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【海外生活】樹齢100年の樹

こんにちは、さくちゃんです。

私は今、アンデス山中のど田舎で家を作っています。

わざわざコロナで大変なこの時期に家を作るのはどうなんだろう、と悩みつつも、今やることに意義がある!と続けています。詳しくは、以前の記事をご参照ください。

家づくりの過程は初めてのことばかりで面白く、いろんな気づきを得ることができます。今回は、木材を入手する過程で考えたことについて書いていきたいと思います。

ペルーの田舎の家づくりは、もちろんセメントとレンガで作ることもありますが、多くの場合、土と木を使って作られます。土は日干しのアドべレンガを作って積み重ねることもありますし、Tapial(タピアル、版築)と呼ばれる木枠に土を入れて突き固める工法を使うこともあります。私のホテルはタピアル作りで、この辺りの地方ではこの工法が主流です。

私の家もできればタピアルで作りたかったのですが、壁の厚さが60㎝を超える工法なので狭い場所での建築には向かず断念しました。結果、市販のレンガで作ることになりましたが、その代わり梁や天井には木を使おうと決めていました。

また、屋根瓦は隣の村で作っている伝統的な瓦を使用しようと考えているのですが、実はこの瓦で屋根を葺くのには多くの木材が必要とされます。さらに2階部分にはバルコニーを作ろうと考えていて、それにも木が必要となります。

幸い、建設予定地には以前の持ち主さんが植えておいてくれたPino(ピノ、パイン材)が大きく育っていたので、多くの部分はこれで賄えると思っていました。

*ピノを切る様子はこちら

しかし、やはりこれだけでは足りないし、ピノはあまり丈夫な木ではないので、梁や柱にはもっと固い木を使うべき、と大工さんにアドバイスを頂いて友人たちに相談した結果、Ishpingo(イシュピンゴ)という木を改めて購入することになりました。

決めたはいいんですが、イシュピンゴは市場に出回っていない、なぜなら成長が遅いので年数が経った木は持ち主が自分用に確保している。さらに村に近い所の木は全て建築資材として切られてしまっていて、太くて良い木は遠くまで探しに行かないといけない。購入しても輸送費がかかる。なかなか頭が痛いところです。

やっと見つけたと思った売主は、未亡人で自分ではもう畑を管理しきれなくなった方でしたが、商談がまとまる前にお子さん達から反対されて断念しました。私が外国人なので、もっと値段を釣り上げろ、と言われたようです(苦笑)。適正価格で取引するのはいいんですが、慈善事業ではないので法外な価格を要求されても応じるわけにはいきません。

次に見つけた方は、お母さんの体の具合が悪くてお金が必要だったのですが、お母さんの容態が悪化して看病につききりになってしまい、私の工期に間に合わないため断念。

その後友人たちのつてをたどって、売ってもいいよ、というおじさんを紹介してもらいました。彼は売るつもりはなかったのですが、そうやって確保していても成熟した木が倒れてしまうことが何度かあったそうで、無駄にするくらいなら、ということで、承諾して頂きました。ちなみに成熟して倒れてしまった木もうまく倒れていれば十分使えるそうです。

早速おじさんの農園に向かいました。たくさんある木の中で、用途と必要な長さに応じてどの木がいいか選んで、おじさんと合意を交わす必要があります。

おじさんの農園は家の建設予定地から車で15分くらい。ただトラックが入れる道路までちょっと距離があります。この間を人力で運ばなければならないので人件費がかかります。これは木を選ぶうえで頭に入れておく点です。いくらいい木でも、あんまり奥の方のを選ぶとコスト高になります。

また木を切った後、その場で木材として製材する必要があります。そのままでは人力で運べないからです。製材ができる人を現地に派遣しなければならないので、これもまたコストです。

町の製材所で買った方が絶対に安上がりだよな、と思いつつ、村にお金を落とす、という大前提、そしてイシュピンゴという市場に出回らない木にこだわって動くとこうなります。

おじさんと付き添ってくれた友人と一緒に山に分け入り、木を探します。おじさんが目星をつけていた木は全て樹齢100年オーバー。中には既に寿命で倒れ、少々虫に食われているものの、ちょうどいい具合に乾いて木材として使い時のものもありました。

おじさんが出してくれた候補の中から、まっすぐに伸びていて、切り出しやすい位置にある木を3本選びました。うち1本は既に倒れていたやつなので、実質2本を切り出します。

樹齢100年以上の木を2本。

不意に、その現実がどーんと背中に乗っかってきました。

この木を切るのか。

どちらも立派な木で風格さえ感じさせます。また、今回の家づくりのためには、これらの木以外にも、既に樹齢15年以上の3本のピノを切り出しています。

私の家は、65㎡程度の小さなもの。それでもこれだけたくさんの木を使います。しかも何十年と命をつないできた木を。

ちょっとこれは重いぞ。

伝統的な工法にこだわると木を使う。木を切る。

近代的な工法でセメントやレンガを使うと壊れた時に自然に分解されるまでに時間がかかる。

どっちにしろ環境への負荷は大きいんだけれど、伝統的な工法であれば少なくとも最終的に自然に帰るスピードは速い。ただし、次の世代につないでいくために、使った分以上に植林をしていかないと将来的に使える木はどこを探してもなくなる。

前述したように、伝統的に建材として使われてきたイシュピンゴは成長が遅いため、人々は成長が早くて建材に向く外来種のユーカリを植林しています。今現在建材として十分なイシュピンゴがなくて、ユーカリが市場に出回っているのはそういう理由です。しかし、ユーカリは根を広く張り出し、土地の水分を吸収してしまうので、ユーカリを植林した土地は何も生えない痩せた土地になってしまいます。

また、イシュピンゴ自体の種の保存も危ぶまれています。少なくとも2、30年前まではイシュピンゴを植える動きがあったそうですが、今は皆成長が早いユーカリやピノばかりで、イシュピンゴをわざわざ植えることはないそうです。

結局、木を使う、地元から購入する、という私のこだわりは、この地の環境破壊を加速させ、木の種の保存を危うくさせることになるのか。

これはなかなかショッキングな事実でした。

この事実を思い知った今、できることは何だろう。

おそらくそれは、家づくりを止める、ということではなく、このことを知った上で大切に木を使うということ。

そして、私自身がイシュピンゴを植えるということ。

唐突に決意しました。

私が生きている間に使えないよ、と友人たちは笑ったけれど、それでいいや。

100年の営みを切ってしまうことへのせめてもの罪滅ぼしに、

彼らの命がつながるように、

次の世代が丈夫で素敵な家を作れるように。

家づくりを通して、またひとつ、この地域とのつながりが深まっていく気がします。

*イシュピンゴを選ぶ様子はこちら

帰りにおじさんと話しながら、この土地はおじさんの家族が先祖代々受け継いできたもので、これだけの木々を残した山はもうあまりない、ということを教えてくれました。

お向かいの山は、親から受け継いだ子供たちが細切れに売り払ってしまい、買った人は土地を牧畜に使うために若い木も含めて切り拓いてしまい、何も残っていないそう。

長期的な視野に立って木を育てていれば、その土地以上の財産を子供たちに残せるのにね、とおじさん。残りの木々は、彼の子供たちに受け継がれていくのでしょう。

家づくりの続報は順次公開していきます。読んで下さってありがとうございました!

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