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壁ドンされてからの〜肯定するのか否定するのか〜

序章につき、カオス発生


「………あ………、ごめん………」

突然の出来事に目をパチクリさせていると、相手がバツ悪そうに謝ってきた。


「あぁ、いえ…………」
思わず、視線を逸らさずに見入る。
魅入ってるのではなく、見入ってるのだ!
だって、正直、恐怖だ。
全く見ず知らずの男性が私の目の前に立ち塞がり、
至近距離でのいきなりの【壁ドン】である。
人生初の壁ドンが、こんな、通勤・通学ラッシュ時、外に丸見えオープンな窓際とは……
いやいや、なんとなく想定はしたことはある!しかし、今日とは思っていたわけでもないし、そんなこと起こりうるとも思いもしなかった。

そんな思いがつい、言葉に出てしまったのだろう。

「ありえない……んだけど……」

と、思わず漏れる。
この間(かん)、たった数秒の出来事なのだが、お互いに視線は外せずにいる。
人は本当に恐怖を感じると視線を泳がすことはないというけど、まさにそれなんだろう。
まな板の鯉とは、まさに………

「(なぜこうなったのか、落ち着け…まずは落ち着け……)」

「すまない、どいてやりたいが、身動きがとれない。反対に向き直って押し潰すよりはマシだと思うから、しばらく我慢してほしい。」

冷静になる間もなく、そう言われ、まるでカップルのような体制になってしまった……。

「あー…、せめて、カバンを挟んでもいいですか?それで、善処します〜…」

……これでも、精一杯の抵抗である。
もし、この男が、痴漢目的だとしたら、いい人ぶってても弄ることは弄るだろう。いざというときの予防線である。


10分程して、目的地に到着した。
相手はまだ乗ってるようで、電車から降りない。よく見たら、制服から次の停車駅に高校がある人のようだった。
私には縁も所縁もない高校かな……?


彼は乗車中、必死になって彼自身の身体を支えて腕を伸ばし切っていた。途中、大きく揺れることもあり、その時はさすがに緩めるだろうかと、ギュッと身体を強張らせたものだが、彼はずっと腕を伸ばしており、少しだけ表情を歪ませるのみだった。まぁ、悪い人ではないように思う。



またしても、カオス発生か

バシッ!!

自分が叩かれると思って、咄嗟に目を瞑った。だが、痛みはない。
恐る恐る上を仰ぐ……
そこには、至近距離に教師が立っていた。ふと左を見ると、出席簿を壁に叩きつけて抑えている状態だ。
これはまた、尋常ではない状況で……

「?…?????」

私が何をしたというのか???
この教師とは、ほぼ面識がない。
担任でもなければ、教科担当でもない。知り合いですらないのだが?
その教師がこんな至近距離にいるのは、何事か?!

余程、私の表情がアワアワと慌てて焦っていたのだろう。見かねたように、その教師のほうが口を先に開いた。

「危なかったな?蜂だ!しかも、スズメバチ!」

…………………ゾォ〜〜〜………

そ……、それはそれで、恐怖だ………

しかし、これでは身動きがとれない………
どうしたら………?

「そ~っとだ……」
「え?」
「そ~っと、こっちから離れるんだ。」
そう言うと、左手で促すように避ける仕草をしてきた。右手はまだ、出席簿ごと壁を押さえている。

「もし、生きてたら、攻撃されるから……、それに万が一にもスカートの中に入ってないかも心配だ。俺の見えないところでバサバサして、確認してくれ。」
「は、はぃいぃ!」

確かにそれは大変!一大事だ。慌てて、その場を離れて、クルクルしてみた。……バサバサはさすがに……

「大丈夫みたいです!」

「そうか、どうやら、ベッタリやっつけてたみたいだ。お互いに危なかったな。」

「はい!ありがとうございました?失礼します!」

お礼も程々に、その場を離れた。



まさかの3回目のカオス発生


二度あることは三度ある……
「ですよねぇええ!!」

「なんのことか、わからん。あと、離れろ!ウザい!」

まさかのまさか!
今度は私が【壁ドン】する側になってしまいましたぁあああ!!

「いやぁ…、私も離れたいのは山々なのですが、まさかの帰宅ラッシュとは……」

「だから!お前と帰るのは嫌なんだよ!例え、同じ方向でも!男と女なのに一緒に帰る奴があるか?!女の友達はどうした?!」

「あ〜ぁ、いやぁ、それがぁ〜、なかなかどうして、彼氏とデート?みたいなぁ〜?」

「ケッ、渋々、俺と帰ってるってわけかよ。頭来るなぁ!」

と、やりとりしながらも、大きく揺れる箇所に突入!ここはどうして、こんなに揺れるのか?!

「危ねぇ!そんなに腕突っ張ってたら、折れちまうだろうが!」

そう言いながら、突然パッと、私の腕を払ったものだから、前のめりに彼の胸に……激突した。いや、正確には彼のカバンと私のカバンを挟んだ状態での寄りかかり……

「あ、そっか〜、腕に負担かかっちゃうんだぁ……(だから、あの人は怖そうな顔したのかなぁ……)」

「気をつけろよ……」

嫌がってる割に、寄りかかることは拒絶されてない様子。

「………重たかったら言ってください……」

「重てえ!あー重てえ!だけど、そのまま動くな!お前の後ろが女性でよかったぜ。ったく。」

大変有り難い、男友達だなと思った。


もう、カオスに諦めた…(既にカオスでもなんでもない)

はぁ……、昨今は、
3度あることは4度あるということもあるものなのだ。きっと、そういうことなのだ。なのなのだ。
そう、自分に言い聞かせる。

「お兄ちゃん、なにか?」

非常に堅苦しく、反応してみる。
いくら兄貴といえど、私はこの兄が大変苦手だ。
「お兄ちゃん、もしくはお兄様!……だろ?」

いやいや、厨二病ですか?!シスコンですか?!

「キモいから、近寄らないでください。」

さっき、家に帰り着くや否や、玄関のドアを閉じかけた時に、まるでストーカーのように後ろからガバッと開けられ、入り込まれ、そのまま玄関クローゼットに【壁ドン】されたのだ。

「こんなことされたら、妹といえど限度があります。」

「お兄様!だ!」

「ほんとにキモい!ママぁ~!!助けてぇ~~~!!」

思わず、夕飯を作っているだろう母を呼ぶ。慌てたのか兄貴がひるんだところを狙ってカバンをぶつけつつ落とし、母の居る台所に向かった。

「っ!!」

声にならない声を出して、兄貴が足を抑えてるのを遠目に見ながら、台所のドアを閉めた。あれは……、親指に落ちたね……相当痛いだろうなぁ……。



おわりに


さて、ここまで読んでくれた読者の皆さん、
どうもありがとう!
私の奇妙な一日を一緒に振り返ってくれて、
とても恥ずかしいと同時にとっても嬉しいです。

まさか、一日で、こんなに壁ドンを受けることになるなんて、誰が想像したことだろう?当の本人が一番信じられないところだよ。

この後、どうなるかは、読者様のご希望の路線に分岐していくことで再会できたらいいなと思います。

お付き合いいただける場合には、
パラレルワールドをお楽しみいただければ幸いです!

またね!


※この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ないと同時に、完全なる創作作品とご承知くださいませ。

#創作大賞2023
#恋愛小説部門


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