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もう夏じゃない

 まだ30度を越える日があり、セミの声もする。でももう夏じゃない。今朝、いつものように5時に起きて(愛犬に起こされて)カーテンを開けたら、外はまだしっとりと暗かった。天気のせいばかりではないだろう。

 今年の夏は、夏らしいことをほとんどしなかった。いつだって別に「夏らしいこと」などしてないだろう? と言われればそうなのだけど……。そもそも「夏らしいこと」ってなんだろう? プールとか海とか山とか花火とか浴衣とかBBQとかひと夏の経験とかパーシー・フェイス・オーケストラとか?(あれは「夏の日の恋」だったかな) べつに、それらを「やりたかった」というわけでもないし、そういう年齢でもないけれど、思い返した時に「マスクの夏」でしかないのは少し寂しい気もする。

 去年は鞆の浦のあたりをブラブラしていた。のんびり歩いて、高いところに登っては、瀬戸内海の島々を眺める。そういう旅が好きで、ここ数年広島県を訪れがちだから、「実家が広島」という誤解を生んだりしている。

 鞆の浦ではあまりに暑くて、一軒だけ見つけた薄暗いカフェで、大きなスクリーンに映し出された音のない「崖の上のポニョ」をぼんやり見続けた。でも結末は知らない。帰ってから配信で観ようと切り上げたのだが、結局そのままだ。

 配信といえば、福山のホテルの部屋では、ひたすら「ハナコ」のコントを観た。翌日の夜は韓国版の「ゴールデン・スランバー」を観た。随所に日本版とは違う設定があり、特に結末に勝利感があるのはお国柄かなと思った。(原作がどうだったかは思い出せない)

 黒船で渡った仙酔島は、ほとんど人がいなくて怖かった。人がたくさん居るのはいやなくせに、いないのも怖い。困ったものだ。

 その辺が去年の夏の思い出。今年はといえば、マスクをして、アスファルトを眺めながら修行僧のようにもくもくと仕事場へ歩いたくらいのこと。

 ああ、でも、そうだ、今年の夏は5年ぶりの沖縄に、二度も行ったのだ。日帰りと一泊。ただ、それは旅行じゃなかった。確かに暑かったし、海も緑もきれいだったし、目を閉じればさまざまな景色が浮かんでくるけれど、それはまた別の記憶の箱の中……。

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