書籍:人生後半の戦略書

こんにちは。
3人娘を育てている、ベンチャー企業のCTOです。

人生後半の戦略書

「人生後半の戦略書」を読みました。

本書では、人生の中年で起きる「能力の低下に対する悩み」に対しての考え方の本です。

30代前半ころまでは、「一心不乱に働くことで人生が上手く行く」と考えて頑張っている人も多いでしょう。
多くの人は、そこから先に何が起こるのか、といったことについて準備が不十分だと言えます。

過去、一心不乱に働いてきた人が、どのような悩みに直面してきたか。
それを乗り越えられた人と、乗り越えられなかった人には、どのような違いがあったのか。

そのようなことについて書かれた本です。

キャリアの下降と向き合う

キャリア経験年数と生産性

多くのクリエイティブな職業においては、とある年齢でピークを迎え、その後はパフォーマンスが落ち始めます。

金融関係者のピークは、36歳から40歳。
医者のピークは30代。
作家の場合は40歳から55歳。

起業家の場合は、出資を受ける経営者の年齢は、20歳から34歳の間に集中し、35歳を超えたケースは少数です。

これはナレッジワークに限りません。
最も早くピークが訪れるのは、スポーツ選手と言えるでしょう。

ディーン・キース・サイモントン教授による研究では、クリエイティブな職における、キャリア経験年数と生産性の平均をとると、キャリア20年目がピークとなります。
実際には職業ごとに、かなりの幅が生じますが、生産性の半減期は15年から30年と考えてよさそうです。

キャリアの落ち込みによる苦しみ

仕事での成果が、かつてよりも出せなくなってきたときに、多くの人は自己肯定感を下げます。
そして、それは心身ともにダメージを負います。

UCLAとプリンストン大学の共同研究においては、「自分が役に立ってると思わない」と考えている高齢者は、「自分が役に絶っていると思う」と考えている高齢者に比べ、障害の発生率や死亡するリスクに対して3倍ほどの違いを見せました。

これは、過去に成功をしていた人であっても同様です。
過去の栄光がある人は、過去の栄光を思い出して幸せに過ごせるかというと、そうではありません。
同様に、キャリアの落ち込みに苦しみます。

これは、出世競争に勝てば幸福になれるというわけではない、ということを示しています。

こうなると、キャリアの落ち込みを避けるために、立ち止まらずに、成功を求めてひたすらに走り続けるという挙動を始めます。
しかし、それは、さらなるキャリアの落ち込みをもたらし、苦しみが増大します。

どう向き合うか

このような落ち込みに対して、以下の三つの選択肢が本書に記載されています。

  • やがては落ち込むなどという事実を否定し、落ち込みに抵抗する。

    • ⇨待っているのは、挫折と失望

  • あきらめて落ち込みに屈する。

    • ⇨廊下は避けられない悲劇だと思いながら生きていくことになる

  • 現在のあなたを作った仕事を続けても、未来はないことを受け入れる。

    • ⇨新しい強みとスキルを身につけなくてはいけない

本書で提案しているのは、三つ目の選択肢「新しい強みとスキル」です。
これは一体何なのかを本書では明らかにしていきます。

二つの知能

流動性知能

心理学者のレイモンド・キャッテルは、「人には二種類の知能が備わっているものの、各知能のピークが迎える時期は異なる」という理論を提唱しました。

このうちの一つ目の知能が「流動性知能」です。

これは、推論力、柔軟な思考力、目新しい問題の解決力を指す知能です。
一般的な「頭の良さ」は、この流動性知能を指しているケースが多いでしょう。
読解力や数学的能力とも関係があるもので、革新的なアイディアを産み出す力も、流動性知能です。

キャリアの前半でハードワークによって成功した人たちは、基本的には流動性知能によるものです。

しかし、この流動性知能は華麗によって低下します。

結晶性知能

二つ目の知能が「結晶性知能」です。

これは、過去に学んだ知識の蓄えを活用する能力です。

知識の蓄えに依存するこの知性は、40代、50代、60代と年齢を減るほどに向上します。
結晶性知能が減少するとしても、人生の終盤になってからです。

キャッテルは、この二つの知能を以下のように説明しています。

(流動性知能は)抽象的な問題を解決する脱文脈化された能力であるのに対し、結晶性知能は、人が生きるなかで文化的適応と学習によって獲得した知識に相当する。

若いときは、自頭に恵まれ、歳をとったら知恵に恵まれる、とも言えます。

キャリア設計

流動性知能のみを想定してキャリアを積んでいる場合、早期にピークを迎えます。

結晶性知能が必要なキャリアを積む、あるいは、より結晶性知性が活かせるようなキャリア設計ができれば、ピークの時期も落ち込むタイミングも、かなり先延ばしにすることができます。

例えば、革新を中心においたキャリアから、指導を中心においたキャリアへと、キャリアを再設計することで、加齢による強みを発揮することが可能です。

教師は、結晶性知能を活かしやすい職業として知られています。
他にも、歴史研究などは、結晶性知能によって成り立つ分野です。

共和政ローマの末期に活躍した哲学者であるキケロは、以下のように述べています。

老人は(中略)肉体労働を減らし、頭を使う活動を増やすべきであるように思う。
相談にのったり、実用的な知恵を教えたりして、友人や若者、そして何より国家にできるだけ奉仕するよう努力すべきだ。

ここで重要なポイントは、奉仕、知恵、相談です。


この結晶性知能との向き合い方や、欲や執着といったものとの向き合い方、そして「死」との向き合い方が本書では書かれています。

私は現在40歳であり、まさに流動性知能の低下の時期であり、結晶性知能へのシフトを考えるべきタイミングにあります。

本書は、30代後半に差し掛かった人には非常にオススメです。

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