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ワーパパとジーン・シャープ

こんにちは。
3人娘を育てている、ベンチャー企業のCTOです。


独裁体制から民主主義へ

ジーン・シャープはアメリカの政治学者です。
非暴力による社会変革についての書籍「独裁体制から民主主義へ」を著しました。

「独裁体制から民主主義へ」は、マハトマ・ガンディーによるインドの独立運動を研究したもので、ミャンマーの民主化活動を契機に書かれました。
この著作には、独裁体制が何によって成立しているか、どのように立ち向かうべきか、打倒した後の体制はどうあるべきか、等について書かれています。
非暴力活動の内容についても、198個もの施策を提示しており、実践的であり、かつ、戦略的であることが特徴とされています。

この著作は、1994年に英語版・ビルマ語版で出版され、現在では42の言語に翻訳されています。
そして、抵抗活動のマニュアルブックとして用いられています。
実際、バルト三国の独立回復、セルビアの独裁政権打倒、アラブの春など、多くの非暴力革命に影響を与えています。

今回も、100分de名著の解説書を読み、その概要を記載します。

独裁体制

シャープは、独裁体制を以下のように記しています。

ある個人・グループが憲法上の制限や、権限の分割を認めず、被支配者に選挙権を与えぬまま、社会を支配する権利があると主張し、支配者として君臨し続けるような政治体制。
そこでは基本的人権[言論・出版・集会・結社の自由など]が与えられず、反対者は抑圧されることとなる

Sharp's Dictionary of Power and Struggle : Language of Civil Resistance in Conflicts の訳

シャープは、独裁体制に対して、交渉によって十分な結果をもたらすことはないと言っています。
独裁体制は、民主化運動のリーダーを闇に葬り、交渉結果を反故にします。
独裁者の狡猾さと残虐さを甘く見てはいけないといいます。

独裁体制への抵抗

どのように独裁体制に抵抗すべきでしょうか。
場当たり的にならず、戦略的に活動すべきだと言います。

根源的な問題が争点となっている対決においては、交渉ではなく抵抗こそが変化をもたらすのに不可欠だ。
独裁者を追放するためには、どのような場合においても抵抗活動を継続しなければならない。
成功するかどうかはおよそ、和解交渉によってではなく、手に出来る限り最強の抵抗手段を、最も適切な方法で賢く使い続けられるかどうかによっている。

独裁体制から民主主義へ

そして、独裁体制は永遠ではなく、打倒可能であることを知ることも大切だと言います。
そのためには、支配者の政治的な力の根源を知る必要があります。

政治的な権力の源

政治的な権力は、権力を持つ側から一方的に生まれていると捉えられるケースがあります。
それゆえに、権力者よりも物理的に強い力(暴力)を持たなければ支配体制を打倒できないと考えられがちです。
しかし、支配者の政治的な権力は、実際には民衆の支えや協力がなければ、支配者がその力を維持できないとシャープは言います。

政治的な力の源はすべて、民衆側が政権を受け入れ、降伏し、従順することによっており、また社会の無数の人々や多機関の協力によって成り立っている。
(中略)
反対に、民衆や期間が侵略者や独裁者に協力しなくなれば、どんな統治者であっても依存している力の源が枯れていき、時には断たれる。
そうした源を失うと、統治者の力は弱体化し、ついには消滅するのだ。

独裁体制から民主主義へ

それゆえ、暴力を使わずとも、民衆が自らの意思によって支配者への協力を拒むことで、独裁体制を機能不全に陥らせることが可能となります。
労働者、官僚、警察、軍人が支配者からも命令に従わない「非協力」が、同時にかつ継続的に実行されることで、独裁体制を弱体化できます。

服従

民衆はなぜ独裁者に服従してしまうのでしょうか。
シャープは以下の七つの要因を挙げています。

  • 習慣

  • 制裁への恐れ

  • 道徳的義務

  • 自己利益

  • 支配者との心理的一体感

  • 無関心

  • 不服従への自信の欠如

何より、独裁者は民衆を長年調教し続けています。
独裁体制を打倒するには、恐怖感と従順の癖を克服することが重要であるとシャープは言います。

暴力による闘い

独裁体制を打倒するためには、暴力では勝つことができません。
非暴力でなければ勝算がないとシャープは言います。

暴力的な手段がどんなものであれ、明白なことがひとつある。
暴力的な方法に頼るのはまさに、抑圧者がほぼ常に優勢となる戦いを選んでしまったということだ。
独裁者は、暴力を圧倒的なレベルで行使できる装備を具えている。
(中略)
民主化勢力はかなわないのだ。

