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ねぎとろカーチェイス

つい先日起きた、ものすごくささやかな事件です

その日の夜はBさん宅で食べることになった。
Bさんの仕事終わりが少し遅くなりそうとのことで、私が近所のスーパーで先に買い出しをして、そこへ車で迎えにきてもらう、という段取りにしていた。

日々のnoteでも少し書いているが、私たちの家飲みはメニューがほぼ決まっている。
スーパーで必ず買うものは千切りキャベツ、刺身、ねぎとろ、豆腐。あとは炭酸水とか氷とか海苔とかキムチとかを切らしていたら買う、という感じだ。

いつものお刺身コーナーに行くと、まぐろとぶりのお刺身が残っていたがねぎとろがなかった。
珍しい。閉店間際でお刺身がほとんどなくても、ねぎとろは大抵あるのだ。
まぐろは買えたしまあいいか、と思いながら、軽い気持ちでBさんに「ねぎとろなかった」とLINEする。
他に必要なものがあるかもしれないので、会計はせず店内をさまよいながら待った。

程なくしてBさんから電話がかかった。第一声は
「事件や!」
であった。
「もうすぐ着くから!で、◯◯(Bさん宅付近)のスーパーに行くから!すぐ出られるように会計しといて!」
最初何を言っているのか分からなかったが、どうやら事件とはねぎとろがなかったことであり、ねぎとろを探しに他のスーパーへ行くので急いで!!!という意味らしい。
理解した私はできるかぎりの速さで会計を済ませ、駐車場へやってきたBさんの車に乗り込んだ。

私が乗ったとたん、
「行くで!」
と言ってBさんはスピーディに発車した。
時刻は20時40分。
このあたりのスーパーはどこも21時で閉まるのでギリギリといえばギリギリだが、車なら余裕で着けるはずである。
「そんなに急がなくても間に合うんちゃう?」 
と私が言ったところ、Bさんは真顔で
「いや、俺万が一のときには▲▲(Bさん宅からもう少し先に行ったところ)のスーパーに行くことも想定してるから」
と言った。
彼は次のスーパーにねぎとろがなかった時のリスクにまで備えていたのだ。
そこまでBさんがねぎとろを愛しているとは知らなかった。

Bさんの真剣さに気圧され、私もなぜか緊迫したトーンで
「じゃあ私だけ降りてねぎとろ探すわ。なかったらすぐ出られるように、車で待ってて」
と言った。
Bさんはハンドルを握ったままちらりと私のほうを見て笑い、
「いや、一緒に行こう」
と言ってくれた。
危険な現場に向かう刑事コンビ、みたいなやり取りになっていた。(そうか?)

◯◯のスーパーの駐車場に、Bさんの車が滑り込む。
その速度と角度は、まさしく激しいカーチェイスの結果犯人を追い詰めた刑事の車、といった様相を呈していた。

閉店間際で広い駐車場がガラガラだったからできたことなので、良い子は真似しないでくださいね

はたして、◯◯のスーパーにねぎとろはあった。
「よかった〜〜!!!」
あんなに安堵しているBさんを見たのは初めてである。

ようやく手に入れたねぎとろは、味海苔と一緒に美味しくいただきました。
めでたしめでたし。

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