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想像力の息の根

ここのところ夢見が悪い。私はいま早番勤務で会社に行っているので6時くらいには起きて7時には家を出ているんだけど、いつもアラームが鳴る前に、例えば4時とか5時とかに1度目を覚ましてしまう。そのときはだいたいまだ半分くらい夢の世界にいて、そこでの私の状況は素晴らしくよいわけでもひどく悪いわけでもなく、でもなんか疲れたなあと思いながらその人生を生きている。しばらくして、自分がベッドに寝っ転がっていることを認識しはじめて、枕元のスマホを見て、朝早いなあと思う。夢か、と気づくのが遅い。今日は平日で、わたしは会社員で、千葉県で1人で暮らしていて、6時くらいには起きて7時には家を出るんだという現実の輪郭を探し当てるのに、ちょっと起動の遅いパソコンくらいの時間がかかる。

ようやく探し当てた現実にだって大した確信は持てなくて、さっきまで生きていた夢の世界のことはすぐに忘れてしまうんだけどそれでも、もしかしたらそっちの方が本当の世界かもしれないと再び追いかけるように二度寝。6時過ぎにゆっくり起きて、しずかに身支度をする。

私がみる夢は昔から、いわゆる悪夢でも「夢のような」空想の世界でもなくて、歪んだ現実っぽいなにか。友達とか知り合いとか職場の人とかが出てくるし、学校とか家とか見知った場所にいることが多い。でも、人間関係がぐちゃぐちゃになっている。会社に高校のクラスメイトがいっぱいいたり、遠くに住んでいるオタク友達と大学の友達が当たり前に一緒に出てきたり。それに映画とか小説とかテレビで見た世界や設定がぐちゃぐちゃに混ざってきて、意味不明瞭な感じになる。そしていつも、わたしはわたしだ。

ストーリーの鮮明度はまちまちだけど、最も鮮明なパターンはほぼ決まっている。
「次の日の予定を全部夢の中でやっている」
これ。だいたいこれ。朝起きるところからひと通り1日を過ごして、はあ疲れたなあと思って起きたらまだ今日は始まっていない。夢の中でやらかしていて、あーなんだよかったって思うこともあれば、せっかく頑張ってなんとかしたのに夢かい…というのもある。

すごく落ち込んでいるときや、悲しい気持ちのとき、現実から目を背けたいときには夢は見なくなる。期待まじりの不安で、何度も予定を確認して、先のことをシュミレーションしていると、よく夢を見る。つまり最近のわたしはわりと現実にしっかり取り組んでいるらしい。
心当たりはまあ、いくつか。

夢、じゃなくても、わたしはなにもかもシュミレーションをしすぎるところがある。不安なときはそりゃそうだけど、なにかイベントや友だちと遊ぶ予定が決まると、ワクワクして、頭の中で楽しいであろうことを全部想像して先に楽しんでしまうのだ。これはあんまりよくないなと思いつつ、癖になっている。だって想像の中のわたしは本当のわたしより完璧だし、そもそもわたしの頭の中だけで展開されるその世界には他者がいない。わたしに都合のいいストーリーのための登場人物として勝手に想像して動かして、楽しいに決まってる。微に入り細に入り想像を膨らませて、もちろん当日だって楽しいのだけど、頭の片隅で想像を超えなかったなあとか思ってしまう自分がいると、本当に嫌になる。過剰な期待を膨らませすぎて、目の前の楽しいをダメにしてしまう自分が許せない。想像力の息の根を止めてしまいたい。

幸せになりたいなあと昔から漠然と思っていて、毎年初詣ではそういう風にお願いしているのだけど、わたしにとって幸せとはいつからか、「自分の想像を超えたなにか」だと気づいているのに、いつだって際限なくあり得る幸せもあり得ない幸せも全部想像してしまっているから、想像力の翼をへし折ってほしい。

とにかく夢見の悪いのをどうにかするためにも、寝る前に現実のことばかり考えるのはやめにする。決めた。それが果たして仕事のことだとしても楽しみな予定だとしても。
だけど、考えてしまうことを考えないようにするのは難しい。いまだって、眠るときはだいたいYouTubeを流している。雑音がないと、なにかで気を紛らわせないと、眠れない。

そういえば子どもの頃、1人で2段ベッドの上の階に寝転がって、怖いことをいっぱい思い出して眠れなくて(わたしは今でもすごく怖がり)、それで物語を考えはじめたのだった。主人公はわたしだけど、わたしがわたしじゃない誰かになって、魔法を使ったり恋をしたり、戦ったり歌って踊ったり。「わたし」は毎晩毎晩少しずつストーリーを進めていって、最後には死んでしまうこともあったし、ハッピーエンドになってさよならすることもあった。そのままいつしか一人称小説を書きはじめて、今に至る。そんな感じだったそういえば。

ということは、だ。眠る前に物語を考えればいい。簡単なことだ。幸いなことに11月には締め切りが2つもあるし…。久しぶりに、わたし以外のわたしになりきってみようじゃないか。あの頃より随分大人になって、少しだけ恥ずかしいけど。大丈夫、頭で考えているだけなら、誰にもバレない。お布団の中でなら尚更だ。

物語を作り出せるという点だけにおいて、わたしのどうしようもない想像力は誇らしげな顔ができる。どうせ離れられないから、これからも一緒に生きていこうね。

それでは、いい夢を。おやすみなさい。

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