イグBFC3感想&評価 グループR/S/T/U

はじめに

 イグBFC3の全作品が出揃いました。今回でイグナイトファングマンは最終回となります。なのでやらなければならないことがあります。

 イグナイトファングマン、覚悟!

 真のイグナティウス・ロヨラMkⅨⅨは背後からイグナイトファングマンとイグ宮を刺した。凶器は通販で買ったダマスカス包丁であった。なおダマスカス包丁は装飾にコストがかかっているので値段の割に実用性が低いといわれています。おしゃれクッキングをしない人はよく調べてから購入しましょう。イグナイトファングマンとの約束だ。

 真のイグナティウス・ロヨラMkⅨⅨは仮面を脱ぎ捨てる。
 そこには先代イグナイトファングマンの顔があった。イグ太郎を育てていたのはそういう伏線だったのか。
 イグナイトファングマン。あれほどいったでしょう。イグナイトファングマンはイグしようとしてイグするイグブンゲイおよびイグブンゲイファイターを許さないと。イグナイトファングマンに必要なのは愛と勇気です。どちらが欠けても真のイグナイトファングマンにはなれません。

 さあ、イグブンゲイファイターに最後の試練を与えよう。

グループR

山崎朝日「アレの力」

 指示代名詞の持つ言葉としての機能と、コミュニケーションにおいてソレが使われることによって発生する、表面上まるで成立しているかのような会話についてを描く作品だ。この作品は本題について地の文でも明確に掘り進めており、かつ主人公の視点というものを利用として多少のユーモアを取り込むというスタンスで進めている。
 ここからは推測だが、本作品のイグ要素はその指示代名詞の力に依存しようとしている。そこが軽率に感じるのでイグナイトファング! 題名の時点でイグっぽいと考えてそうな空気を感じるのでもう一発イグナイトファング!
 作中の登場人物たちのコミュニケーションが本当に成立しているかどうかは当人たちにさえもわからない。身内ノリというのは極論を言えば当人たちが当人たちだけで当人のなかでのみ理解できているという思い込みから成立する極めて不確かなものだ。本作品はソレが発生させる疎外感や弊害への視点が足りていない、というのが読み応えのなさにつながっていた。
 ところでルビが使えるサービスが他にあるんだからルビが必要ならルビが打てるサービスを使った方がよかったんじゃないのか! その()にイグナイトファング!

 イグナイトファングマンもイグ宮も病院に担ぎ込まれたので、先代のイグナイトファングマンがやりたい放題。本当にこのノリで最後までいくつもりなのか。

ニイボユウスケ「アドベンチャーオブthe界」

 未来からのイグナイトファング!
 ようつべといった種類の文化を摂取しているものが読めば、それなりに意味が通じる不条理でナンセンスな小説という趣だ。「マダマ(マダムの口語体)」を筆頭とする()付単語の多用は一見して軽率なイグ要素に見えるが、その過剰な多用によって文体の一部として処理されており、作品全体の雰囲気をまとめるために一役買っている。また、本作はお金がスーパーチャットを通じて承認欲求を満たすために使われているさまが描かれているとも言え、そういう意味では現代的ブンゲイという感じがする。だが()をつける部分を意図的に寒いギャグに集中させて一々イグですという顔をしているところにはイグナイトファング! 意図的な自動記述かのようにも見えるあまり意味のなさそうな単語の羅列によってイグブンゲイ的アプローチをしようという部分にもイグナイトファング! あとハム太郎にイグナイトファング! イグナイトファングマンはイグしようとしてイグする作品を許さない。やはり一行目の時点でイグナイトファング! しておくべきであった。過去に戻るぞ。

 任務……完了……!