独裁体制から民主主義へ

暴力は、独裁体制が得意とする領域で、その領域で闘いを挑んでしまっては勝ち目がありません。

仮に軍事的なクーデターで、その時の独裁体制を打倒したとします。
その場合は、新しいグループが独裁体制をしくだけです。
頭が変わるだけで、独裁体制であることには変わりありません。

独裁体制は、倒しさえすればよいというものではなく、体制崩壊の混乱に乗じて新しい抑圧的な政権が立ち上がらないように、闘いかたを選ぶ必要があります。

非暴力闘争

非暴力によって独裁体制と闘えるのか、かわりという問いが生まれます。
これは「非暴力闘争」に対する誤解による生じる問いだとシャープは言います。

非暴力闘争は、受け身の抵抗ではなく、意図的に、積極的に仕掛けていくものだとシャープは言います。

暴力的な闘争の手段や結果がどのようなものかは、よく知られているところだ。
物理的な武器は相手を威嚇し、傷付、殺し、破壊するために用いられる。
一方、非暴力闘争は暴力よりももっと複雑で多様な闘いである。
暴力の代わりに心理的、社会的、経済的、政治的な武器で闘い、民衆や社会機関が参加する。

独裁体制から民主主義へ

暴力以外のありとあらゆる手段をつかって、消極的ではなく積極的に闘うことが非暴力闘争です。
これは独裁政権にとっては、武力で歯向かってくるよりもやっかいです。

手法

非暴力行動は198個の方法としてリスト化されています。
「シャープ 非暴力 198」などで検索するとヒットします

それら、大きく以下の3種類のカテゴリーに分けることができます。

  • 抗議・説得

  • 非協力

  • 干渉

抗議・説得には、デモ行進、座り込み、公共の場での演説、シンボルとなるものを身に着けたり、歌を歌うなどが含まれます。
非協力には、不買運動、税金の滞納、ストライキなどが含まれます。
干渉には、メディアの立ち上げ、買い占め・投げ売り、並行政府の始動などが含まれます。

これらを必ずすべて実施しないといけないわけではなく、立ち向かう独裁体制にとって有効的な行動を選択的に実行します。

戦略的

非暴力闘争を成功に導くには、周到な準備と戦略が必要不可欠です。

戦略的計画を持たないことの結果は、ときに強烈なものとなる。
力は消散し、行動は効果を発揮せず、エネルギーは些末なことに浪費され、利点は生かされず、犠牲は無益なものとなる。
(中略)
ずさんに図られた行動が奇妙に混在しているだけでは、大きな抵抗活動を前進させることはかなわない。
その代わりに、独裁政権が支配とチラからを増すのを許すことになるのだ。

独裁体制から民主主義へ

自然発生的に始まり、無計画に進められて頓挫した民主化運動が少なくないと言います。
眼の前の事象に囚われ、思考が戦術レベルにとどまってしまうこともあります。

さらに、独裁政権を打倒した後のことも考える必要があります。
そこまで含めた戦略がなければ、たとえ独裁政権を倒すことができても、新しい独裁者が生み出される可能性があります。

新体制

シャープは、独裁体制を打倒できた直後が、最も危ない時期だと指摘します。
その隙をついて、新たな抑圧的政権が生まれかねません。
そのような中で生まれる新たな独裁者は、独裁体制が崩壊する過程を見てきているため、自らの足場をより強固にするための残虐な行為を取る可能性があります。

それを防ぐためにも、素早く新政府を立ち上げる必要があります。

そして「完全な政治的、個人的自由を掲げた民主的憲法」を制定することが重要としています。

民主主義を保つためには、中央政府内で立法、行政、司法おいう政府の柱の間で権限が明確に分立されなければならない。
警察、諜報、軍隊の活動については、合法的な政治的干渉を禁止するために厳しい制限が設けられなければならない。
民主主義体制を守り、独裁的な偏りや手段を防げるように、憲法は地域、州、そして地元レベルの政府に大きな権限を与える連邦精度を築くことが望ましい。

独裁体制から民主主義へ

三権分立と地方分権を制度化しておくことが大切だといいます。

ワーパパとジーン・シャープ

現代の日本に生まれ住んでいると、他国で行われている独裁体制について、想像しずらいと感じます。
それゆえ、軍事クーデターや民主化運動といった事象に対しても、あまりピンと来ないのが正直なところかもしれません。

そういった中で、子どもたちから、世界各地で起きている様々な紛争・民主化運動・軍事クーデター等について質問されたとき、またインドの独立といった歴史上の出来事について質問されたとき、ジーン・シャープの「独裁体制と民主主義へ」の内容を把握していると、より広い視点で話ができるようになるかもしれないと思いました。

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