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バズる迷惑撮り鉄ツイートに群がるオワコンTV業界

人気寝台列車カシオペアの撮影のために線路内に立ち入った人がいて、列車が緊急停車したそうです。

そしてその様子を撮影していた方が、友人の方を経由してTwitterで拡散してニュースにもなり、警察が捜査に乗り出したとか言われています。
※ リンクの埋め込みはしませんので、気になる方は「#迷惑撮り鉄」「#カシオペア」でTwitterやニュースサイトを検索してみてください。

「いち撮り鉄」として、こう言うニュースを見ると言いたいことがあふれ過ぎて、とても1回の記事には収まりそうにありません(笑)
まあそれだけ色々な論点があるということだと思うのですが、多くの点(撮り鉄の在り方とか、SNS拡散社会の是非とか・・・)は既に各方面で議論しつくされている感がありますので、少し別の角度から個人的に感じたことを記載したいと思います。

状況について

まずどういった状況だったのか、簡単に整理したいと思います。
6月3日、臨時団体列車として運行されていたEF81牽引のカシオペアが栃木県矢板市付近を走行中、踏切近くの線路際で撮影していた人3名を運転士さんが発見し、危険と思われたため非常ブレーキをかけて緊急停止させました。

カシオペアとは2016年に一般乗客向けの運行を終了した寝台列車で、機関車がけん引する客車寝台列車としては日本で最後の存在でした。

マニアックな説明は省きますが、新幹線の開通や深夜バスの台頭を受け、ブルートレインと呼ばれる定期寝台列車のほとんどが廃止となった今、この列車はSSR級のレア列車であり、団体専用列車「カシオペア紀行・カシオペアクルーズ」として運転される日には、多くの鉄道ファンが乗車や撮影を楽しんでいます。

EF81 81牽引の「カシオペア紀行」
出所:MaedaAkihiko(Wikipedia)

今回の撮影スポットもファンの間では有名な場所で、動画を見ると他にも三脚や脚立を立てた鉄道ファンがたくさんいる様子がうかがえます。(「お立ち台」というやつですね)

今回この有名撮影地で撮影をしていた方の内、一部の人(3名と思われます)の撮影場所がかなり線路に近かったため、運転士さんが緊急停止をしたもので、動画を見る限り架線柱の内側で撮影しており、撮り鉄である私から見ても、明らかに危険な場所だったのではないかと思われます。

Twitterによる拡散

さてこの時、たまたま撮り鉄ではない方(付き合いで来ていたため、多くの撮り鉄の方がいる場所から離れた所にいたようです)が、緊急停車の様子から、危険な場所で撮影していた人が走り去る様子の一部始終を撮影し、さらにその友人の方(撮影者の方はTwitterアカウントを持っていないとのこと)が動画をTwitterに投稿した結果、バズって3,600万回以上再生されました。

そしてそれがTV各社のニュースで取り上げられました。
生放送で確認はしていませんが、インターネットで各社のニュース動画を見る限り、NHKとテレ東を除くキー局(日テレ、TBS、フジテレビ、テレ朝)が取り上げており、一部の局では後日現地を訪れて、近隣住民の方などの取材をした上で再構成したニュースを追加的に報道しています。

ちなみに当然のことながら(笑)、各局とも内容は似たり寄ったりで「人気列車を撮影したいがために、線路内に立ち入って迷惑行為をした。警察も捜査している。逃げた経路はかくかくしかじかで、近隣の人は他にもポイ捨てする人や三脚を道路に立てる人もいるので迷惑がっている・・・」というものでした。

他にめぼしいニュースなかったのかな?(笑)

私がこのニュースを見た時に最初に感じたことです(笑)。

「ウクライナ問題も大きな動きはないし、台風接近もたいして被害も大きくないし、凶悪事件も起きないし、政治家も失言しないし・・・叩いても刺されない都合のいいニュースないかな?」

そう思っていたかどうかは知りませんが、最近のニュース制作に携わる方はTwitterの人気投稿を定期的に巡回検索しているようで、ニュース性のある動画を見つけたら、撮影者に使用許可を求めて、それを使ってニュースにしているようですね。
皆さんもニュースを見ていると「視聴者撮影」というテロップの動画を一度は(というか頻繁に)見たことがあるのではないでしょうか?
ちなみに、動画使用について基本的に謝礼や使用料は支払われていないようです。

