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6畳の思い出箱

衣服や積ん読、いつぞやのレシート。
そんなものたちが居場所を失ってころがっている私のお部屋。

「片付けできない人は物を大切にできていない人だ」どこかで耳にしたそんな言葉がずっと鼓膜を揺すって心まで侵食してくる。

「別に散らかしたくって散らかしているわけじゃないんだよ」
「ちょっと収納のスペースが足りないだけなんだよ」
なんて誤魔化してみるけれど、自分でもわかっている。このお部屋の根本には怠惰な自分が寝っ転がってアイスでも食べているんだよって。
それでもこの部屋の中には1つたりともゴミ箱に入れていい物なんてないんだから、しょうがないじゃない?

例えばクローゼットの中、小学校の時に東北大会で買った記念Tシャツ。
机の上、受験の時にお母さんからもらった折り紙のだるま。
本棚の中、小さい頃ずっと読んでいた魔法使いの本。
引き出しの中、10年も前に書いていた日記帳。
カンカンの中、一生懸命探したガチャガチャのおもちゃ。
棚の上、高校生の文化祭でつくったうちわ。
箱の中、授業中に回した手紙の紙切れ。

お片付けの歌に合わせてひとつひとつ拾い上げるたびに、思い出も一緒になってついてくる。

クローゼットの中、大好きな叔母ちゃんの結婚式で着たピンクのドレス。
机の上、彼と見に行った映画の特典でもらったシール。
本棚の中、大学受験のために必死になって練習した小論文の問題集。
引き出しの中、ちゃおの付録についてきた付箋セット。
カンカンの中、旅行先で買ったよくわからないご当地キーホルダー。
棚の上、数年前のハロウィンの仮装で使ったバラの造花。
箱の中、修学旅行のバスで使ったビンゴの紙。


思い出は増えていくばかりなのに、部屋が大きくなることはない。
いつか思い出に埋め尽くされてしまいそうなこの部屋で今日も思い出を拾い上げる。
捨てられることはできなくても、綺麗に並べて飾っておくくらいのことはしないとな。過去の楽しかったあの時間に失礼だもの。
捨てられない物たちが溢れかえったこの部屋は、いわば私の人生そのもので、私の記憶そのものだ。
忘れたくない記憶を物に閉じ込めて、部屋の本棚に置く、机に飾る。


レシート1つも捨てられない私。その白い紙に書かれた商品名がその日の記憶を呼び起こすから。あの日、少し寒くなってきた秋の終わりの駅前であなたを待つために買った無糖の紅茶。

クラッカーの音が今でも聞こえてくる。17歳の誕生日に飾られていた1と7の大きなバルーン。しぼんだ今でも部屋の片隅で17歳の私をそっととじこめている。

閉店してしまったあのお店のポイントカード。あとスタンプ1個で無料になったのに。


お部屋に散らばった記憶の欠片。
ひとつひとつ拾い上げながら思い出を飾る。
散らかったお部屋。私の人生。
片付けるんじゃなくって、飾るんだ。
もう少し綺麗に並べてあげるから少し待っていてね。

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