古典組曲と舞曲⑴
今回はバロック時代の器楽形式の1つである古典組曲について、
おもにバッハの作品を取りあげて解説していきます。
古典組曲はアルマンド、クーラント、サラバンド、ジーグといった、異なる性格をもった舞曲で構成されています。
貴族が踊るための音楽だった舞曲を、バッハはじめから演奏用として作曲した最初の作曲家で、
鍵盤曲だけではなく、ヴァイオリン曲やチェロ曲にも傑作を残しました。
♪J.S.バッハ《無伴奏チェロ組曲》
バッハの組曲
ピアノ曲(クラヴィーア曲)の組曲には、次の3つの曲集があります。
それぞれ第1番から第6番まであります。
♪イギリス組曲 BWV806〜811
♪フランス組曲 BWV812〜817
♪パルティータ BWV825〜830
(パルティータ"partita"とは、『組曲』という意味のドイツ語です。)
♪イギリス組曲第2番 BWV807
-プレリュード
-アルマンド
-クーラント
-サラバンド
-ブーレ
-ジーグ
イギリス組曲は6曲とも、《プレリュード-アルマンド-フランス式のクーラント-サラバンド-挿入舞曲-ジーグ》の6つの楽章で構成されています。
♪フランス組曲第5番 BWV816
-アルマンド
-クーラント
-サラバンド
-ガヴォット
-ブーレ
-ルール
-ジーグ
フランス組曲は、当時流行っていたギャラント様式にならって作曲されているため、優雅で洗練された作風です。
組曲の中では比較的弾きやすく、特に第5番はコンクールの課題曲になることも多いです。
♪パルティータ第1番 BWV825
-プレリュード
-アルマンド
-クーラント
-サラバンド
-メヌエット
-ジーグ
パルティータは、和声法などのフランス風の作曲法に、ドイツ的な対位法を見事に融合させた、後期のバッハを代表する独自性の高い作品となっています。
基本の舞曲4種類
古典組曲では絶対に外せない舞曲とその曲順が、以下のように決まっています。
★定型
①アルマンド🇩🇪 テンポ色々4拍子
②クーラント🇫🇷 少し速めの3拍子
③サラバンド🇪🇸 ゆったりした3拍子
④ジーグ 🇬🇧 速めの複合拍子
バッハの場合だと、
①アルマンドの前には、プレリュードやシンフォニアなどが置かれたり、
③サラバンドと④ジーグの間に、別の舞曲が数曲挟まれたりすることが多いです。
★定型(改)
→プレリュード、シンフォニアなど
①アルマンド🇩🇪 テンポ色々4拍子
②クーラント🇫🇷 少し速めの3拍子
③サラバンド🇪🇸 ゆったりした3拍子
→メヌエット
→ガヴォット などなど…
④ジーグ 🇬🇧 速めの複合拍子
次は①〜④の舞曲について、それぞれの性格や特徴を見ていきましょう。
①アルマンド🇩🇪(Allemande)
フランス語で「ドイツ」という意味のアルマンドが組曲の先頭に置かれるのは、実は鍵盤曲に限ったことで、
舞踏会では必ずクーラントが先に踊られていました。
フランスやイギリスでは長く流行しませんでしたが、ドイツでは長期間にわたって踊られ、
モーツァルトやベートーヴェン も、アルマンドを作曲しています。
アルマンドは1組の男女だけが踊り、他の人は周りで見ているといったタイプのソロダンスです。
(今回のタイトル画像です♪)
16分音符のアウフタクトから始まり、16分音符の細かい旋律が、全曲を通して流れるように続いていきます。
この音型は踊り手のしなやかな腕や手の動きを表現しています。
【弾き方の案】
・カンタービレで気品ある雰囲気を出しながら、Allegro Moderatoくらいのテンポで流れるように弾きます。
・メロディを歌わせつつ(少し揺らしてもよい)重々しく和音を響かせて、曲調に厳格さを出しましょう。
・最近まではレガートで弾くのが正しいとされてきましたが、バッハの時代は音と音の間に隙間があるのが普通だったので、時代のスタイルを尊重するなら、ノンレガートで弾くのが良いでしょう。
♪イギリス組曲第4番 BWV809
②クーラント🇫🇷(Courante)
イタリア風の「コレンテ」と、フランス風の「クーラント」があります。
両方とも『走る』という意味です。
コレンテ🇮🇹(Corente)
・速いテンポで、明るく軽快な曲調。
・3/4か3/8拍子。
♪フランス組曲第6番 BWV817
…この曲の楽譜には"Courante"と書かれていますが、
3/4拍子で流れるような16分音符の曲なので、実際はコレンテと考えられます。
クーラント🇫🇷(Courante)
・華美で厳格な性格。
・3/2拍子のことが多い。
フランスのクーラントは最も芸術性の高い舞曲で、貴族の舞踏会ではオープニングで踊られていました。
ステップはメヌエットと同じくらいのゆっくりしたスピードですが、足と手の動きが8分音符の細かい旋律にあわせて装飾的な動きをします。
♪フランス組曲第2番 BWV813
③サラバンド🇪🇸(Sarabande)
カリブ海から伝えられたという説が有力で、当初は情熱的な踊りがエロティックで品がないという理由で禁止されたこともありましたが、
それがかえって貴族からの人気を高め、次第に上品な踊りへと変化していきました。
アルマンドと同じソロダンスで、組曲の中では静けさ、安らぎの曲になります。
「ゆっくりとしたメヌエット」と言われていましたが、かわいらしいというよりは重たい性格の舞曲です。
組曲の中では一番自由な表現ができる曲で、バッハのサラバンドも、貴族的だったり宗教的だったり鮮やかな性質をもっていたりと、様々な曲調があります。
【弾き方の案】
サラバンドは2小節ごとに2拍めが重くなります。
・複雑なステップをするために時間をかけたというのが理由なので、2拍めはアクセントではなくテヌートで弾きましょう。
・2拍めに装飾音があっても、流れを止めたり、ヴィルトゥオーゾ的な弾き方にしない方が良いでしょう。
♪パルティータ第3番 BWV827
(脱線)
19世紀末のフランスでは古楽運動が盛んだったこともあり、ドビュッシーやサティにも、サラバンドという名のピアノ曲がありす。
10代の頃のラヴェル は、サティのサラバンド3番がお気に入りだったそうです☺️
《♪サティ サラバンド第3番》
④ジーグ🇬🇧(Gigue)
"Gigue"は古い言葉でヴァイオリンを意味します。
元はイギリスの船員の踊りで、野性的な性格で強烈な動きやジャンプが特徴です。
17世紀にはすでに舞曲として踊られなくなっており、もっぱら演奏用が作曲されていました。
【弾き方の案】
・ジーグは基本的に、ノンレガートやスタッカートを多用して演奏しましょう。
・曲によっては、アクセントや装飾音を取り入れても良いかもしれません。
♪イギリス組曲第2番 BWV807
…こちらは情熱的で激しいイギリス風のジーグです。
一定のリズムでカデンツが少ないため、動き出したら止まらないという印象です。
ジーグには様々な形態の曲があるため、分類の仕方が学者によってかなり違います。
この記事の参考文献である『新版ソアレスのピアノ講座 バッハ演奏ハンドブック』では、
ジーグを以下のように分類しています。
①2拍子ジーグ
②ルール風(フランス風)
③イギリス風
④イタリア風
⑤フーガ的
次回はメヌエット、ガヴォットなどその他の色々な舞曲について解説していきます。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
さくら舞🌸
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