日本全国に経費0円で社会部カメラマンを配置

スマホで簡単に動画を撮影してすぐにSNSに投稿できる現在、TwitterなどのSNSの速報性はTVニュース制作サイドとしてみれば非常に有益で、同時に「コスパの良い」活用法と言えます。

なんたって、経費0円で日本全国に社会部のカメラマンを配置しているようなものだからです。
正義感や好奇心に駆られた無数の一般住民が、局の記者やカメラマンの代わりに現地の様子を撮影してくれます。本人は本社の中でTwitterを検索すればいいわけです。

もちろん重大ニュースであれば自社で報道調査体制を敷くでしょうが、空いた時間を埋めるための小さなニュースにそこまで経費をかけていられない状況なのでしょう。というか、重大ニュースほど「視聴者撮影」動画が多いような気もするのですが・・・

オワコン業界をさらけ出したニュース

私はこのニュースを見て、本当にテレビ業界はオワコンだなと思いました。
Twitterの素人動画の投稿だけを、詳しく調査もせずにキー局がニュースに流すというのは、もう他に工夫のしようがないということなのでしょう。
取りあえず速報として素人動画を流しておいて、後日適当な現地取材やいかにも専門家っぽい見解をつけて「社会正義に訴えかける」風を装う。
こんな番組なら私でも作れます(笑)

TV業界がオワコンなのは、ひとえに広告収入の伸び悩みが原因と言われています。インターネットが発達した今では、視聴者はオンデマンドの番組をネット配信で見ます。一方スポンサーはそんなオンデマンドの視聴者個別の嗜好しこうに合った広告を流せるわけです(YouTubeの広告が見ている番組や年齢等に応じて変わるのが良い例でしょう)。

日本の媒体別広告費の推移
(テレビメディアは横ばいの一方、インターネットが大きく伸ばしている)
出所:情報通信白書令和4年版(総務省)

一家にテレビは一台。居間でリモコンの取り合いをするなんて言う場面はもはや過去の遺物いぶつになっており、そんな中、特定の視聴者層に訴えかけることができず、統計的に極めて不正確な「視聴率」に頼ってCMを流し続けるTVに、広告主もお金をかけたいとは思わないでしょう。

こんなジリ貧の状況では、貴重な収入源である一部広告主や人気タレントを送り続けてくれる大手芸能プロに対しては、余計に頭が上がらなくなります。
ジャニー喜多川氏の性加害問題に民放が積極的に取り組んでこなかったのはこういう忖度そんたくがあったからとされています。
しかしNHKが率先してこの問題を取り上げ、出演者が民放批判をしたことは、特筆すべきことだったと思いますし、今回のニュースをNHKは取り上げていないという姿勢にもつながっているように私は感じます。

さらに昨今のコンプライアンス強化の流れが、テレビ番組のつまらなさに拍車をかけている状況です。
今回のニュースでも、後日現場で取材したシーンで「私有地なので許可を得て撮影しています」とテロップだけでなく、ナレーションでも言っていたのには思わず苦笑してしまいました。

TBSはもはや不動産会社!?

こんなテレビ業界に収益性があるとはとても言えないでしょう。

出所:ビジネス・ブレークスルー大学大学院

このグラフでは右肩下がりになっているようには見えませんが、あくまでも売上高ベースであること、メディア・コンテンツ(テレビ放送)事業は各社とも明らかに頭打ちか右肩下がりであり、その他事業の収益の影響が徐々に増していることが分かるかと思います。
現にTBSは赤坂サカスの不動産収入による貢献が相当程度大きいようです。

さて、撮り鉄批判に思わず筆を取った私でしたが、結論はTV業界批判になってしまいました(笑)
しかしこんな批判もすでに目新しいものではなく、使い古された議論であると、こちらの方はおっしゃっています。

いつの日か有名撮影地(お立ち台)のドキュメント72時間がNHKで放映されることを祈りつつ(笑)、今回は筆をおきたいと思います。

本日も最後までお読みいただきありがとうございました。スキを頂けると大変励みになりますし、コメントなど是非聞かせてください。

※ 筆者は記事内容に関する専門家ではなく、また分かりやすさ優先で記載をしており、不正確な表現があり得ます。また、記事の内容は筆者個人の知見の範囲内での見解であり、その論拠に関し、十分に検証されたものではありません。また本記事で触れた行為に関する問題性についての意見を述べるものではありません。

【文中引用以外の参考資料】

表紙写真:NHK放送文化研究所「2020年国民生活時間調査」

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