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ひとかげ より

人間のフォルム、完成された美しさ。どんな性別でも年齢でも人間は美しい。神の技のすごさを知るのに充分な美しさだった。その気持ちがあるかぎり、仕事をがんばろうと思う。これまでに知り合った子たちの顔が浮かんできて、涙が出そうになる。できることをしよう、切実な感情があふれてくる。世界は美しく、人間は完璧なのだから、そう思うのだ。

問題はない。人は好きな暗さの中で好きなように生きていいんだ。

私はこわくて口もきけず、こわばったままでいた。父が駆けつけて、私を抱きしめた。私の魂がうつろな私から離れそうだったのは、そのとき父が抱きしめてくてたことでぎゅっと治った。
人は人に力を貸すことができる、というのがそのときほんんとうにわかったの。

どんな悪意にも壊せないものはこの世にあるの。



ひとかげ/よしもとばなな/幻冬舎文庫

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大学の研究室で読んだ書物のなかに、書かれていた一文がとても印象的だった。
「色彩感覚は静けさの中でしか育まれない」

そのような文だったような気がする。
私は、よしもとばななさんの作品が好きでほぼ読んでいる。だから、おそらくこれからも度々この場で書くことになると思うけれど、最初に手に取った本がこの「ひとかげ」だった。

「人は好きな暗さの中で好きなように生きていいんだ」

何故、世の中的に、明るさや、元気さはもてはやされるのだろう。それは本当に重要なことなのかと疑問に思うと、甚だ馬鹿げたことのように感じることがある。静かに、本を読むのが好きな子どもがいて、それを見て大人は「子どもなんだから、外で元気よく遊びなさい」という。「明るく元気に挨拶しよう!」という。元気すぎてうるさい子どもに、「静かにしなさい!」という。それは、大人が求める、勝手な子ども像で、その子どもは、もしかすると静かに黙って考え事をしたり、この世の不思議を思っているかもしれないのである。


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