ih「廃駅弁甲子園」

 悪夢みたいな掌編だったな。書かれているモチーフ自体が不条理に難しくて一読するのも骨が折れる。こういう作品は細部に拘泥しても仕方ないので、重要なモチーフとその周辺に描かれるもので判断するという手法で行こう。
 題名である「廃駅弁甲子園」から「廃駅弁」および「廃駅弁甲子園」というのが作品の象徴なのだろう。また作中には「神は悪意を持つもの」として扱われているため「神」と「神の純粋な悪意によって生まれた悶獄」を軸にして読んでいく。この補助線を引くことで「廃駅」という存在から生まれた「廃駅弁」というのが、本当なら持っていたはずの、未来をうしなった存在であると読める。「廃駅弁甲子園」はそうした「未来の残り香」の展示場のようなものであり、そこに集う人々はみな等しくかすかな未来を感じようと集まっている。本文では魅入られている、とするほどの執着をおぼえているようだ。だがそれは神の悪意によって変質した現実によってひとの手に渡らない。小豆、おそらく、悪しきものの象徴のひとつが飛んできたのを見て逃げ出す主人公だが、逃げ切れずに絶叫して幕となる。ひたすら地獄だな、この話は。
 本作品は過剰なまでの装飾によってこうした地獄の風景を描き、その勢いで今日を生きる人々の苦しみを描いている。作中の雰囲気がどこか職とか食とかを求めてさまよう貧しき者の空気を纏っているのもそうした理由があるのかもしれない。
 こういう、表面の時点で読解が難しい話は純粋にキツイ。だから仕込んでたイグナイトファング!! をとりあえず暴発させておこう。

川咲道穂「我が友よ愉悦の中で」

 はいイグナイトファング! イグナイトファングマンはひとの名前を使って安直にイグっぽさを出そうとする行為を許さない。またアニサキスについてイグナイトファング! イグナイトファングマンはアニサキスよる食中毒にかかったことがないのでアニサキスについて調べた。そうすると、胃壁をかまれたくらいでは痛みは発生しないようだ。まあ小説だしそのあたりの細部に拘るのはバカバカしいか……と思いつつ、アニサキスによって発生する痛みはアレルギー反応らしく普通に危険じゃねえか! イグナイトファング! それと誤字っぽい「勝っておいた」にイグナイトファング! また裁きと捌きみたいな言葉遊びで安直にイグユーモアを出そうとする点にもイグナイトファング! イグナイトファングマンはわざとらしいイグには敏感である。ソニックイグナイトファング!

グループR投票先

 ih「廃駅弁甲子園」に投票した。この作品はイグしようとしてイグしているのではなくて、ブンゲイしようとしてイグになってしまっている珍しいケースだ。だがそこにあるのは孤独感というよりも自分自身で作り出している結界だというように感じた。だとすればこのイグ味は人造イグであり、あまり好ましいものではない。そういう意味も含めてこの作品にはついげきの真イグナイトファング! 真イグナイトファングはいままでのイグナイトファングの5倍の威力がある。
 成仏しろよ。

グループS

薫「おっぱいと男」

 はいはい冷凍イグナイトファング! イグナイトファングマンは胸部パーツの名前を気軽に連呼したりあからさまな表現を使っていかにもイグですのような顔をした人造イグを許さない。また、この作品は読んだ瞬間に「この作品はきっとなし崩し的に主人公と女性の胸が一緒に暮らすことになるんだろうなあ」という予定調和から一歩も外に出ることなく物語が進んでいる。そうした安牌路線をただ歩くだけの姿にイグナイトファング! それいったいどうやってんだよみたいな行動を平然と書くことでまさにイグという空気を醸し出すことも好みではない。これは好き嫌いだけで言っているイグナイトファング! これはおまけのオンエア版イグナイトファング! やめないか!

