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「シャイニング・ワイルドフラワー~千だって~」第十四話 今すぐ幸せになる

今すぐ幸せになる

おじいちゃまに啖呵を切った私は、自分の部屋に戻り窓から秋の澄み切った空を眺めた。のびのび広がる雲を見ていたら、いつの間にか彼の顔が浮かんだ。

もし、もう一度結婚するなら、あの人みたいな男子がいいわぁ~
あの人って言うのは、ほら、桑名の七里の渡し船で出会ったイケメンの彼。
彼と一緒なら、私は笑顔でいられそう。
あの彼、本田忠刻さん、今どうしているのかしら。

そんなことを雲のまにまに思い浮かべ、うっとりしていた。
「姫様!姫様!もし、も~し!!」
耳元で、久しぶりに刑部卿局の「もし、も~し!」と私を現実に呼び戻す言葉が聞こえた。
「えっ、何かしら?」
一瞬で現実に戻り、振り向くと刑部卿局はニコニコしていた。
「どうしたの?なんだかやけに、うれしそうね」

刑部卿局は下からうかがう目で、私を見上げた。

「姫様、もしやあの時の男子のことが、忘れられないのではございませんか?」
どうして彼女は私の心が読めるのかしら?とドキッ、とした。
刑部卿局ってば、本当に私のことをよく見てる。
でもそんなこと素直に言えやしないわ。だから私は話題をそらした。

「そんなこと、なくってよ。
ああ、秋の空は気持ちいいわ~と思って眺めていただけよ」

「そうですか。
本当に秋の空は、気持ちようございますね。
そしてこのお知らせもさらに、気持ちよくなるかと存じます」

「何かしら?」
「姫様、本田忠刻様のことがわかりました」
心臓が、口から飛び出そうになったわ!
だけどその気持ちを平常心に包み、平気な顔を作った。
「あら、そう」
「ご安心くださいませ、姫様。本田忠刻様は、独身です」
飛び上がりそうになった。
「しかも・・・」
刑部卿局の話はここで終わらなかった。
「本田忠刻様は、大御所様のひ孫様に当たります」

「それは、どういうことかしら??」

私はついに平静を装うことができずに、叫んだわ。

「本田忠刻様のお母様熊姫様は、大御所様の最初の奥様、築山様との間にできた信康様の長女の徳姫様の次女となります。
しかも、その忠刻様のおばあ様の徳姫様は、織田信長様の長女でもあります。ですから、忠刻様は織田信長様のひ孫にもなります。」

「ちょ、ちょっと待って!!
血筋関係があまりにも複雑で、何がなんだかわからないわ!」

「ですから、姫様は父方から見ますと、忠刻様のお母様の従妹になります。
母方から見ますと、忠刻様の曽祖父が織田信長様になり、姫様のおばあ様お市様とのご縁にあります。
つまり忠刻様は、姫様から見てご縁に過不足ないすばらしい方なのでございます」

私は頭の中で家系図を模索した。

「私と忠刻様の関係は近くて遠い縁戚のようなもので、家柄には不足なし。
あととにかく彼は独身、ということね?」

「はい、そうでございます」

刑部卿局はニコニコしながらうなづいた。

よしっ!!私は心の中で力強くガッツポーズを作った。
そして嬉しいと思う反面、ポロッと本音が口から出た。

「でも私は秀頼様とお別れして二ヶ月よ。他の男子のことを意識するのは、不謹慎よね?」

すると刑部卿局は怒ったように言った。

「何をおしゃっているんです!姫様!!
 姫様は幸せになるために、大阪城から出てきたのですよ!
幸せになるのに、早いも遅いもございません!
 姫様が愛する方を見つけ、早く幸せになることが秀頼様への一番のご供養になるのです。
姫様、自分が幸せになることから、逃げてはいけませんよ。
幸せになることを、怖れてはいけません。
さぁ、今すぐ、幸せになる決心をして下さいませ」

刑部卿局の言葉は私の心を貫き、ぐわりと掴んだ。
そして気づいた。私は無意識に
「まだ私が幸せになるのは、早い」
と設定していた。
私だけが幸せになると、世間から
「夫が亡くなりそんなに時間が経っていないの、なんて冷たい女だ!」
と非難されるのを、怖れていたのね。
世間なんて、何もしてくれないくせにね。

刑部卿局はさらに私の近くに寄り、囁くように言った。

「姫様、まずは姫様のお気持ちを確認したいのです。
今、大御所様は先日の坂崎殿との約束を反故にし、姫様のために公家様との結婚を考えておられます」
ま、またおじいちゃまってば、勝手なことをして、と怒りで拳が震えた。刑部卿局はそっと私の拳を上から握った。

「大御所様は、大御所様なりに姫様の幸せを考えておられます。
だいたい姫様のようなお立場になると、自分で結婚相手を選ぶ、と言っても出会いのきっかけなど、まずございません。
ですから大御所様は、そのきっかけを作ろうとされているのです。
出会って姫様のお気持ちがどう動くかは、姫様のご意思に任せるおつもりのようです。
ただ、姫様がもし忠刻様のことを好ましく思っておられるなら、私が命をかけてでも、姫様のご縁談をまとめさせていただきます。
それが、私の役目と存じております」

刑部卿局は頭を下げた。
私は彼女に飛びついた。

「ありがとう!ありがとう!ありがとう!!
私ね、本当は忠刻様のことがずっと気になっていたの。
でもきっともう奥様がおられると思っていたし、独身であってもどうしたらいいかわからなかったの。
おじいちゃまには、公家様とのご縁をお断りしてもらい、ぜひぜひおじいちゃまのひ孫の忠刻様とのご縁をつないでもらって。
それにしてもおかしいわね。
おじいちゃまの孫とひ孫のご縁だなんて!!」

「そんなことは、昔から珍しくも何ともないことでございます。
どうぞ、私にお任せ下さいませ」

刑部卿局は胸を張った。
私はまだまだ刑部卿局には勝てないわ、と思いながらも、限りなくうれしかった。
ここは彼女に甘えさせてもらおう。

私のワイルドフラワーは息を吹き返した。そして砂漠で花を咲かせるため。手を広げた。

私は決めた。

幸せになるのに、早いも遅いもない。
幸せになることを恐れない。
世間なんて、どうでもいい。
私は自分がすきなものを、すき、というわ。

私はまたくっきりと清々しいほど青い空を見上げた。

神様は、私の味方
だから私は今すぐ幸せになるの。

ニッコリ笑って、秋空にピースした。


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愛し愛され輝いて生きるガイドブック

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幸せをもっと先に設定していませんか?

さぁ、今すぐ幸せになることを決めましょう。

あなたが、決めたらそうなります。

決めるのは、ぜんぶあなた自身です。


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