトロノームのルバート(左手は振り子時計のように正確に、それでいて右手は自由に歌う)」の練習にうってつけな楽曲です。
Op.10-10🏅
和音進行が特に「the ショパン」な曲です。
右手は2指と5指で6度音程の連続を弾きますが、手首をあまり回すことなく指で弾き、親指でなく5の指にアクセントをおきます。
また左手の跳躍をしっかりとはめるのが難しく、たくさんの練習が必要なのだそうです。
Op.10-11🏅
1オクターブ以上のアルペジオを左右同時に、澄んだ音で弾く練習曲です。
強い親指の音量をおさえて、弱い5の指によってソプラノとバスを奏でて音楽を支えなければなりません。
中間部は極端な転調が行われており、プロでもノーミスで弾くのがとても難しいといいます。
♪Op.10-12 (革命)
ショパンがウィーンからパリへ戻る途中、故郷のワルシャワがロシア軍に侵略されてしまったとの知らせを受け、悲嘆と怒りの中で作曲されました。
ショパンが作曲した数少ない左手のための練習曲です。
左手はずっと激しくうなり続け、
右手メロディの付点のリズムは、男性的・英雄的・好戦的な性格を表しています。
最後に打ち鳴らされる勝利の和音がとても印象的です。
Op.25-1
まるで印象主義のような、虹色でもやがかかったような曲で、終始夢見心地な雰囲気です。
愛称の「エオリアン・ハープ」は、シューマンの評論からとられています。
跳躍をふくむ高速のアルペジオを弾く時は、手首関節と肘関節の両方を回転させるため、肩関節を支点にしています。
Op.25-2
右手の親指またぎの練習になる曲です。
指だけを動かして、手はあたかも動いていないようにして演奏します。
他の多くの人と同じく、私も初めて弾いたショパンエチュードはこの曲でしたが、指定のテンポ(二分音符=112)のあまりの速さにびっくりしたという思い出があります…
Op.25-3
軽快な調子の曲です。
右手の親指を突くように弾き、そこを支えにしてひとまとまりになるように、手を駆り立てるようなイメージで演奏するのだそうです。
Op.25-4🏅
晩秋の夕暮れ時を感じさせるような、陰りのある曲調で、
右手のオクターブ和音の飛び跳ねるようなスタッカートは、縦方向の垂直な動きを絶えず続けています。
左手の伴奏は、1オクターブ以上のノーミスで弾くのが難しいタイプの跳躍音型です。
Op.25-5🏅
寂し気なスケルツァンドの練習曲で、風変わりな付点のリズムはまるで手の不便さを明らかにしているかのようです。
中間部はそれまでと対照的で、ノクターン風のすばらしいアルペジオが優美に展開されます。
最後は厳格な表情で荘重に終わります。
Op.25-6🏅
3度音程の音階を、できるだけ速く、しかも空気のように軽く弾かなければならないというとても難しいエチュードです。
曲想からは、地に足のついてないような落ち着かない気持ちや、焦燥感が感じられます。
Op.25-7🏅
自由で即興的な左手によって全曲が構成されており、かなりの玄人向けのエチュードです。
装飾的な序奏の後、物憂げなノクターンが展開されます。中間部の右手はコラール風であったりと様々な表情を見せ、まるで一篇の詩のような楽曲です。
Op.25-8
明るい曲調で、右手は1-4指と2-5指によって6度音程をモルト・レガート(すごくなめらかにつなげる)で弾き続けます。
Op.25-9
「蝶々」の愛称で親しまれている曲です。
右手はオクターブの連打で、手首は下げて上げる動きを繰り返します。
左手のバスと和音の跳躍の音型をはめるには、たくさんの練習が必要です。
Op.25-10🏅
オクターブ音程を、3-4-5の指でつないでいく練習です。連続する親指はスライドさせるようにして軽く弾きます。
バラードのような劇的で悲壮感ただよう曲で、中間部はまるでリストの音楽のような、穏やかで寂しげな独白の部分があります。
♪Op.25-11 (木枯らし)🏅
冒頭、静かにテーマが述べられたのち、稲妻のような右手がなだれ落ちます。
(テーマには「戦うポーランド」を示す付点の音型が現れています。)
ロマン主義的といえる高揚とした疾駆がずっと続いていきますが、時折切なさも感じさせます。
右手はトレモロと同じ原理で、前腕の軸回転をしながら半音階のラインを補強します。
疲れ果てるほどのフォルテッシモなので、手首を柔軟にして、力を抜くにはどうしたらよいのかを考えなければなりません。
Op.25-12
「大洋」という愛称がふさわしい堂々とした、両手でのアルペジオの練習です。
CマイナーからA♭メジャーを経て、Cメジャーでという「苦悩から歓喜へ」のような感動的なエンディングで全24曲を締めくくります。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
ショパンを全曲聴く⑵〜ノクターン編に続きます♪
さくら舞🌸
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