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みじかいお話

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記事一覧

X先生の塾日誌2

vol,4  メッセージ 宇宙人先生の人気は相変わらずだった。 教室長はそんな人気にあやかって「宇宙人先生になんでも質問できる会」を開くという。 早速参加を募ったところ、生徒保護者の反響は凄まじく、塾よりも広い会場が必要になるほどだった。 「ど、どうしましょう。私そんなにアドリブ強くないんですが」と、宇宙人先生は珍しく緊張していたけれど、地球に来てわずか半年で「アドリブ強くない」って言えてる時点で余裕で大丈夫だと思う。 当日は色んな質問が出た。宇宙人先生自身のこと。

カラフル

 君を忘れていた。  窮屈な満員電車の端、優先席の前に懐かしい横顔を見つけた。ここからじゃ顔しか見えないけど、高校時代の友人、というか当時は親友だと思っていた奴。多分、お互いに。顔を見たのが久々すぎて、普段そう呼んだこともないのに「君」とか使ってしまった。  いつぶりだろう。たしか、高校を卒業して、自分が地方の大学に行ったきり会ってないよな。数年前に社会人になって関東に戻ってきたけど、まさか縁もゆかりもない都内であいつに出会うなんて。  声をかけたいけど動けない混み具合

X先生の塾日誌

vol,1  未知との遭遇 ある日、不思議な同僚ができた。 僕は街の小さな塾の一講師。昨日、教室長が「講師不足を救う新しい先生だよ」と連れてきたのは、ちょっと銀色に光っている宇宙人だった。 「彼は毎日シフトに入れるらしいから助かるよ」と教室長は笑っていたが、なんだか色んなことが間違っている気がする。 まさかここから地球侵略を始める気では…と疑惑の目を向ける僕に気付いたのか、宇宙人がこちらに寄ってきて言った。 「不慣れなことが多くご迷惑をおかけすることもあるかと思いま

ある父より

「ねぇねぇ」と僕を起こす声。  眠い目をこすりながら、笑いかける君を見る。小さな眼が僕を見つめている。そうだね、君が起きろと言えば、僕は起きる。僕は眠るのが大好きで、横着で、それに最近はいつも寝不足だから、王様でも弁護士でも大統領でも出来ないことを、君はやっているんだよ?なんてそれは大袈裟か。  君のお母さんが空の上へ旅立って、もう1年になる。男手一つで君を育ててきたけど、うまくやってこれたのか、自信はない。甘やかしすぎたかなとも思うけど、いい旦那さんになかなかなれなかっ

少女はロボットに出会った

 少女はロボットに出会った。  いつかわからないほど昔の時代に森の奥地に捨てられた巨大なロボット。もうずっと何百年もひとりぼっちだったけれど、たまたま森にやってきた少女が見つけて、彼に恐る恐る話しかけた。 「あなた名前は?」  しかし、ロボットは沈黙を続ける。返事が来ないのに無視をして、少女はそのロボットに色んな話をした。来る日も来る日も、毎日毎日。  ある時は両親の話。二人とも仕事が忙しくてなかなか帰ってこれないらしい。私の面倒はおばあちゃんがみてくれているの、と少

聖夜に奇跡は起きない

 聖夜に奇跡は起きない。  生まれてこの方、その日に良いことがあった試しがない。  プレゼントは忘れられるし、自転車は大破するし、彼女には振られるし、前の会社は倒産するし、散々だ。しかも、その日は僕の誕生日でもあるのに。  だけど、いくら嫌でも毎年その日はやってくる。今までどこにいたの?ってぐらい人は増えるし、道は明るくなるし、空気は澄むし、街は浮かれる。  僕は今年もそのはじっこを背を丸めながら歩く。仕事終わり一人暮らしの家までの帰路。強い向かい風に吹かれながら、「

早口言葉

「早口言葉を3回噛まずに言えなければこの世界を滅ぼす」  いきなりだけど、想像してみて欲しい。朝目覚めたら目の前に神と悪魔を名乗る超ビッグサイズのお爺さんとムキムキの悪そうな顔の奴がいて、突然僕に向かってそんなことを言い出した時の気持ちを。夢か?幻か?ほっぺたつねっても目は覚めない。  なぜ僕が?ここどこ?あんたら誰?そもそもなんで早口言葉?色んな疑問が浮かぶが、自称神様が「好きな早口言葉を選んでいいぞ。あと十秒で始める」なんて言うから、すべて吹き飛んだ。  え、え、何

