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メンヘラ、仕事場に遊びに来る

少し話を巻こうと思う。
何故彼女と同居するに至ったか。

正確に言うと仕事場のシェアなのだが、実質同居状態になっていた。

その同居が、地獄だった。
そこに至るまでの経緯を書いていく。

都心に仕事場を借りる


私は自営業者で自宅仕事なのだが、家だとどうもはかどらない。
ADHDの特性なのだが、つい気が散りがちである。
そこで数年前、一念発起して都心に小さな作業場を借りた。
ワンルームのマンションである。

自宅から電車で乗り換えなしで座っていける、そういった条件で探した。
都心の大きな駅の隣駅、駅近徒歩1分の物件を選んだ。
家賃は破格。5万5千円。この値段でド都心駅近でこのお家賃である。
しかし、安いだけあって12平米程度の古くこぢんまりしたワンルームだった。築年数は30数年。建物は結構ボロボロだった。
外国人が多く住み、ゴミ捨て場にはネズミが走り回る。廊下はひび割れ、少々スラムのような雰囲気があるものの、管理人が昼間は常駐し、公用部をきれいに清掃してくれていた。
私はその物件が何となく気に入り、契約をすることにした。

駅近で都心とは思えぬ安さが決め手だった。
そして一人で仕事をするには十分な広さだった。

新しい機材を導入し、家具も購入。
週に数日仕事場に泊まり集中して仕事をして、家に戻ると仕事はせずのんびり過ごす。
そういった生活がはじまった。

近所に住んでいたメンヘラ


そして、これは本当に偶然なのだが、件のメンヘラ、早苗さんがそのマンションから自転車で10分ほどの距離に住んでいた。

私は一度だけ早苗さんのそのお宅にお邪魔したことがあるのだが、駅から結構歩いたし、都心には土地勘がなく、場所はサッパリ覚えていなかった。
彼女との会話の中で「え!?仕事場借りたの?めっちゃ近いよ!今度誘って!一緒に作業会しようよ!」と言われるまで、それに気が付かなかった。

家が近いと言っても、最寄り駅も異なるし、土地勘もない。
どの程度近いのかピンときていなかった。

なにより、早苗さんがたまに情緒不安定であり、メンヘラな面を出すととても怖い、という事が何度かあったので、私も少し警戒していて、すぐに彼女を仕事場に呼ぼうとは考えていなかった。

作業場を借りてから数か月後。

Aさんをはじめとした同業者の友人数名と飲み会をする機会があり、その後に私は仕事場に皆さんをお招きした。
狭いワンルームに6名の同業者を呼んだ。
寿司詰め状態だったが、仕事場のお披露目のような感じだった。
楽しく過ごしたが、早苗さんはしきりにうちから近いよ!と騒いでいたのが気になった。

「近いんだから誘って!」「近所案内するよ!」「ご飯作って持っていくね!」「作業会しよ!」
早苗さんは大はしゃぎな様子で、家が近いから頻繁に遊びに来れると言い、仕事をしよう、作業会をしようと誘ってくれた。
しかし、私には少しひっかかるものがあった。

「誘って!」という受け身の要求に対して、少し重たさを感じた。

しかし、私はこの違和感を見逃してしまった。
考えすぎだと思ったのだ。
飲み会やオフ会で彼女と会う度に言われるので、だんだんとそのうちね、と流す事に負い目にかんじるようになり、一度はうちで作業会をやろうと私から彼女を誘ったのである。

地獄の蓋に手をかけていた。

妖怪は招き入れないとは言ってこない。
私は妖怪を招き入れたのだ。

メンヘラ、仕事場に遊びに来る


彼女は来客時、とてもいいお客様だった。
手土産をもってきたり、作業場もきれいにつかってくれて、少し距離があった状態から打ち解けていくには時間はかからなかった。

お互いの好きな漫画の話をして、漫画の趣味があうこともわかった。
どのキャラ推してる?とか、他愛もない話で夜通し語り合って盛り上がった。
彼女は現代怪談が好きで、私もそういった話が好きだったので、そういった話で盛り上がった。
気が合うと感じた。

しかし、それは後々勘違いだと判明する。
彼女は全部話を合わせるタイプの人だったのだ。

私が「Aが好き」というと「私も~!!」という。
私が「食べ物では刺身が好き」というと「私も!同じ趣味で嬉しいよねえー」という。
全部そんな調子だったのだ。

気が合うと思うに決まっている。
彼女が合わせてきているのだから。

何故そんなことをするのか。

当時は理解できず、今もハッキリととらえて正確な理解ができずにいる。

言語化すると、彼女が依存度の高いメンヘラであるが故に、「誰かと一緒に行動する事が優先されている」「全部人に合わせる、自分がない」からだと思う。

彼女は私が仕事場に人を集める機会があると知ると、必死に誘って欲しいと頼んできていた。
嗜好をも思考回路も私を真似して語り、気が合うアピールしていた。
私は最初、彼女を全面的に信じていた。

しかし、後々他の人との話を突き合せたり、早苗さんと他の人と会話をしている様子から、人によって言う事や話すこと、主張する好みがバラバラだという印象を抱くことになる。

他にもいろんな事があって判明するのだが、

早苗さんは
「自他境界が曖昧で自分と他人の境界がバグっている」
「思考回路から好みまで目の前にいる人の発言を真似をしてしまう程自分がない」
「一緒一緒!お揃い!」そういった行動をとれば仲良くなれると信じている

そういった特性があるようだった。

それが判明するのは一年半後である。

私は彼女の言葉をすべて鵜呑みにして、気の合う人だと思い込み、急速に早苗さんと仲良くなっていく。

私の距離感もバグっていた。

そんな都合の良い友達が、大人になってから出来るわけないのである。

(続く)
サクラナミキレン

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