松尾模糊「股間のリアル」

 連続でこんなものを読ませやがってよ。怒涛のイグナイトファング! イグナイトファングマンはいかにもイグですという態度でお出しされる人造イグを許さない。最初からイグのために書きましたみたいなそういうブンゲイをブンゲイとして評価しないのがイグナイトファングマンである。このイグはにせものだ。食べられないよ。だからイグナイトファング加熱処理! 不条理とおバカと下品を組み合わせればイグだろうという性根にイグナイトファング低温殺菌! 引用したくもないわ! オレの怒りを思い知れ!
 ああーっと、先代イグナイトファングマンもついに素が出てきた! いやまあさすがにこの作品についてはなにか具体的になにがなにって言いたいと思えない。ここは学校じゃねえんだ。遅い奴にドラマは追えない。アイドリングはご法度ネ。

高 鸞石「鹿縛り」

 これはオレが評価しようとすると絶対に無理な作品ですね。一生かけても無理よ。世相とか知識とか作者の意図とか、読み取りに必要なものがあまりにも多すぎて、例えば最初の一行目のあたりはまだ「暗い未来のイメージ」みたいな簡単な言葉で表せるけど、そのあとにパラパラ撒かれていく言葉の持つイメージとか、わざわざ外国語のルビをつけていくことの意味とか読み取るのが骨。こういうときnot for meっていう便利な言葉があるけど、今回はそれに安直に乗っちまった方がいいな。イグナイトファング! え、なぜいまイグナイトファングを? それはイグナイトファングマンが過去から来たイグを許さないからだ。そしてもう一回イグナイトファング! イグナイトファングマンはすそ野を狭めるような難しいものを好まない。それって単なるイグナイトファングマンの限界では……。

グループS投票先

 高 鸞石「鹿縛り」に票の不法投棄をした。他の作品がただイグしようとしてイグしているだけである時点で、この作品に投票するか投票自体を拒否するかの二択だった。そのうえでこの作品を五周ほどしてみたが、やっぱりこの作品難しすぎるよ。いかにも高等ブンゲイみたいな顔をしていて結果的にイグになっている。というわけでボタンを押した。
 このグループは投票放棄が正しかったかもしれない……。イグナイトファングマンも時々そういう反省をする。だがイグナイトファングマンは自分が間違うこと、そして自分自身が安直であること、愚者であると批判されることを厭わない。イグナイトファングマンはパンダである。パンダにはパンダの役割がある。それすらも果たせぬパンダはただのパンダだ。
 おまえはなにをいってるんだ……? それはオレにもわからない。

グループT

比良岡美紀「ムダ毛の話」

 形骸化したイグナイトファング。イグナイトファングマンは消耗しきっていた。現役から退いて長い。まさかここまで衰えていたとはな……。
 この作品は地味に読みづらかった。それはイグナイトファングマンの記事と奇しくも同じ構造をしているからだ。誰がなにを話しているのかは文体によって判断するしかない。これはけっこう負荷だった。イグナイトファングマンが疲れているのは、あるいはそのせいだったかもしれない。
 会話が全体的にナンセンスで、その後にちょっと怖いオチ。なんかいかにもなショートショートだな。ん-、イグナイトファング!
 イグナイトファングマン、だいぶ雑になってきました。まずいですよ。

Jiu Yijian「CHOKER継承人物への大干渉攻撃のための投稿文」

 イグナイトファング! イグナイトファングマンはイグしようとしてイグするイグブンゲイ作品を許さない。複数のツイッターアカウントを使っていかにもなイグSF小説を書きやがって。しかも最初からルール違反する気満々だと。イグナイトファングマンを無礼るなよ。
 全力全開イグナイトファング!
 どうやらここまでのようだ……だがオレは貴様らのイグでは死なん!
 サラバダー!

yyy「バブみ」

 イグ宮が目覚めたとき、先代イグナイトファングマンとイグナイトファングマンはすでに冷たくなっていた。日本では死体を火葬にする。イグ宮は身よりのないふたりのために喪主を務めることになった。イグ宮って何歳なんだろうね。
 イグ宮は埋葬を終えてから改めてみずからに問うた。自分はイグナイトファングマンになれるだろうか。彼女は本当のイグナイトファングを探しに飛行機を使った。北へ行こう、ランララン。