ファミコン

ぼくがその日欲しがったのはファミコンだった。 「何がいいの?」と訊かれて、少し考えてから答えた誕生日プレゼント。小さな部屋で寝たきりのぼくは、長い退屈を紛らわせる相棒が欲しかった。 ファミコン、ずっとやってみたかったんだよね。結構古いゲーム機だというのはわかってる。でも今の最新型のパソコンみたいなゲーム機より、なんだかとってもシンプルでいいんだ。 家族は一瞬戸惑ったけど、すぐに了承してくれた。探すのは苦労したみたいだけど、なんとかオークションでゲットできたみたいだ。

レッツ神様チャンス

あと1年。 二十三歳、独身、一人暮らし。仕事は、コンビニの店員と居酒屋の店員とたまの工場勤務。六畳一間のアパートに住み、趣味はなし。強いて言えば、漫画雑誌の読書。こんなどうしようもない僕に、今年初めて舞い降りた特大の事件は、まさかの余命宣告であった。 しばし途方に暮れて、仕事を無断欠勤し、店長に怒られて、一年後のことより今の事のほうが重要だと気付いた。とりあえず仕事をしなければ、来月だって生きられない。まずは仕事だ。働こう。幸い今のところ身体に異変はない。医者は入院を薦め

新中学問題集

僕の姉は新中学問題集だった。 僕が新中問(略してこう呼ぶ)と出会ったのは、小学六年生の頃。僕がもう少しで中学生というタイミングで、「これ、お姉ちゃんが使っていたやつよ」とお母さんからその教材を渡されたのだ。 そのお古の新中問は、あちこちにチェック(おそらく間違えた問題の印だ)があったけど、お姉ちゃんは問題はノートに解いていたみたいで、汚れはほとんどなかった。 僕と姉はそこそこ歳の差があるから、後から考えてみれば学習指導要領とかがだいぶ変わっていて、教材としての使い勝手は

塾講師が異世界転生したら魔法使いの弟子ができました

気がつくと、そこは異世界だった。 頭の中で散らばった記憶を拾い集めてみる。 あれはたしか、大学からの帰り道。 事故に巻き込まれた僕は、吹っ飛んで意識を失った。そして、今だ。 目の前に広がるのは大きな城とファンタジー調の街並み。どうやらここは城下町らしい。 こういう展開は何度も本で読んだことがある。 割と落ち着いているのはそのせいかもしれない。もしかしたらただの夢かもしれないし。 今まで読んだいくつもの物語では、異世界に飛ばされた主人公はスライムになったり魔王になったり賢者

One

窓から外の風景を見るのが好き。 ゆっくり、変わっていく景色を眺めながら 色んな事を考えるんだ。楽しいことも、楽しくないことも 浮かべてみて、答えを探そうとするんだ。 困ったら、あくびを一つ。 「ずっと一緒に居られるかな」 何度も浮かべた、一番の心配事。 私は今、大好きなあなたと一緒に暮らせているけれど これが永遠に続くはずがないってことは、知っている。 いつだって、本当の願いは叶わないことばかりなんだ。 二人で散歩をした春。 花粉症のあなたは少し嫌々だけ

ねこじた

「おい、君。一体どれだけ待たせれば気が済むんだ」  威圧的なその声に、ウェイターがびくっとして、「只今お持ちします」と反射的に返答し、そそくさと厨房の方へ戻っていく。ウェイターの君が急いでもどうにもならないんだよね、大変だよね、と同じ飲食業界で働く私は同情したくなるが、英幸さんは「わかればいいんだ、わかれば」という風に小さな笑みを浮かべ、腕を組んでいる。  彼はいつも強気だ。自分は間違っていない、という絶対の自信と態度には、付き合う前は人としての強さを感じていたのだけれど、

夜色のねこ

黒猫が一匹、寂しそうにしてる。 見かねた魔法使いが、空を真っ暗にした。 黒猫に、初めての友達が出来た。 闇。 その友達は喋らないけど、 黒猫のことを怖がったりはしなかった。 それが嬉しかった。 でもある日、 闇の中で泣き虫な女の子が「怖い」って泣いた。 神様がやさしく笑って、空に大きな丸を浮かべた。 月だ。 輝くそいつは、 黒猫には眩しすぎて、 目をつむった。 怖くなって、震えていた。 月が浮かんでも、女の子はまだ泣いていた。 神様は、空に光をばら