 この作品は普通のブンゲイだね……。ただ、この手の話題を取り扱えばイグ、な部分にわざとらしいイグの態度を感じなくもないかな。というわけでイグ宮式イグナイトファング! だいぶさまになってきたな。そうだ。イグナイトファングは気軽に打てるものでなくてはならない。なんならその接頭辞もいらんぞ。誰かがそう教えてくれた。そのオチにイグナイトファング! まあそりゃそうだって感じ。この作品にイグの勇気はない! そうだ、その調子だイグ宮。イグナイトファングマンくんの【声】が聞こえる。当機は間もなく女満別空港に到着します。

中務滝盛「見える・Brazilian Magic」

 クリスマスイグナイトファング! イグナイトファングマンは途中で出てきた軽率な命名のマジシャンを許さないよ。もうひとつイグナイトファング! これはあたかという名前を使ってあたかもをちょっと読みづらくしてみましたみたいなわざとらしさの分! そしてイグナイトファング! なにがデスゲームだ女の子を返せ。そしてラストの解説文にイグナイトファング! こうすればイグだと思っているようだね。そうした安直さをイグナイトファングマンは許さないんだ。この作品にいかほどの闘志があるのかいま一度考えてみるといいよ。イグナイトファングマンはこうした上から目線を恐れない。なぜならイグナイトファングマンだからだ。

グループT投票先

 イグナイトファングマンは自分が安直なイグになってしまうことを恐れない。というわけでJiu Yijian「CHOKER継承人物への大干渉攻撃のための投稿文」に票を不法投棄した。これはつまりおのれの意志を放棄したに等しい。その性根にイグナイトファング! イグナイトファングマンは意思決定を他人任せにするものを許さない。

 イグ宮は北海道の遠軽町にあるがんぼう岩の上に立ち、その決意を新たにした。他人にイグナイトファングされることを求める自分は死んだのだ。これからは自分で自分の行き先を決める。さあイグナイトファング! がんぼう岩は転落すると助かりませんのでふざけるのはやめましょう。

グループU

 正真正銘最後の戦いだ! 頼まれなくたってイグナイトファング!

今村広樹「秋月国奇譚『自由と権力』」

 ナチュラルに解釈が難しいね……。不条理さとキャラクター名称選定の軽々しさにイグナイトファング! これ以上、なにか必要なことがあるだろうか。この作品に時間をかける意味はない。さよなら、イグナイトファング!

ときのき「兆稼げる小説家になろう」

 イグナイトファングマンは繰り返しを恐れない。イグナイトファングマンはイグナイトファングするためにはダブルスタンダードだって平気なのだ。古典名作の文章を適当に引っ張って来る姿にイグナイトファング! ワナビあるあるを引用してきて説教気味にお出しするその性根にイグナイトファング! オチまで予定調和で終わっていくお上品さにイグナイトファング! 感嘆符の後ろに空白をつけていない不徹底にイグナイトファング! さあお前のイグを数えろ! イグナイトジャンプ! からの、イグナイトファング!

小林猫太「ナゴン教典」

 イグをしようとしてイグになるような作品をイグナイトファングマンは許さない。イグナイトファングマンには文芸がわからぬ。だがわざとらしさにはひときわ敏感であった。

 夜こめて 鳥のそらねは はかるとも いかにもやってる イグはゆるさじ

イグナイトファングマンは他人のネタを使ってイグることを許さない

 ファイナルイグナイトファング!

グループU投票先

 小林猫太「ナゴン教典」に投票した。あなたはイグに溺れイグに堕ちた。その精神的成果がこの作品に結晶したといえるでしょう。イグナイトファング特別賞受賞!
 うれしいね。


あとがき

 イグ宮がイグナイトファングできたように、皆さんはいつでもイグナイトファングすることができます。
 イグナイトファングマンなんて最初から必要なかったんだ。

 だから、これからは皆さん自身の手でイグナイトファングしてください。

 ここまでお読みいただきまして誠にありがとうございました。
 それではみなさん、また来世。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?